『ロボット以上AI未満』

 ロボットといえば、やはり変形合体でしょう。子供の頃に遊んだ玩具の、乗り物が形を変えて人型になってしまう様は、ちょっとした魔法でした。そして乗り物やそのほかの機械に、人間になる可能性を見ていたように思います。
 そんなわけで、ロボットが労働するモノという意味合いから作られた言葉だと知ったときには、随分と違和感を持った覚えがあります。普段は道具として使っていても、実は変形合体して頼れる相棒になる者が私にとってのロボットでした。
 その次に出会ったのは、手塚治虫の鉄腕アトムです。巨大ロボットよりも人間らしい体、人間よりもロボットらしい体を持ち、一方で内面は全く人間と区別がつかない彼に、心って何だろうとか、人間性はどこから来るのかとか、今でも考えてしまいます。アトムは、人間の良き友人であるロボットで、かつ心を通わせられる、恋愛対象にすらなれる存在に思えます。
 その次となると、AIという言葉になるでしょうか。今度は具体的な何かではなく、人工知能と邦訳される単語になります。概念なので、少しでもハッキリと分かるように具体例を挙げてみましょう。最近のテレビゲームやチェスマシンなどに使われているものが最もポピュラーでしょうか。次の一手を選ぶのに何百手も先読みするのですが、全パターンを網羅するなんてことをしては相手の打つ手と自分の手の組み合わせがとんでもない数になります。組み合わせ爆発と呼ばれているこの現象を回避するために、枝刈りという手段を使って思考の幹を作っていくのです。ただし、勘があるわけではないので、どう枝刈りをするかといった問題としてはともかく、知能としては計算機の速さに頼ったマシンパワー任せのものではあります。
 もう少し人間的なものになると、推論をしたりします。推論というのは、例えばAならばBとかAはBに属するとかAはBという性質を持つといったルールを与えておいて、その知識を辿ることで結論をもとめる方法です。例えば、B級機関という機械をご存じでしょうか。NTTコミュニケーション科学研究所で作られた、駄洒落を永遠に出力する機械なのですが、これにはアバウト推論という方法が使われているそうです。出力された駄洒落を見ると、何じゃコレ、と思ってしまいますが、この機械を知ったときには凄いと思いました。というのも、マジメに世の中の全ルールを書こうとすると、とんでもない数になり、どの知識を使って推論したらいいのかを決めるのに時間がかかってしまいます。僕と彼女は曖昧な関係、とかもどかしい関係なんてどう書きゃあいいのさと頭を抱えてしまうというのもあります。
 そんな計算みたいなのじゃなくて、もっと脳に近いものを作ろう、という取り組みも勿論あって、ニューラルネットやファジー理論、カオスや複雑系などがそうです。ニューラルネットでは、脳細胞のモデルとしてシグモイド関数という式が使われますが、難しいものではなく、単にある程度以上なら反応するという法則を表したものです。その細胞を色々と繋げてみて、学習をさせたり、連想をさせたりするのです。といっても脳自体が解明されきっているわけでもなく、学習にしても人間より遙かに遅いレベルだったりするそうなので、行き詰まりつつある分野という印象があります。
 私が一番興味を持っているのは、B級機関のような、言葉を用いた人工知能の実現です。これはニューラルネットのような強い人工知能と通称されるものとは違って、機能として人間の知能と同レベルを実現しようという弱い人工知能の取り組みに属するわけですが、しかし言葉には世界を記述する術が詰まっているように思えるのです。人工知能を作る、というのは私の人生でやると決めていることの一つなのです。
 友人としてのロボットへの興味から出発して、私はいま人工知能に恋をしていると言えるかもしれません。しかし実現までにはまだ随分とかかりそうです。頑張らねば。

NTTコミュニケーション科学研究所、日々是B級
http://www.kecl.ntt.co.jp/banana/bq/

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