書評 『十三妹 著/武田泰淳』

 いつかどこかで、何かのネタに使おうと思っていた小説である。なにしろタイトルが十三の妹だ。十三を人数と取るか年齢と取るかはお任せする。そういう小説ではないからだ。本書は中央公論新社から二〇〇二年に文庫として刊行されているが、元は朝日新聞に連載されており一九六六年に刊行されたものらしい。著者は昭和五十一年に没している。実に私の生まれる七年前となる。著者には戦時下での中国体験があるそうだ。以上が本書の基本的なデータとなろう。付け加えるならば解説と註釈が田中芳樹、カバーイラストと挿絵が鶴田謙二の手になる。正直に言えば、私はカバーの美しさに釣られて手にとり、数行を立ち読みし、解説者の名前を確認したら、買わずに済ませるわけにいかなくなった。
 解説には「日本人によって書かれた中国武侠小説の先駆」とある。そして要所に描かれた挿絵には一人の女性が居る。彼女の名前が十三妹なのである。読みはシイサンメイ。実の名ではない。
 十三妹は安という家に居る。彼女は安家の息子の第二夫人であり、第一夫人には「おねえさま」と呼ばれ、同居している第一夫人の両親や夫の両親からも信頼されている。なにしろ武侠小説の主人公なのだから強い。そして同時に美しいのだから。
 ストーリーとしては十三妹の夫が国家試験を受けるまでが書かれているが、それに絡んで主に二人の任侠が活躍する。一人は十三妹、もう一人は白玉堂という男だ。この二人が安公子(安家の若だんな)を軸に、影に日なたになって現れる。あるときは十三妹が安の家を襲った泥棒たちを見事に片付けてしまい、またあるときは白玉堂が安公子の旅に顔を出す。十三妹の目的は安公子を守ることで、白玉堂の目的は安家に収まってしまった十三妹にちょっかいを出すことだ。一方で安公子はといえばお坊ちゃんゆえか気楽なもので、しかし十三妹に助けられてばかりいることと彼女の夫であることの両立に苦しんでもいる。ある夜、十三妹と白玉堂は刃を交える。これほど緊張感と美しさをもった戦闘の描写を私は見たことがない。
 惜しむらくは続編がもう出ないということだ。

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