『FALL DOWN』

 思春期になると焦りはますます加速した。それは自分の世界の狭さ故だった。確かにテレビやインターネットから受けることのできる情報は膨大だ。でもそれらの情報はどこまでも間接的であり受動的だ。自分が世界とつながっているという実感がわかない。自分が世界を回す歯車のひとつであり、世界にとって必要であるという実感を得ることができない。
 直接的かつ能動的に動こうと思っても、僕の世界はあまりに狭すぎた。バイトもしたこともないし、真剣に勉強したこともない。そもそもなにかを本当に欲しがるということがなかった。
 僕に自分などとというものはなかったということにそのとき初めて気がついた。僕の全ては劣化した模造品でできていて、それを劣化させたのはほかでもない僕自身だった。僕にとっては他人からの借り物すら重過ぎたのだ。
 それを理解すると同時に、頭の片隅で何かが落ちる音がした。歯車が脱落して機構が崩壊する音。高いところから何かが真っ逆さまに落ちる音。

 その音がやんだ後、僕は安らかな気持ちでパソコンの前に座り、いつものようにネットサーフィンを始めた。
 自分の欲しいものを、世界から掠め取るために。

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