『THE THEORY IN THE DARKNESS』

 結び目の法則について考えながら夜道を一人で歩いていた。鳥の鳴き声とも泣き声ともつかないか細い音が反響。ようやく法則が収束に近づいた、と思った瞬間に、肩を叩かれた。わたしは驚いて二センチほど身体の重心をずらしてしまった。反射的に後ろを振り向くと、そこにいたのは女だった。年齢はわからない。ただ異様に長い前髪が眉毛のところまでかかっている。女は無言でわたしの右手を取った。ひんやりと冷たい。わたしは自分の手を見て驚いた。こぼれてる、と、今鳴いている鳥のような声で女は言った。実際、こぼれている。右手の薬指、白いマニキュアを紫の液体が濡らしている。点々と下の地面に染みを作っていた。たましい、と、女は呟く。タマシイ? ……魂。わたしのタマシイがこぼれている。……
 ――ふと気付くと女はいなくなっていた。地面の染みはもうだいぶ広がった。わたしはそのタマシイをこぼれたままにしておく。それで、早く家に帰って冷えた葡萄ジュースを飲もうと思う。タマシイを補充するのだ。何か可笑しくて、一人で笑みをつくってしまう。でも、歩き出すわたしのなかで、結び目はほどけて、多分永久に、法則は拡散したまま。

| トラックバック (0) | コメント (0)

この作品をはてなブックマークに追加はてなブックマークで感想を書く