『WHITE ROOM』

「死ね」
 極めてシンプルで、殺意をこれ以上はないというほどに凝縮された言葉。博士はその言葉に自ら従うように、自由の女神を模した卓上ライターを振り下ろした。被害者たる彼の妻、最後までその身に何が起こったのかを理解しないままに絶命した。
 必要最低限のものしか置いていない、研究室に血飛沫が舞う。頭蓋を大きく陥没させた夫人は、半秒ほど人形のように立ち尽くした後、やはり人形のように崩れ落ちた。
 博士は大きく息を吐いた後、妻の亡骸を始末するための支度をしようと振り返った。
「……誰だ、貴様は。そこで何をしている」博士は吐き出すように言った。
 博士の目の前には夕賀恋史が立っていた。白衣の探偵は、亡き夫人の返り血で赤く染まっていた。
「探偵ですよ」夕賀恋史は死者を悼むように、博士から目を逸らした。「私はメタ探偵、事件が起こる前にそれを解決することすらできるメタ探偵。しかしこの場合は――この場合は、仮令、貴方を止めていても夫人が貴方を殺してしまっていた。いくら私でも、臨界点に達した殺意ばかりは……防ぎようがない」

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