詩『春を愛する人』



春風

 ペットボトルのお茶を一口
 CMの合間に食器を濯ぐ
 時計を合わせてもう大丈夫
 シャープペンシルを一本買った
 薬の数がまた一つ増えた
 音楽が変わる前にお酌を
 前髪が邪魔なのは仕様で
 プロモのように光線は最高
 虫が、湾を、飛び越えていく
 何もないような何も知らないような
 飛び出た答は、大して面白くもなく
 飛び出す乳首は、まるで不似合いで
 この場には相応しくないらしい
 階段は未だに一段抜かしな訳で
 環境は虹を越えて
 夏になれば自ずと判る




ソラリア(空理亞)

 仄かに馨る雨の残り香
 抱き締めるように引き寄せた
 それでも空は変わる筈もなく
 一度架かった五色の虹は
 光が途絶えてしまうまで
 決して消えることはないだろう

 此処に転がった使い掛けの消しゴムを
 君の眼の前に捧げ上げたとして
 既に欠けている角はそのまま
 薄く掛かった透明なビニールを
 黒から留めに書き直してみよう
 未完成な詩歌の細切れを
 織り込むように一つに束ねる今だから

 放って置いたラジオのスピーカーから漏れる
 人生に砕けた誰かの言葉が不可思議
 ラインは、診断書に記してある通りで
 冷たく過ぎる真夜中の隙間風が
 左側にゆっくりと 掠めて躰に響く
 時が流れる 人が変わる 今を忘れる
 音が消える 光が遠退く 熱が冷める

 執着は、抜かるんだ泥のように纏わり付き
 忘却は、乾いた砂のように一息に吹き飛ぶ
 空白は、虚ろな灰のように生きてゆくだけ


 それでも未だ、生きてゆくだけ――




遊星X

 特別な何かよりも 普通に溢れた明日がいいね
 黒い夜を覆う 赫や蒼や銀やグレイの遊星達は
 白く輝くことを忘れたように、色取り取りに瞬いている
 割れた人差し指の爪から ほんの少しだけ血が滲んだけれど
 そんなことは全然気にしないんだ 気にしないんだ
 盲目の人にも見えるように 僕はそっと触れているんだろう
 昼は埋め尽くされた光の所為で見えないものが
 きっと今なら君にも見える筈だよ
 目を閉じて 心を開いて 頭を停めて 胸で感じて

 今そこにある 赫い連星は
 彗星の尾を引いて涙に変わる
 光と音と熱だけがあるその場処は
 何処迄も心地良くて楽しい




絵空

 絵に

 少しずつ流れていく雲の狭間に
 薄く残った空色の青が
 向こうにある光に怯えて
 又 心を震えては言葉を濁す
 交わした声の後に響いた
 白くて苦い過去を想うと
 飲み込んでしまうことも出来ずに
 唯 舌の上で弄んだりなぞったり




サックス・アジテーター

 笛を吹くように進むよ
 喉を鳴らすように歩くよ
 木枯らしに肩を狭くするけれど
 それは大きな問題じゃない
 サングラスを掛けたまま
 夜道を走る位のことで
 宇宙飛行士にはなれないのです

 蝶々が吐いた空気のように
 赤いリボンが付いています
 角を尖らせたパーカーを着て
 春から夏に逃避行
 十字に交じる赫と黒的白
 ゼブラー
 萌えないゴミの燃えない属性
 消えない陰の着得ないスーツ
 音もお供に 映画の栄華
 猿真似している 誰かのスタイル
 知らない内に 大化の改新
 「財前教授の総回診です」

 今日は未だ 廻って来ないけど




風縫い

 十年前に落とした万年筆の刻むリズム
 黄色い翼が羽ばたくように
 蕩けた波間が悪意を蹴散らす
 眠り忘れた瞼が囁く
 生命の灯火 押し隠さないようにと
 空白を余白に変えていく
 言葉を持ったヴェルヴェットの涙の雫
 電波を伝って君の頬に流れる
 銀の首輪が鈍く軋んで
 止められないと僕は云う
 空に飛び立つ風を纏って
 雲の谷間に息吹を縫い込む
 盲目を誇る深紅の海に
 崩れていくのは未来の膝元

 もう直ぐ明ける窓辺の朝は
 光を飲み込み 絶望を吐き出して
 それでも泳ぐ
 彷徨う
 駆け抜ける




この青が君ならば

 この青が君ならば どんな言葉が似合うだろう

 この青が君ならば どんな景色が映えるだろう

 この青が君ならば どんな時間を過ごすだろう

 この青が君ならば どんな笑顔を見せるだろう

 この青が君ならば どんな音楽が聴けるだろう


 東京に降るこの雨も 北の夜空で瞬く星も
 南の川で流れる水も 西の海を揺蕩う波も
 今此処にあるのなら 光輝く藍になるだろう

 logicなんて関係ないよ lyricなんて気にしない
 trickなんて出来ないし magicなんて使えない

 何にも出来ない 何処にも行けない
 そんな普通な 普通な僕ら
 それでも生きていけるなら
 二人肩寄せ 青を抱いて




シ人の宴

 もう直ぐ死を迎えると云うのに 僕は未だに詩等を詠んでいる
 最早どうでもいいような気持ちを言葉に乗せて
 inなる陰を韻で印して
 残り一枚になったボックスティッシュの情けなさのように
 冷房の風に揺らめく 首筋 血筋 背筋 上腕二等筋

 涙なんて幾らでも出せるけど 声に出したら瞳が妨害
 雹や霙や雪だとか 雨冠の諸々が
 電波の流れを遮断して 時に無様な砂嵐

 十字架を背負って 丘を下るように転げ落ちる
 一度は祓われた筈の原罪をもう一度受け容れるように
 受け容れざるを得ないように
 音楽と共に走り抜ける


 27迄は 未だ4年程ある訳だが




裏メロ

 おもちゃ屋の帰り道 風船が飛んでいた
 道化師もそのままで 僕だけが見詰めてた
 花咲く丘紡ぐ 夢舞う虹七色の蜃氣樓
 畳さえも蒼く映える 誘惑の放課後

 埃っぽい部屋の中 何時までも動かない
 白塗りのマイク立て セーターは手編みじゃない
 逆さの自転車 哀しみを糺す時計仕掛け
 水槽から鈍く冴える 憂鬱のknife or night

 訝しいなら可笑しいと嗤って欲しい
 仮初でもいいなら 溺れてゆくだろう
 イカれた肌 染め直し 繰り返す
 束の間でもいいから 狂々狂々……




ウソツキの倫理

 優しい恋の残り香を ふっと雨の雫が流してく
 歩き疲れた足元にも 同じ虹が架かるだろうか
 開いた花弁 延びてゆく長い影
 何処まで届くだろう 夕焼けに

 どうしたらいいの 君の声が呼んでる
 どうしてもいいの 指先が支えてる
 遠くてもいいよ 何も聴こえなくても
 通して欲しいよ 何も云わなくても

 赫い夢が破れた日にも ちょっと等身大の鏡が笑う
 細めた眼差し気に掛けて 鈍いナイフを充てるようさ
 飛ばした誘惑 触れられぬ甘い罠
 何時まで待てるだろう 真夜中に融けていく

 どうか気紛れ 忘れて涙




シロリアンBLUE

 涙を流す暇があるなら 走り去って仕舞うでしょう
 途中で涙が零れても 誰にも見付からないように
 チョークで描いた白線のように 直ぐに擦れて消えてしまう
 あなたでも
 踏まずに越さずに きっと私は守ることでしょう
 「百年」なんてケチなことは云わずに
 千年万年一億年 一緒にいたいと願うのです
 星の瞬きが途絶えてしまっても
 共に宇宙の塵となり 永劫の彼方を駆け巡る

 冷たい朝は 何もかもを薄れさせてしまうけれど
 誰かに触れられる温かさを待っている
 凍えて震えるあなたの指を 掴めばそこに熱が伝わる
 涙は頬を伝い 熱は掌を伝う
 忘れて 忘れないで
 愛して 愛さないで
 話して 話さないで
 放して 放さないで




緑の球体

 続けて綴る万葉の仮名と真名
 乾かぬ服はそのまま捨て置け
 弾いて やはり気紛れだろう
 波打つ皮膚が好色のよう
 白塗りに繕って綻びを曝して
 反射する霧は髪を彩る
 見たこともない咲いたこともない花が
 夢の国のように活力を誇るよ
 そんなにしなくても星はあるし
 季節もきっと巡るだろう
 灰色の風が吹いたあの日のことは
 今でも決して忘れやしないけれど
 あなたを愛するこの気持ちには
 勝てるような気がしない




病垂れ

 69年みたいな引っ掛かりもなくて
 特に凡庸は板に付いている
 逆を行くことも真っ当に進むことも
 飽き尽くされていることすら既にベタで
 もう核戦争の後のような荒れ野しかない
 それでも水を撒き続け
 光を照らし続け
 不幸と云う名の種を育てる
 双葉が出たならご喝采
 ゆるやかな停滞にも似た滑空は
 何処かで観掛けたCGアニメのようで
 あまりの気持ち悪さに最早吐き気すら催さない
 爪の間に出来た血溜まりが
 まるで自分のように愛おしかった
 ソファもなければ椅子もない
 それならいっそ 人間もない
 あるのは何時も
 何時もの夜だけ




オッカムの剃刀

 戸惑うばかりに聞こえ続ける
 「愛して」「殺して」「赦して」「助けて」
 それを真顔でやり過ごすのも
 必死になって掴み取るのも
 どうせ時代の流れには勝てない
 海沿いを駆ける二輪の上では
 何時もよりずっと素直になれる
 渇きも知らない僕達だから
 失くしていても気付くことはない
 奪っていても素知らぬ素振り
 見えなくなった過去の未来を
 消えなくなった傷に縛られる
 殴ってしまいたいけれど
 そうそう硝子は砕けてくれない
 アンフェアすれすれの人生だけれど
 それでも何時かはきっとオチが来る
 どんなオチかは知らないけれども




春待てど

 どうしようもない苛立ちや
 抱え切れないような不安なんて
 最近めっきり感じなくなって
 それでもいいかなんて想ったりして
 それでもいいかって判った振りをする
 心に薔薇を君には愛をなんて
 何年前にか忘れてしまったけれど
 欠ける海と満ちる空を見続けると
 同じようにやっぱり涙は流れる
 人間なんてそう簡単に辞められやしないし
 オゾンで守られている僕らだから
 お別れの言葉は未だ早いよ
 ギターの音は遠く遠く
 遠くまで響いて
 紅く上気した唄顔は
 最後のニュースを伝えてくれる
 マイクが光を捉えて散らす
 そう 夕方は未だ始まったばかり

| トラックバック (0) | コメント (0)

この作品をはてなブックマークに追加はてなブックマークで感想を書く