『積読にいたる病 第弐回』

『積読にいたる病 第弐回』

著/踝 祐吾


 暑は夏い。
 ああ、しまった、いきなり暑さにやられて書き損じてしまった。とはいえ、この原稿をパソコンで記している以上、このような書き損じがわざとであるのは自明のことだ。夏もまだだというのにこの熱気。夏の度にこの調子では、年三回のエッセイ連載のうち、必ず一回は言っていることになる。確率にすれば三分の一だ。まかり間違ってこのエッセイが単行本になろうものなら、読者諸兄は三回に一回はこの背筋の凍るギャグを読むことになるだろう。夏はまだいい。冬場になるとたまったものではない。でも冬のことを考えられる余裕がないくらい、夏は暑い。
 しかしながら僕の部屋には扇風機を入れるスペースすらない。本とベッドがあればそんなものを入れる余裕なんてなくなるではないか。何しろ将来書庫を造ろうと画策している人間である。仕方ないので精神的に涼しさを感じるしかない。しかしながら僕はホラーが苦手だ。なので僕が今回ネタにするのは『食卓にビールを』(小林めぐみ・富士見ミステリー文庫)である。そっちの涼しさかよ。

 読書と飲酒というのは結構相性がいい。とはいえ、二十歳以下の読者も結構いる中でお酒の話をするのもどうかと思うのだが、それはご愛敬ということで。逆にのんべんだらりとなってそのまま読書に入れる人がいたら見てみたい。いや、いるかもしれない。たぶんいるんじゃないかな。ま、ちょとは覚悟しておけ。その覚悟された人にはついついウトウトとしてしまう人もいるはずである。場合によってはネットなんかやり始めちゃったりする人もいるかもしれない。結果、エディタの画面をすごく遠い目で見ることになる。なんか漢字とひらがなの羅列で文字が浮かんできそうな雰囲気だ。確かこんなトリックがどこかのミステリにあったような気がするけど、アスキーアートと化して世間のどこにでもころがっていそうだから一概には言えない。
 実際お酒の出てくるミステリというと枚挙にいとまがない。たとえば前回もご登場いただいた高田崇史さんの「QEDシリーズ」は歴史の裏側に隠された謎と現実の殺人事件を同時進行で解き明かす歴史ミステリだと言われているが、主人公がことあるごとに酒を持ち出してくる描写があったりして、僕自身歴史ミステリではなく飲酒ミステリだと思っている。また、西澤保彦さんの「タック&タカチシリーズ」は飲めば飲むほど推理が冴えるっておまいは酔拳かと思ってしまうようなものすら存在する。でも酒を飲めば飲むほど逆に頭がさえるヤツって……いるんだよな、本当に。
 ……では、酒飲みミステリがあるなら酒飲みSFもあるんじゃないだろうか?
 今回ご紹介する『食卓にビールを』はまさしく酒飲みSFである。前置きが長くなってしまったが、このエッセイ(コラムではない)は『ひとつの本をダシにしてひたすらネタを解き放つ』というコンセプトのため、その辺は全く気にしてはいけない。

 で、本作は酒好き謎好きの女子高生作家が変な宇宙人騒動に巻き込まれる連作集である。この説明にはいろいろな誤解があるが、そう思う人は読んでくれ。ちょうど富士見ミステリー文庫が「KILL LOVE!」とか言い出したあたりの作品である(何か違う)。いつの間にか三巻だか四巻だかになっていた気がするが僕には全く記憶がない。
 いろいろ誤解があるだろうが、おそらく共通項は「この本を読むとビールが飲みたくなる」ということだろう。よく言う「本屋に行くとトイレに行きたくなる」と同じ原理である(訂正は受け付けません)。
 『食卓にビールを』が飲み小説だとするなら、飲み漫画なるものも結構あったりするわけで、『BARレモンハート』や『酒のほそ道』のような正統派漫画もあるが、僕の本棚にあるのは『平成よっぱらい研究所』(祥伝社文庫)である。コレを描いているのは『GREEN』『天才ファミリーカンパニー』などのヒット作を持ち、現在『のだめカンタービレ』で大ブレイク中の二ノ宮知子さん。彼女が周りの愉快な仲間たちと呑み、暴れ、酒に飲まれる姿を描いているが、むしろこういうのは呑み友達に読ませた方が良いかもしれない(教訓として?)。モノを無くすのは勿論のことだが、怖いおじさんも酒を飲ませりゃ呑み友達になる、いわば『酒は天下の回りモノ』を体現したようなエッセイコミックになっている。それ以上に師匠と呼ばれる若林健次氏の酒豪っぷりには目を見張るモノがある。一升瓶なんか平気であけてしまうんだろうなぁ、と思えるほどの飲みっぷり。ちなみに文庫版には『飲みに行こうぜ!』という名の傑作飲み会マンガもあるからちょっとお得だ。……難点は、その表紙に引いて買いにくいことだろうけれど(苦笑)。
 で、飲み小説ばかりを挙げていっても酒が飲みたくなるだけなので(もう飲んでるが)、そろそろ軌道修正しよう。

『積読にいたる病 第弐回』 別に小説に限らず、日本人では「ノミュニケーション」なるものが存在して、喜んでは祝い酒になり、怒ってはヤケ酒になり、哀しんでは弔い酒になり、楽しんでは酔っぱらいになる、という何とも楽しい構図が見られるのである。
 んで、僕の周り事となると、本好きの人の飲み会反応を見ると、大きく二種類に別けられたりする。全くの下戸で飲み会ではひたすら語る人と、大酒飲みでとにかく飲みまくる人とである。ちなみに僕は前者でも後者でもなく、酒は決して強くないけど一度飲み始めるとエンドレスで飲みまくり、結局大変なことになってしまう人である。実はこういう人が一番厄介なんだけどね。
 一番見ていて面白いのはやはり「飲むと大暴れする人」である。問題はこういう人は油断すると路上に寝転がり始めたり周りの人に絡んだり(大抵は何故か異性を口説きだしたりする)して、見てる方は結構おぼつかなくなったりするのである。果たしてこんなんで本当に大丈夫なのだろうか? 変なことに巻き込まれたりしねぇよな? という心配をよそに、本人は○○したり××したりとやりたい放題しているわけです(てか、こういう人たちは分別という物が存在するのか? まぁ、あったら周りの人は苦労しないわけだけれど)。
 少なくとも暴れはしなくとも、飲み出すと人は饒舌になる。あるいは全く喋らなくなる。僕は基本的に前者の方なんだけれど、周りにさらに輪をかけて饒舌な方々ばかり集まるので、時間が経つにつれて全く喋らなく……というより喋れなくなる。コミュニケーションが普段から下手なヤツはこういうところで苦労するのである(これはおそらくコンパのときにも同じ事が言えるのだろう)。そんなわけで、コミュニケーションが苦手な方がコンパを行う時には、周りの人選をよく考えた方がいい。自分が主催のときは「こいつらなら俺は勝てる!」という人選をした方が良いし、逆に誘われた時は大抵自分は帳尻合わせに来ているようなもんだと考えてとっとと帰ってしまう、というのも一つの手かもしれない。まぁ、トイレに立った振りをして自分に対する相手の評価をこっそり聞いておく、という方法でその後の身の振り方を判断することも出来るが。なんにせよ、飲みたくもない酒を飲むことほど精神衛生上好ましくないことはない。
 じゃー飲まなければいいじゃないか、という話もあるかもしれないが、そこにはかの島本和彦御大の名言で答えておこう。
「それはそれ! これはこれ!」
 こういうことでもないと酒を飲めない僕みたいな連中にとっては、むしろ機会があること自体が重要であり、暇と金さえあれば飲んでいるかもしれないっつー困った傾向にあったりするのだ。
 以上を考えると、酒を飲むこと自体は生物の基本欲望と言える「食欲」「性欲」「睡眠欲」の三大欲望とも違う、社会欲に分類されるのかもしれない。元来、日本には「御神酒」という神からもたらされた命の雫みたいな物をみんなで共有するという文化があるし、パリでは水が飲めないから代わりにワインを飲むという文化があるらしい(それはちょっと違うぞ)。
 つまり、酒を飲むということは、人間が人間たり得る、あるいは他人同士のコミュニケーションを円滑に進めるための有効な道具でもあるのだ。お互いが酩酊状態にあることによって、精神の中に作られていた壁が取り払われ、友好関係を築き上げることが出来るのだろう。それ故に昔から数多の作品に飲酒の様子が描かれ、人々の憩いを描くガジェットとして存在してきたのだろう。
 ……という風に書くと凄いお堅い結論になるかもしれないが、お堅い話をしたいが為に僕はこの文章を書いているわけではない。要は飲みたい時に飲むのがいちばーん、ということだろう。僕だって突然一人になって飲みたい時もあるし。残念なのはここ最近会社の人とか家族とかでしか飲む機会がないことである。んー、誰かかぁいい女の子とか紹介してくれないかなぁ。出来れば岩手県内で。なんだその相当限定した条件は。県内に「回廊」を読んでいる人が何人いると思ってるんだ(意外といるかもしれないけど)。
 まぁ、その別に食卓にビールでもいいしテーブルに酔っぱらいでもいいけど、単純に酒を通してとりとめのない会話をするのが一番なのかな、と思った二十四の夏でありました。そんな感じで、今回はおしまい。

おまけ(8/16追記):気がついたら、『平成以下略』のカバーが変わっていた(amazonは前のカバー)。やるな祥伝社。


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小林めぐみ (著)
文庫: 237 p ; サイズ(cm): 15 x 11
出版社: 富士見書房 ; ISBN: 4829162678 ; (2004/08)
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二ノ宮 知子 (著)
文庫: 278 p ; サイズ(cm): 16
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