『なぜ眼鏡は属性と成り得たのか。』

著/水池 亘


 このコラムでは、眼鏡が現在のように広く浸透する強力な属性(*1)になった理由を、人間の脳の仕組みなどと絡めつつ考察していこうと思う。理論を明確にするためにあえて無視したり極端に論じた部分が多々存在するが、ご容赦いただきたい。

 そもそもあたりまえのことであるが、眼鏡は視力を矯正するための道具に過ぎないゆえ人間の性質など表すはずはないのである。他の属性、例えば妹属性ならば(いろいろありつつも)結局はお兄ちゃんが好き、幼馴染属性ならば相手を意識しつつも恋愛関係までは踏み込めない、などとその属性を持つ人物を推測することができる。今話題のツンデレ属性(*2)にいたっては性格そのものをずばり指し示している。しかし眼鏡属性はどうか。おそらく推測された性質は十人十色であろう。委員長キャラや女教師キャラなどを推測する方もおられようが、それらはすでに別の属性として機能しているものであるし、眼鏡属性がそれ単体で特集を組めるほどに一人歩きした現状を鑑みるに、それらを推測するだけではまったく十分ではない。実際、現在様々なメディアに登場する眼鏡属性を身につけたキャラクターたちの性格はまさに千差万別である。
 また、それまでは眼鏡をかけていなかった人物が眼鏡をかけた途端に人気が出る、などということも現在では珍しくない。眞鍋かをりブログがブログ至上最大のトラックバックを得るようになったきっかけは、眼鏡をかけた一枚の写真であった。
 これらの事実から、もはや眼鏡属性が、それを見につけた人物・キャラクターの性格などから離れた、単体で通用する属性になっていることがわかるだろう。
 それでは、なぜ眼鏡はここまで強固な属性を獲得するに至ったのだろうか。

 ここで一旦眼鏡から離れ、人間の脳、特に記憶の仕組みについて論じたい。
 人間は産まれてから現在までの全ての記憶を保存している、と言われることがある。そんな馬鹿な、と思われるかもしれない。しかしこの意見、実はある種の真実を突いているのである。
 内観法という自己探求法が存在する。これは研修所に一週間宿泊し、その間誰とも話さずどこにも外出せずただ自らの過去についてひたすら思いを巡らせる、というものであるが、これを行うと50代、60代の人間でさえ、まったく忘れていると思われていた少年時代の出来事をかなりの範囲まで思い出すことができるという。(*4)
 このような話を考えると先の意見も俄然信憑性を帯びてくる。人間の全ての記憶は無意識の中にしまわれていて、じっと引き出されるのを待っているのである。
 脳医学的にもこの考えは大体真実であろうと言われている。そう考えることで、様々な現象を解説することができるからだ。
 一つの例として、ひとめぼれについて考えてみよう。
 多くの人はひとめぼれを、理由のないどうしようもないものと考えているのではないだろうか。しかし実状は違う。ひとめぼれはしっかりとしたメカニズムのある、説明のつく現象なのである。
 人間は今まで知り合った人物一人一人をある種のデータとして記憶している。つまり名前と顔と印象を結びつけひとまとまりにして、無意識下に保存しているのである。人が誰かと初めて出会ったときに生まれる第一印象は、実はこのデータの集合体から作られている。無意識のうちにその人物と顔や体格、名前などの似ている人物を検索し、符合する何人かの人物の印象を総合して第一印象が決定されるのである。
 このメカニズムを考えればひとめぼれも説明がつく。検索された人物の印象が良いものばかりであるとき、例えば昔片思いしていた女性などが含まれていたりしたときに人はひとめぼれをするのである。だから好きになる人物の性質が似通ってしまうのもあたりまえだと言える。過去に好きになった人物のデータに影響を受けて人は誰かを好きになるからである。

 お気づきだろうか? そう、人が何かの属性を好きになるメカニズムはひとめぼれのメカニズムとそっくりなのである。
 つまり、人が何かの属性に引かれるとき、それ以前にその属性を持った人物あるいはキャラクターを好きになっているはずなのである。もちろんその時点では属性に対して何の感情も抱いてはいない。属性とは違う、何らかの理由で好きになった人物・キャラクター(以降『キャラ』)がデータとして無意識下に書き込まれるとき、その人物の持つ属性(特徴)と好ましい感情が結びつき、それが後に同じ属性を持つキャラクターを見たときに表面化して、結果属性に萌えるという現象が引き起こされるのである。
 すなわち属性愛の裏には必ず、何かを愛したという“原初体験”が存在するのである。まず原初体験が存在し、その後原初体験の対象『キャラ』に似た要素を持った様々な『キャラ』を経て段々とデータが増え、それに比例してその要素に対する愛情が増えてゆき、最後には晴れて立派な属性愛を得るわけである。しかもそれらは全て無意識下で行われ、意識の表面へ現れるのはただ好きだという感情のみであるから余計「自分はその属性が好きなんだ」と思い込みやすい。ある種の勘違いだとも言える。人は勘違いして属性を愛するのだ。
 もしあなたが何らかの属性を愛しているならば、自分が好きになった、その属性を持つ『キャラ』を逆時系列順に思い出していってほしい。そのようにして過去へたどっていけば、自分がその属性を好きになったきっかけの『キャラ』に突き当たるだろう。それが原初体験である。
 もちろん原初体験は複数でもかまわない。それらが複合して属性愛に至ったと考えればよいのだから。むしろそのほうがあたりまえかもしれない。あるいは、幼少時代などのすぐには思い出せないほどに過去の体験である可能性もある。トラウマになっていて思い出そうとすると脳が拒否反応を起こす場合もあるかもしれない。そのような場合でも、先に述べた内観法などを利用して深く自己へ潜っていけば必ず原初体験は発見できると思う。
 一つの例として僕の場合を挙げよう(実を言うとすごく恥ずかしいのだがほかにサンプルがないのだから仕方がない)。僕の好きな属性はろりぷに属性(*5)で、原初体験はおそらくククリ(*6)である。シルバー王女(*7)で決定的になったので、これも原初体験に含めることができるだろう。

 さらに、このメカニズムを原初体験そのものに当てはめることも可能であろう。僕の場合で言えば、シルバー王女はろりぷに属性を好きになった理由としては原初体験たり得るが、“なぜ”シルバー王女を好きになったのか考えるとき、さらに過去へ遡ることができる。シルバー王女の特徴をろりぷにのほかに抜き出せば、わがまま、元気、明るい、向こう見ず、天然ボケ、などが考えられる。これらの要素について先ほどのメカニズムを当てはめ過去へ遡る。元気、明るい、天然ボケなどはククリへとつながるので、少なくともククリが好きだったという体験のデータがシルバー王女を好きになった要因の一つであることは間違いない。では“なぜ”ククリを好きになったのか?
 このようにしてずっとずっと遡っていけばあるとき、これ以上は遡れない、これが行き止まりだという真の原初体験に突き当たるだろう。それは例えば両親の愛情であるかもしれない。無条件で両親から愛を注がれ自分も無条件で愛し返している時期は、産まれてから、長くても小学校入学以前であろうから思い出すことは難しいかもしれないが、実際はこれが真の原初体験である人はおそらくかなりの数であろう(余談だが、親から愛されなかった人は他人を愛することができないなどとよく言われるが、このメカニズムから考えても、少なくとも部分的には真実だと思われる)。また、幼いころに読んだ小説や漫画などもあり得るかもしれない。幼年期の恋心もあり得るだろう。それらが複合していることだってもちろんある。
 そのようなときの無条件の愛情、そしてそれを注いだ相手こそが真の原初体験であり、その後の自分の愛の志向性を決定付ける大きな要因となるのである。
 人間は、自分で考えているよりも遥かに論理的な生き物なのだ。

 少々話がそれた。眼鏡属性が生まれた理由を説明するだけならばそこまで深く考える必要はない。話を簡単にするためにも、単なる原初体験までに話を戻そう。
 今までの記述によって属性、特に人の性質を表さない属性に対する愛情が成り立つ理由は説明できた。それではなぜそのような様々な特徴の中で眼鏡だけが強力な属性を獲得できたのだろうか。
 それも上記のメカニズムから説明可能である。
 まず、眼鏡は顔を形作るパーツとしては明らかに目立つ。生まれ持ったものでない、異質な人工の道具が顔の上半分を陣取っているのだからあたりまえである。たとえある人物の印象が薄くても眼鏡をかけていたかどうかは割合簡単に思い出すことができる。眼鏡屋に行けば様々な眼鏡が服と同様のファッション感覚で陳列されている。生活に不必要な伊達眼鏡すらある。どれもこれも眼鏡が目立つからこその出来事である。
 それだけ目立つ眼鏡であるから、原初体験の『キャラ』が眼鏡をかけているとき、顔部分の主要パーツとして眼鏡が強調される形でデータになることは想像に難くない。
 そして眼鏡をかけた『キャラ』はいくらでも存在するのである。
 原初体験が眼鏡をかけた『キャラ』である可能性は高いし、そうなった後も眼鏡『キャラ』との遭遇率はきわめて高いのである。次々と現れる眼鏡『キャラ』を見ているうちに原初体験から段々と眼鏡だけが浮かび上がりはじめて、ついには眼鏡属性愛へと到達する。
 すなわち、他の身体的特徴を表す属性、例えば髪型に関係する属性(おかっぱ、ショート、ロングなど)などに比べて眼鏡属性だけが確固とした立場を気づいた理由は、
 ①眼鏡は目立ち、強く印象に残る。
 ②眼鏡属性を持つ『キャラ』の絶対数が多い。
の2点に絞られる。特に②が、日常生活になくてはならないほどに普及した眼鏡特有の性質であろう。
 眼鏡属性を愛する人物が増えれば当然彼らに向けて発信される眼鏡キャラクターも増える。それらを見てさらに眼鏡属性愛者が増える。そして眼鏡キャラクターも増える……といった具合に好循環が発生、元々多かった眼鏡キャラはさらにさらに増大し、ついには巷に眼鏡キャラが溢れかえるまでになったのである。

 このようにして眼鏡は属性となったのだ。

 もう少しだけ。
 もしあなたがこのコラムに興味を覚えたならば、自分の原初体験について思いを巡らせてみることをお勧めする。それは自分の歴史をたどる行為でもあり、無意識を解明する行為でもある。そもそもそれ以前に行為そのものが純粋に楽しいのだ。僕自身が楽しんだのだから間違いない。酒の席のネタになるなどのおまけもあるし、ここまで読んでくださった皆様にはぜひとも自らの原初体験を知る旅に出ていただきたく思う。

 大部分がハッタリで構成されている事実をどうか読者に気づかれませんようにと願いつつ、このコラムは終了する。



 *1 萌えキャラに備わっている固有の性質・特徴(はてなダイアリー - 属性とは より引用)
 *2 「普段はツンツン、二人っきりの時は急にしおらしくなってデレデレといちゃついてくる」ほどに、性格にギャップのある、主に二次元世界での女性キャラの属性(はてなダイアリー - ツンデレとはより引用)
 *3 参考:「メガネメガネメガネ!-眼鏡ブーム? いいえ、眼鏡というジャンルです」 ニュースな本棚|Excite エキサイト : ブックス
 *4 本文中の内観法は正式には『集中内観』と呼ばれ、ほかに『日常内観』がある。詳しくは 内観法 などを参照。
 *5 顔や身体が丸っこくてぷにぷにしている女の子。本来は10歳以下の少女に適用。(Ragna Archives Network より引用)
 *6 漫画『魔法陣グルグル』のヒロイン。
 *7 アニメ『夢のクレヨン王国』の主人公。

| トラックバック (0) | コメント (0)

この作品をはてなブックマークに追加はてなブックマークで感想を書く