『旧式ラジオ Vol.3』

『旧式ラジオ Vol.3』

著/遥 彼方


 さあさあ今回もやってきました旧式ラジオ! 大阪の果ての果てから私、遥彼方が、何かいい音探してる、そこのあなたにお送りします。
 このコラムでは毎回、私が「これはいいかもっ!」と思ったアーティストを一組、取り上げてご紹介していきます。初めは『回廊』発行月に新譜を出すアーティスト、というコンセプトだったのですが、締め切りなど諸々の関係でそれが困難になっちゃいまして、改めて方向転換です。よろしくですよー。
 さて、今回フィーチャーするのは、ハープを奏でる歌姫、ジョアンナ・ニューサム。
 実は前回の旧式終了後、「次は誰にするかなー、ジョアンナにしようかなー」などとぼんやりと考えていたところ! 十月にですね、最高のタイミングで来日が実現、十月二十三日には大阪でも公演が行われたのです。なので今回はそのレポも交えつつ、ご紹介していきましょう!
 八歳の時にハープを始めたというジョアンナ。二〇〇四年にシカゴのドラッグシティ・レーベルから、アルバム『The Milk-Eyed Mender』でデビューしました。今年はレーベルメイトのフォークシンガー、スモッグと共に、八月にはオーストラリア、十月には日本と方々にツアーを展開中です。
 その中で私が見に行ったのは、大阪は北区、JRの高架下にあるちっちゃいクラブで行われたギグでございます。暗くて狭くて入り組んでいて、その上時々頭の上を、列車が轟音を立てて通り過ぎていくという。あんまり音楽をやるのに最適な環境って感じではなかったのですが、狭いところ好きにとってはすこぶる居心地が良い所です。余談ですが、トイレが真っ赤なタイル張りですんごく格好良かったのと、ロッカーがぼこぼこの落書きまみれでかなり退廃的な様相を呈していたのが印象的でした(あれ使えたのかなあ……)。
 ステージは店の一番奥にありまして、そのあたりはもう押すな押すなの満員状態でございました。
 オープニングを務めたのは三田村管打団(吹く! 踊る! 歌う!! ワールドミュージックを中心としたレパートリーを持つ、神戸のインディー吹奏楽団)。彼らが退場したあと、しばらくしてからジョアンナがステージに現れました。それがですね、もう、かわいいのなんのって。ブロンドの髪は腰まで伸びてふわっふわだし、手足がとっても細くてきれいだし。「妖精」という表現がぴったりくるような可憐な女性でございます。何よりも笑顔が、ぱあっと輝くみたいで。いやはや、本当、あんなふうに微笑むことの出来る女性になりたいものです。
 そんなジョアンナの、音楽的な魅力のひとつはやはり「声」です。
 彼女の声には独特の幼さがあります。少女が懸命に声を張り上げて歌っているような感じ、それでいてどこか民謡歌いのような色合いと深さも併せ持っている、一度聴いたらなかなか耳から離れないタイプの声。初めて聞いた人はその声色の素っ頓狂さにたいていぎょっとするようですが、これが耳に馴染んでくると実に心地よいのです。
 もうひとつは弾き語りのスタイル。ジョアンナの曲にはパーカッションが一切、存在しません。例えば『Milk-Eyed Mender』で使われている楽器は全体でも、ハープ、ギター、ピアノ、ハープシコードだけ。その上一曲につき一種類か二種類の楽器しか使われてないんですよね。ジョアンナの楽曲はほとんど、彼女の歌声と彼女の弾き語る楽器の音色だけで構成されているわけです。
 その中でも特に多くの楽曲を支える、ジョアンナの相棒ともいえる楽器がハープ。
 ライヴでもほとんど全曲がハープによる弾き語りです。自身の背丈ほどもある大きなハープを肩に立てかけ、ジョアンナはリズミカルに弦を弾きます。さすがに年齢一桁の時から弾いているだけあって、彼女とハープの息はぴったり。見ているうちにだんだんと、ジョアンナがハープを弾いてるというよりも、ハープがジョアンナと一緒に歌っている、そんなふうに感じられてくるのが不思議です。
 そうして奏でられるのは、カントリーやフォーク、また童謡めいた色合いも帯びた明るく可愛らしいメロディ。
 アルバム『Milk-Eyed Mender』も、ほとんどがそうした優しい楽曲たちで構成されています。
 その中でも私が特に好きなのが『Sadie』。白いコートのセイディが、私を家へ連れ帰る、というそんな歌詞で始まるこの曲。テンポのよい軽やかなハープの音色とジョアンナの声が楽しく、優しいのにどこか切ないようなメロディに、不思議と癒されます。
 ちょっと異色なのが『Three Little Babes』。歌詞カードにtrad.と表記がある通り、これはアメリカの民謡なんですね。『三匹の子ぶた』といっても童話とは内容がずいぶん違います。騎士と一緒に暮らしていた美しい女性が、自分の飼っている三匹の子豚を、勉強のために遠くの国へ遣るのですが、三ヵ月と一日経った時、子豚たちはヒバリに連れ去られてしまう。そんな感じのストーリーでございます。この曲のエキゾチックなメロディを朗々と歌い上げるジョアンナの声に幼さはなく、凛として伸びやかで、またいつもとは違った一面を垣間見ることが出来ます。
 さてここで百文は一音にしかず、オンラインで聴くことの出来るジョアンナの曲をご紹介しましょう。
 ドラッグシティレーベルの公式サイト(http://www.dragcity.com/bands/newsom.html)では、アルバムの二曲目に収録されている『Sprout and the Bean』のPVをフルで見ることが出来ます。これがまたひとつの絵本のようで、本当に素敵なんですよ。黒板に描かれた森の中を小鳥が飛んだり、緑の美しい小川を、草の苗を載せたちいさな船が流れていったり。そしてジョアンナの服(アメリカの民族衣装?)がまたとおっても可愛い。
 またBBCのサイト(http://www.bbc.co.uk/dna/collective/A3212740)では、アルバムから『Sadie』『Peach, Plum, Pear』『Swansea』の三曲のライヴ映像を見ることが出来ます!
 気になった方はぜひぜひチェックしてみてくださいね。
 さてそんな感じで、今回はちょっとまったり進みました旧式ラジオ、いかがでしたでしょうか?
 次回も洋楽でいく予定です。引き続きリクエストも募集しておりますので、取り上げて欲しいアーティストがおりましたらお気軽に編集部までご一報くださいませ。
 今回ご紹介した音色が、皆さまのお耳に合うことを祈りつつ。
 冬も少しずつ深まり、クリスマスまであと少しですね。今年はコンサート等にも足を運んでみてはいかがでしょう? また素敵な音楽にめぐり合えるかもしれませんよ。というわけで、お相手は遥彼方でした。
 それでは!

                                             了

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