『積読にいたる病 第参回』

『積読にいたる病 第参回』

著/踝 祐吾


 この雑談も第三回。内外から「いい加減本の話をしろよ」と言われるようになった昨今、皆さんいかがお過ごしでしょうか。最近はなかなか文章を書く気力も起きず、収入も少ないので「のまタコ」にインスパイヤされた「タコー」というキャラクタを生み出して大もうけしようかと思っているところです。【丹】←こんなの。いや、嘘です嘘ですってば。人間お金の話をはじめたらおしまいですよ。てか、そもそも十二月になってこのネタが分かる人がいるというのか。時事ネタは難しいですね。
 そもそもインスパイヤって何なのよ、と辞書を引くと、inspire=着想させる、創作意欲をかき立てる、呼び起こす、エトセトラエトセトラ。小説においても、実在の人物からインスパイヤされたキャラクタというのは存在するわけです。単発の小説においては難しいんですが、シリーズ物の小説や漫画なんかは結構既存作品の影響からスタートする場合が少なくなかったりします。
 例えば、俳優の佐野史郎からインスパイヤされたキャラクタ、というと誰を思い浮かべるだろうか。冬彦さん?……うーん懐かしいなぁ。マザコンキャラの代名詞と謳われた冬彦さん。あのキャラのインパクトが強すぎて一体どんなタイトルのドラマだったかすら覚えていない。……それはインスパイヤと言うよりも流行語ではないのか。どうなんだ。変人、奇人、知的、ダンディズム、小説家、はたまた薬屋の息子……佐野さんの演技や仕草からはさまざまなイメージがもたらされるだろう。ちなみに僕は『特命リサーチ200X』の松岡チーフが佐野さんの実際の姿に一番近いのじゃないか、と思います(七月のスペシャルは見逃してしまいましたが)。『巷説百物語』も捨てがたいんですが。
 そしてここに、佐野史郎にインスパイヤされた一人のキャラクタが存在します。帝都大学理工学部物理学科助教授、湯川学。……このキャラクタの名前を聞いてピンと来る人はあまりいないでしょう。彼こそが、数々の超常現象に見せかけられた難事件を次々と解決し、先日は『容疑者Xの献身』事件で天才数学者との対決を果たした、東野圭吾さんの生み出した名探偵――通称『探偵ガリレオ』です。

 確かに言われてみれば、松岡チーフと湯川先生の姿は科学的根拠を元に真相を突き詰めていく、と言う意味では結構かぶっています。要は都市伝説と殺人事件の違いなわけで。佐野史郎ほど役のイメージが想像つきにくい人もあまりいませんが(でも善人役で出る方が少ないか)、結構「知的」という感覚は残っていたりもします。その佐野さん自身が『探偵ガリレオ』巻末解説で「僕がモデルだ」とはっきり言ったので間違いありません。
 さて、その佐野史郎似の(勝手に似せないように)探偵。彼の研究室には「これ以上血の巡りを悪くしてどうする」と禁煙の貼り紙がされ、彼の頑固さを物語っています。とはいえ、そこは数多の名探偵が通る変人扱いへの道。彼はそれこそコカインを吸ったりヒロポンを飲んだり走ると五感が鋭敏になったり……ということは全くなくて、いたって普通の大学の先生。ここで頭の回転の速い人は『普通の』という形容詞が『大学の先生』にかかっている事に気づくでしょう。どういう事か分からない人は、あなたの学生時代の恩師を思い出して下さい。果たしていわゆるサラリーマンのような『普通の人』がいたでしょうか? ちなみに僕は全く覚えてません。大学も教員養成系でしたが、インパクトの強い人ばっかりいましたねぇ……(物凄く遠い目)。ああ、学生の頃に戻りたい。るーるーるー……いかん、学生時代の感傷に浸ってしまった。それはさておき。
 さて、この探偵ガリレオ、ことあるごとに現場に出かけ、フィールドワーク(?)を行います。この場合のフィールドワークとは、現場検証にも似ているわけで(ぶっちゃけそうなんですが)、場合によっては真犯人と対峙したりもします。あくまでも湯川は物理的なトリックを解き明かすことが中心。人間に興味がない振りをしながら、いろいろなところに出現するフットワークの軽さは、一介のスペシャリストとは一線を画します。彼をどういう探偵スタイルに分類するかといえば、いわゆる学者タイプになるでしょう。知的好奇心から純粋に事件の真相を探ろうとするタイプで、事件そのものに興味を持った結果として解決に導いている、と考えられます。


 さて、湯川の場合、正義感というよりも先述したように知的好奇心から真相を探りだすわけです。逆にいえば、正義感から事件を追うタイプ、巻き込まれ型、あるいは知的好奇心でも正義感でもなく事件を解決に導くことで口に糊している……等々、一口に名探偵といってもいろいろなタイプがあるわけです。
 ためしに、名探偵を簡単に大まかに分けてみましょうか。さすがに「分類王」までは行きませんが、それなりに分類はしてみたいと思います。

【1】名探偵、事件が終わればただの人
 社会派ミステリに多いのでは(なお、この分類は僕の誤解と偏見を大いに含みます)。むしろ本格だと探偵が固定するから難しいんじゃないんでしょうか? 理由は後述(え、するの?)。

【2】流浪のスナフキン
 一定の位置にとどまらず、日本(あるいは世界)を転々として、行く先々で事件に巻き込まれるある意味迷惑な死神みたいな人物。
 代表的な例が浅見光彦(by内田康夫)でしょう。旅雑誌(歴史雑誌だっけ?)のルポライターが事件を解決して回るわけですが、その行動はどう考えてもスナフキン(自宅はあるのにね)。その飄々とした雰囲気が人気なのかもしれません。

【3】スペシャリスト
 単にスペシャリストといっても大きく分けて二つ。一つ目は警察など、事件を専門にするタイプ。二つ目は私立探偵などどちらかというと【1】に近いです。前者は警察小説、後者はハードボイルドなどといわれています。まぁ、私立探偵でも本格に与するタイプの私立探偵はおりますけれど(こちらはむしろ後述の【5】に入る)。彼らは事件を解決すること自体がお仕事ですから、前に述べたように生活の糧を得るために事件を終幕へと導きます。警察小説や本格ミステリ系の私立探偵の場合は、事件の真相が探偵役の口から語られます。しかし、ハードボイルドとなるとそうとは限らず、いわゆる「解決するとは限らない」という結末にいたることも少なくありません。ぐちゃぐちゃのどろどろでにちょにちょな解決だったりしますしね。そんなのありかい。

【4】専門家・学者
 前述【3】のスペシャリストと訳出すると同じになりますが、本質はちょっと異なります。前者のスペシャリストが事件を解決する専門家なら、こちらは事件を「分析」する専門家であります。犯罪心理学者やプロファイラー、物理トリックなら科学者などもこちらに入るでしょう。冒頭で紹介した湯川はこの部類に入ります。とはいえそんじょそこらのコメンテーターとは異なり、彼らの場合は積極的に事件に関わっているので、その関わった結果、学者的見地から真相を導き出し、真犯人を暴き出してしまうわけです。彼らの最も得意とするのはその職業の特性を生かすことでありますから、あまり門外漢な行動はとらなかったりします。彼らが人間の本質に迫っていくのかどうかが、物語そのものの広がりに関わってくるわけでありますが。

【5】変人・奇人
 そして実は本格ミステリ界の探偵では最大手であろう、「奇人・変人」の皆さんです。いわゆる私立探偵にして「自称名探偵」の皆さんから、果ては高校生探偵、女子校生探偵、仮面の探偵、実は犯罪者等々、いろんな人を含みます。いわゆる「ミステリの祖」であるところの「モルグ街の殺人」の探偵は少年探偵でしたが(だっけ?)、「名探偵の代名詞」たるシャーロック・ホームズが……まぁ、ヤク中っつうか、あんなんだったことを考えれば、ミステリにおいて変人奇人が跋扈することは当然ともいえるでしょう。犯罪を暴き出すと言いながら何故か麻薬に手を出していたり、殺人鬼だったり怪盗だったりするわけですが。職業が限定されないのがこのタイプの面白さであり、同時にファンが付きやすいのもこのタイプの探偵であります。少々トリッキーなぐらいでないと探偵って務まりませんものね。
 そしてこのタイプ最大の特徴は、他の【1】~【4】の属性を同時に持ちうるという事です。中には悩める探偵とか、悩まないで事件だけ追い求めるとか、あるいは悩むどころか「事件が俺を呼んでいる! とぉっ!」とばかりに火の中水の中に飛び込んでしまう人もおります。で、こういう人たちはおそらく「ミステリ以外の世界ではまともに生活できないだろうな」という性格の持ち主も結構いらっしゃるわけで、そこは「ミステリ世界」という変人奇人にも生きやすい世界が存在するんだなぁ、と思いました(別に特定の誰かを指しているわけでは決して無く、踝に差別意識はありません、と言い訳しておきます)。
 この場合、現在進行形で真犯人じゃなければ、まぁ、ちょっとぐらいは過去に連続殺人を犯してようが、テロリズムの首謀者であろうが、何処かのマフィアのボスであろうが問題はありません。過去の罪は罰せず! 良い言葉ですね!(こらこら)

【6】てか、そもそも人じゃない。
 えーと。まぁ、猫とか犬とか椅子とか。誰だ「安楽椅子を探偵にしよう」とか言い出したのは。

『積読にいたる病 第参回』
 さて、こうしてみると一口に「名探偵」とか「平成のホームズ」とか言ってもいろんなタイプがいるんだなぁ、と。むしろ積極的に事件に介入しようとするお節介焼きは(僕みたいなトラブル召喚体質の人も含めて)、どちらかというとどこかに変人の気質はあるものだと思います。と言うより、「僕は変人じゃない!」という名探偵がいたら見てみたいものです(そういう人に限って変人である、と言う逆説ですが)。結局のところ、奇人・変人の中に名探偵が含まれている、という言い方が正しいんじゃないでしょうか。多分。
 で、残念ながら僕の周りには奇人・変人は数多くいるんですけれど、「名探偵!」と言えるような人物には残念ながらお会いした事がありません。むしろ僕が事件に遭遇する事が多いんですけれど。そもそも事件なのかどうか分かりませんが。事件ったって大学内の道路の真ん中に「ぱんつ」がなぜ落ちていたか、とか推理したぐらいだもんなぁ(もちろん真相は知りません)。第一、事件が起きたところで関係者を「さて、」なんて集められるわけはないですし、おまいはどこまで目立ちたいんだ、と言いたいぐらいで。

 とはいえ、あまり奇人すぎてもどうかと思うわけで、逆に名探偵に向かない人を考えてみる事にします。
【1】あまりにも目立たない
 さて、とか言い始めても普通にスルーされるしね。
【2】あまりにも目立ちすぎ
 こういうのは本当の名探偵のお膳立て要員だったり。
【3】犯人指摘の根拠があてずっぽう
 と言ってもこういう探偵も実在しますけどね。
【4】記憶喪失
 と言っても(以下略)
【5】実は真犯人
 と(以下略)
 うーん、実際「探偵に向かない人」というのを考えるのは難しいですね。みんなが向くわけではないんですが、たとえいくら裏であくどい事をやっていても、その人が主人公になった瞬間に名探偵になってしまうわけで、小説は事実より奇なりとはよく言ったモノでございます。
 相変わらず本の話をしない当コラムですが、まぁ、たまにはこういう趣向も良いと思います。しっかし分類ばかりしているのも疲れますね。「データベースは正解を出せないんだ」ですっけ? はっきり覚えてないんですが(読み返せよ)。結論としては(論文だったんだ!)、世の中には「全ての名探偵は美人である」という言葉もありますように(え、逆?)、たとえいくら大いなる勘違いをしていようと、名探偵の活躍を止める事はできません。今後とも皆様の活躍を期待したいと思います。
 ……とはいえ、実際にお友達になりたいか、と聞かれたら速攻でお断りしますがね(笑)。

                                         (第参回・おしまい)


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