書評『功名が辻』

著/司馬遼太郎
文藝春秋・文春文庫(新装版・2005)


 功名が辻は、山内一豊とその妻千代の物語である。のんびりしているけれども律義な夫と、頭が良く人を諭すのがうまい妻、この夫婦が二人三脚で、織田家の貧乏侍から土佐一国一城の大名へと駆け上がっていくまでの足取りを巧妙な筆致で描いている。
 面白い。そしてとても妙だ。概説的に言うとこの小説は戦国の出世話である。とすると、主人公は無双の武勇を誇っていたり、ものすごく度胸があったり、もしくは恐ろしく機転が利くような人物でなければならない気がする。だが、一豊はけっしてそのような人物ではない。ここがまず妙である。
 一豊は気が小さい。何かある度にすぐ弱気になるし、勝ち誇ったりする事もない。謙虚だから人徳こそあるが、それ以外は何もないと言っていい。そんな夫を励ましたり諭したりと、千代は色々な面で支える。夫の知らないところで世間の情報を仕入れたり、合戦の気配を察して先に準備をしておいたり。人は支え合いながら生きなければならないというけれど、この夫婦はまさしくそれの典型に思える。またさらにはそんな夫婦に親しみを抱いて、頑張って盛り立てていこうと奮起する一族郎党が良い。戦場で一豊に向かい、奥方様がどうのこうの、と叫ぶ部下達はある意味とても滑稽だけれど、だからこそいいのだ。こんなアットホームな雰囲気を持った集団は他にはあるまい。
 合戦で言えば桶狭間から関ヶ原まで。権力者でいうなら織田から豊臣、徳川まで。こんなに次々と時代が移り変わっていく中で、唯一この一族のみが最後まで立身出世を続ける事が出来たという事実が興味深い。
 個人としての性質や才能のみで語られがちな歴史小説の中で、こういう戦国武将もいていいのだという発見がとても新鮮であり、また、この二人が最後まで夫婦としてうまくやっていくというところも良い。この小説を読み終わったとき、人は不思議な満足感を味わえるのではないだろうか。(白翁)


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司馬 遼太郎 (著)
文庫: 313 p ; サイズ(cm): 15 x 11
出版社: 文藝春秋 ; ISBN: 4167663155 ; 新装版 版 1 巻 (2005/02)
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司馬 遼太郎 (著)
文庫: 347 p ; サイズ(cm): 15 x 11
出版社: 文藝春秋 ; ISBN: 4167663163 ; 新装版 版 2 巻 (2005/02)
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司馬 遼太郎 (著)
文庫: 336 p ; サイズ(cm): 15 x 11
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司馬 遼太郎 (著)
文庫: 327 p ; サイズ(cm): 15 x 11
出版社: 文藝春秋 ; ISBN: 416766318X ; 新装版 版 4 巻 (2005/03)
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