書評『ナポレオン伝説とパリ 記憶史への挑戦』

著/杉本淑彦
山川出版社(2002)


『回廊』という雑誌で、書評をする目的とは何だろうか? もっとも強い目的は、おそらく読者がその存在を知らないであろう本を紹介し、本屋へと足を向けさせることではないだろうか。
 おそらく多くの読者は本書のことを知らないだろう。刊行元は教科書などで見かけたこともあるかもしれない山川出版社。歴史書専門の出版社だ。……そう、本書は紛うことなき歴史書なのだ。それだけで、無味乾燥な単語の羅列を想起し、眼を背けたくなる方もいるかもしれない。しかし、よく言われるように、歴史は人々が織り成してきたドラマの集積だ。単語の羅列を離れ、その時代に生きた人々の葛藤に思いを巡らせれば、そこには架空の物語にも匹敵するような面白みがあるのだ。
 とはいえ、難しい単語が説明もなしにいくつもあったら、確かにいやになるのも無理はない。しかし、本書にそんな心配は無用だ。ナポレオン=ボナパルトからナポレオン三世の時代のおおまかな流れさえつかんでいれば問題ない。さらに、写真などの画像の多用により、視覚的にその「時代」をとらえることができる。
 さて、前置きが長くなったが、本書の内容を紹介しよう。時代によって、稀代の英雄にも、そして稀代の悪党にもなったナポレオン=ボナパルト。彼はパリという街において、多くのモニュメントや絵画に描き出された。ナポレオン本人が命じたもの、後世の支配者によって作り出されたもの。どのように、それらが民衆によって、あるいは施政者によって作り出され、そして残されたのか。〈記憶〉の変遷。そして、それらが現代の私たちに問いかけるもの。本書は簡潔に、説得力を持って丹念に綴っていくのだ。
 最後になってしまったが、本書が属する「ヒストリア」という叢書について触れたい。現在まで二十冊強が刊行されているこの叢書。小さくて上品なたたずまい、シンプルな装丁、柔らかな手触りなど、歴史書という枠を超えて、一冊の〈本〉としてすばらしい完成度を誇っている。本書に限らず、興味のあるテーマのものを、一冊手にとってほしいと思う。(基線)


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杉本 淑彦 (著)
単行本: 198 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 山川出版社 ; ISBN: 4634490609 ; (2002/07)
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