書評『あなたは虚人と星に舞う』

著/上遠野浩平
徳間書店・徳間デュアル文庫(2002)


 ――光も差さぬ太陽系最外縁空域で、幻想の世界に閉じこめられた少女が辿る、ひとりぼっちの宇宙戦争奇譚――。

 本書は二○○二年の九月に徳間デュアル文庫から出版された、上遠野浩平の「ナイトウォッチ三部作」の三作目である。上遠野作品の大きな特徴の一つ、他作品とのリンクは本作でも無数に散りばめられているが、そのせいで他作品を未読の読者が置いてきぼりにされるということはないだろう。なぜなら、――敢えて率直に言おう――本作で語られている物語が、とても魅力的だからだ。
 遥か遠い未来。人類が外宇宙へ進出を果たし、無限の虚無が広がるその世界で、正体不明の人類の天敵「虚空牙」に遭遇した時代。人類は、虚空牙に唯一対抗できる超兵器「ナイトウォッチ」によって、辛うじて虚空牙の襲撃を防いでいた。その頃、ナイトウォッチの試作機である「虚人」の操縦士《コア》として造られた合成人間の少女キョウは、機能の停止した宇宙港の中で眠り続けていた。そしてキョウが目覚めたとき、宇宙港を攻撃していたのは、人類の天敵たる虚空牙ではなく、同胞であるはずのナイトウォッチだった……。
 以上が物語冒頭の設定である。この後、キョウは宇宙港を管理する人工知能たちが作る仮想世界で生活しながら、襲来する敵と戦うことになる。宇宙港に存在するただひとりの人間であるキョウを守るためだけに活動する人工知能たちと、守るべきものもなく、ただ敵に攻撃されたからという理由のみで戦う羽目になる少女キョウ。そしてキョウを攻撃したナイトウォッチの操縦士《コア》たちも、この作戦が人類の未来に繋がるようなものではないことを十分に知っていた。
 この本で語られているのは、謎の天敵によって星への夢を絶たれた人類の物語だ。誰も彼もが揃わないステップと合わないリズムで舞い踊っているような、「まったくツイてない」とでも言うしかない、そんなちぐはぐな物語。そして同時に、そこからでもどこかへ行こうと足掻き続け、戦い続けた、ひとりぼっちの少女の戦いの軌跡――。
 現実と戦い続ける全ての人のためにこそ、本書は存在している。(遠野浩十)


オンライン書店ビーケーワン:あなたは虚人と星に舞うあなたは虚人と星に舞う 徳間デュアル文庫
上遠野 浩平 (著)
単行本: 269 p ; サイズ(cm): 16
出版社: 徳間書店 ; ISBN: 4199051198 ; (2002/09)
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