『旧式ラジオ Vol.4』

『旧式ラジオ Vol.4』

著/遥 彼方


 巷の流行りに飽きちゃって、何かいい音探してる、そんなあなたにお送りします。音楽コラム『旧式ラジオ』第四弾!
 どうもみなさま、こんにちは。四ヶ月振りにお目にかかります、遥彼方でございます。
 ようやく春も本番、うっすら青い空が広がって、空気もふんわりあったかくなって、そろそろ桜も見頃でしょうか? そんなうららかな季節にぴったりな感じで、今回の『回廊』の特集は、音楽と戯れる、猫! でございます。猫です。いいですねぇ、猫。回廊内の猫派人口はわりと多く、もちろん私もその一人です。しなやかでふわっとした身のこなしも素敵ですし、何よりあのくりっとした、綺麗な目! もうたまんないです。何時かどうにかして飼いたいとずっと考えているのですが、何せ猫って気ままな子たちですから、しつけるのも大変らしいんですね……
 ……って。すみません。脱線しました。
 回廊唯一の音楽コラムである旧式といたしましては、音楽と戯れる猫というよりは、猫と戯れる音楽! といった感じでやっていこうと思います。今回は三アーティスト、ばーんと一挙に紹介しますよっ。

 猫のでてくる素敵な楽曲を創る人らといえば……まずはこのバンド。
 BUMP OF CHICKEN!
 この名前、どなたもきっと、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。現在日本の十代・二十代に最も支持されているバンド、と言っても過言ではないでしょうね。幼稚園の頃からの幼馴染同士、ヴォーカル藤原基央、ギター増川弘明、ベース直井由文、ドラム升秀夫の四人によるロックバンド。生きていくことの意味、好きな人への想い等という普遍的なテーマを追いかける、エモーショナルで物語性に溢れた歌詞とサウンドが魅力です。
 そんな彼らの猫の歌代表曲といえば、やっぱり「K」。セカンドアルバム『THE LIVING DEAD』に収録されているこの曲は、ある黒猫と絵描きの絆を描いた、一編の物語になっています。
 その、不吉な闇色の外見ゆえに、街の人々から「悪魔の使者」と忌み嫌われていた黒猫。人を信じず、孤独を愛して生きてきた彼は、あるとき一人の絵描きに出会います。猫の中に自分と似たものを見出した絵描きは彼を優しく抱き上げ、猫のほうは初めて触れる人の暖かさに戸惑ってしまうのですが、ほどなくして二人は無二の親友になります。しかし絵描きは病に倒れ、猫は彼に託された手紙を、故郷に残る彼の恋人へ届けるため、壮絶な旅に出ます。
 イントロもアウトロもすっ飛ばし、アップテンポなメロディと怒涛のようなドラムラインに乗せて歌い上げられる物語。ストレートでありながら巧妙に選び抜かれた言葉たちは、絵描きの優しさを黒猫の情念を、聴く人の心へ真っ直ぐに訴えかけてくるようです。
 また、ファーストアルバム『FLAME VEIN』には「ガラスのブルース」という曲が収録されていまして、これはガラスの目をした野良猫が歌うブルースのお話。「生きること」に対する情熱を歌った彼のブルースは、彼が「星になって」しまったあとでも、「僕ら」によって歌い継がれていきます。
 曲調はポップなのに、悲しいときに聴くと泣き出してしまいそうに切ない、バンプの猫の歌。けれども涙を流したあとに、確かに元気をもらえるような。憂鬱の底に沈みこんだとき、無力感で立てなくなったとき、忘れてしまいがちな何かを、たしかに思い出させてくれるような。どちらもそんな、力強い楽曲です。
 そうそう、『FLAME VEIN』の歌詞カードには、マフラーを巻いて長靴を履いた猫が登場していますよ。収録曲の歌詞が、カードが真っ黒になるほどぎっちりと手書きされたその合間合間。温かみと感情的な激しさがないまぜになったような不思議なイラストと、シンプルな文章で、猫が「自分の場所」を捜し求めていく物語が綴られています。
 中でも、私がいちばん素敵だと思った挿話はこれ、台風雲に吹き飛ばされそうになった猫がブレイバーと名乗る青年に助けられる話。
「ありがとう、ブレイバー」
「仕事だ。礼などいらん」
「仕事?何ていう仕事なの?」
「ヒーローだ」
「それって仕事なの?」
「最初は違ったけれどな。みんなオレが人助けをしないといつのまにか認めてくれなくなったのさ」
 彼らの楽曲にも時々垣間見える、こういう独特の厭世観に、私は一番惹かれます。

 さてここで、がらりと空気を変えまして。次にご紹介するのは、ちょっと異色な女性シンガー、山本美絵。
 なにがどう異色なのかといいますと、この人の歌はとても、暗いのです。
 自分の居場所を見出せない孤独、不安、ひとりぼっちの絶望感。なんてことのない日々の中でも少しずつ増えていく心の傷。そんな負の想いを織り込んだ歌詞を、心を切り刻むような切々としたヴォーカルで歌い上げるんです。
 メジャーデビューからわずか一年弱で活動を休止してしまった、いわば幻のアーティストなのですが、この人がそのものずばり『猫』という曲をお書きになっています。これは……五、六年ほど前になるでしょうか、関西圏の大手のラジオ局でへヴィーローテーション・ナンバーに選ばれ、チャート(これまた、関西を中心としたローカルなものでしたが)にも一時期は十位以内に食い込むほどでした。
 とはいえ。ラジオ番組の中、他の明るいポップナンバーや甘く切ないラブソングなんかに混じってこれがかかりますと、周囲の温度がちょっとばかり下がるほどの感じでした。
 毎日の生活の中で通いなれた道、そこで車に撥ねられた猫の死体を見つけても、見なかった振りをして通り過ぎることしか出来ない。誰もにそうやって無視されつづける猫は日に日に腐ってゆくけれど、自分はやっぱり何にも出来ずに、ただ目を逸らし続ける……。
 飾り立てた派手な表現は少しも使われず、ただぽつぽつと呟く独り言のようにナチュラルな言葉遣いで、日常の鬱屈を綴った歌詞。それは決して美しいものでも、耳に心地の良いものでもないのですけれど、それが透明感のあるサウンドに乗せて、魂(怨念に近い?)のこもった一種独特のヴォーカルによって歌い上げられると、どうしてか強烈に惹き付けられるものに変わるのです。
 彼女は徹底的にネガティヴな世界観を歌ってはいるのですが、それでもなおどこかに希望を探しつづけている、強靭な生命力にも似たものもまた、併せ持っているように思います。独特の魅力は、あるいはそこから来ているものなのかもしれません。
 人によって好きと嫌いがはっきりと分かれることでしょうけれど、ツボにはまれば何度でも聴き返したくなること間違いなし。
「猫」はシングル(夜のマンホールから白い手がにゅっと伸びている、わりとホラーな紙ジャケット)のほかに、アルバム『オナモミ』にも収録されています。機会がありましたら聴いてみてくださいね。マイ・ベスト・トラウマ・アーティスト、です。

 この辺りでもう少し、ダークな世界をご紹介。
 世界で最も有名な猫といえば、どの猫でしょう? 私はやっぱり、チェシャ猫なんじゃないかなあと思います。あのにやにや笑いの、神出鬼没、とてもチャーミングでありながら、気持ちの悪いことこの上ない猫。
 そしてチェシャ猫といえば、そう。世紀の不条理童話『不思議の国のアリス』でございます。
 ルイス・キャロルがこの物語を世に著してから百年、アリスを題材にした絵本や映画や小説やアニメーションやゲームはそれこそ星の数ほど生まれてきましたが、中でももっとも奇抜な部類に入るのが、アメリカで製作されたホラー・ゲーム『アリス・イン・ナイトメア』でしょう。タイトルが表すとおり、このゲームでアリスが旅をするのは暗く歪んだ悪夢の国。血まみれのチェスの城、奇妙な植物生い茂る森、鏡張りの迷宮……そのグラフィックのシュールさ、精妙さ、そして美しさはまさに夢に出てくるようなのです。で、本題はここから。このゲームのBGMを担当してるのは、Chris Vrennaというアメリカのアーティストでございます。この人がまた、かなり面白い曲を作る人なので、最後にご紹介したいと思います。(何だか猫からはかなり離れてしまいましたが、まあ、気にしないで行きましょう)
 Chrisはもともと、アメリカのインダストリアル・ロック(金属的なノイズや電子音を織り交ぜた重く攻撃的なサウンドのロック)の代表格バンド、NINE INCH NAILSのドラマーとして活躍。一時期はフロントマンTrent Reznorのパートナともいわれる存在であり、キレのあるドラミングにも定評がありましたが、九七年にはバンドを脱退。リミックスやゲームのBGMを手がけつつ、現在はTweakerというソロ・プロジェクトで活動しています。
 彼の音楽は決して、ひとつの枠に収まることがありません。ロック、ノイズ、エレクトロニカ、クラブ・ミュージックと、さまざまなジャンルの間を自由自在に行き来します。
 何といっても、音の使い方が奔放にして大胆、かつとってもハイセンス。『Take Me Alive』では、スケールの大きな美しいロック・サウンドの中に、ちらりとオルゴールの澄んだメロディ。『Ruby』では、ひそやかに鳴るアコースティック・ギターとささやくようなヴォーカルが、突然、ハードなギター・ノイズと絶叫に切り替わります。
 前者の曲はTweaker名義のファースト・アルバム『The Attraction to All Things Uncertain』に、後者はセカンド・アルバム『2a.m. wake-up call』に収録されています。ファーストは雑然としたノイズから包容力のある泣きメロまで何でもありのバラエティ豊かな作品。セカンドはタイトルの通り、午前二時の暗く気だるく冷えた空気をぎゅっと凝縮したような、妖しい楽曲が揃っています。(余談ですが、私の作品『午前二時の使者』のアイディアはここから来てます)
 前述の『アリス・イン・ナイトメア』のサウンドトラックもまた、非常に興味深いアルバムになっています。アリスの生きた時代、ヴィクトリア朝の雰囲気を出すため、シンセサイザなどのデジタルな楽器の使用を控えめにしたそう。そこへ玩具のピアノやストリングス、人の声などのクラシカルなアイテムで印象的に作り上げられた楽曲群は……まあ、当然、ホラーゲームのBGMですから、怖いです。怖いのですが、それだけでなく、美しい。チューニングの狂ったギターのメロディ、懐かしいようなオルゴールの音が微かに奏でる調子っぱずれの『大きな古時計』……青暗いメルヘンとも呼べるような空気が全編に漂う作品です。
 いくらかの彼の楽曲/リミックスナンバーは、http://www.tweaker.net/にて試聴することができます。ぜひチェックしてみてくださいね。


 さて、そんなところで。
 旧式ラジオは今回をもちまして、しばらく……三号ほどかな? お休みさせていただきます。ので、今回でひとまずの区切りになります。
 この一年と少し。ずっと拙いところだらけのこのコラムでしたが、それでもこれを書いて、読んで頂く中で、私自身さまざまなことを勉強させて頂きました。
 これまでお付き合いくださった皆さまに、心から感謝いたします。ほんの少しでも楽しんで頂けたなら、これ以上の幸せはありません。
 では、今回ご紹介した音色が、皆さまのお耳に合うことを祈りつつ。
 お相手は遥彼方でした。お元気で!

                                             了

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