『つながる超短編』500文字チーム

つながる超短編

500文字チーム

0.『DANCE WITH DANDELION』

著/水池 亘


 召喚された僕が目を開けると、そこは一面のタンポポ畑だった。遥か遠くまで延々と続くタンポポの群れ、そして傍らに佇む少女がひとり。
「来たわね」
「来たよ。僕は何をすればいい?」
 彼女は唇の両端を少しだけ上げて薄く微笑み、僕へ向けて右手を差し出した。
「さあ、踊りましょう」
 返事も聞かずに彼女は素早く僕の手を掴むと、くるくると回りだした。細い彼女の腕に振り回される僕。わけがわからない。わからないけれど、とにかく僕は彼女に合わせて下手なステップを踏んだ。曲もない。足元もおぼつかない。それでもそれはまぎれもなくひとつのダンスだった。
「ねえ、何で僕らは踊っているのかな」
 そう尋ねると、彼女はまるでペットにいたずらしている子供のようにあははと笑った。
「奴らに見せつけるのよ」
「奴ら?」
「地面を見なさいよ。そこらじゅうにいるでしょう。奴らに私たちのダンスを見せつけてやるのだわ」
 僕は思わずあたりを見回した。タンポポたちが一斉にそっぽを向いた。


『タンポポ・ダンス』417文字






1.『GIRLIE』


著/タキガワ



 夜のバスは想像より暗い。でも光の函みたいで特別に感じる。そんなことさえ私は忘れていた。日が落ちてから外にでることが難しくなっていたから。
 ひとつバス停を過ぎて、ずっとけたたましい声をあげていたオンナノコたちが降りていった。じゃーね、ばいばーい。ひとり離れた座席にすわっている男の子の横をすり抜けるたびに、かわいい掌がいくつも揺れた。肩ごしに、男の子も笑っているのが後部席からでも解った。クラスメイトだったのだろう。
 車内の灯りで窓の外が見えなくなっているせいか、やけに私たちは取り残されている。でも頑丈に守られているようで不安はない。
 ほそい肩だな。頸も。気がつけば、制服の彼から目が離せない。いつの間にか、私の背筋は伸びている。保冷剤入りの、使い込まれた買い物袋なんかを持っている自分を呪う。ただひとまわり歳を経ただけで、私は随分重たくなった。窓ガラスは鏡よりも鮮明に私を映す。
 もう本当のことはとっくに識っているけれど、それでも今でも待っている。連れ去られるのを。
 今日も何もなかった。夜道にひとり吐きだされた私は剥きだしになっている。


『泣くオンナ』471文字






2.『CLOUD GAZING』


著/雪雪



群をなして流れる雲はなべて凡庸だったが、天才的な雲がひとひら、世界の秘密を露骨に開示しながら、空の嗅ぐ匂いのようにかぐわしく南へ流れてゆく。と思う間にその精妙な姿形は崩れ、どうとでもとれる曖昧な輪郭にほとびる。
一輪の蒲公英が風に逆らって、天をゆく秘密の残骸を口惜しげに見送っている。やがて蒲公英から蒲公英伝いに、匂いより速く音よりは遅い火急のしらせが回付されていったのか後刻、北半球の蒲公英がひとしなみに、おおよそ南に向けてたなびき、いきなりの「かちり」という擦過音を聴きつけた少女が跳ね起きる。そして眼鏡をかける。
その少女に見てもらうはずだった夢が、次の晩まで後ろ髪にしがみついているので、日中、いわれなく振り返ってしまう自分を少女はあやしむ。
叢に腹這いになった裸足の青年は気付かれたと思い込み、少女を尾行することを諦める。緊張を解いて、ごろんと仰向けに転がるとちょうど真上にぽっかり雲が浮かんでいるのが見える。ぎくりとする。背中の下でたわんだ蒲公英がいっせいに跳ね戻って彼の体を、胴上げよろしく宙に抛り投げるという予感がするがするだけ。そしてこんなことが前にもあったという気がするのは誰だ。


『雲のある視程』497文字






3.『I LOVE ME, TOO』


著/葉原あきよ



 私だ。
 小花をつけた枝を掻き分けると目の前には私がいた。樹海なんかを歩き回っていたから幻覚が見えるのだろうか。それとも幽霊か。
「お前は私だな?」私は私にそう聞いた。驚いた。声までそっくりだ。
「お前、私なのか?」私が聞くと、私は笑った。「当たり前だろうが」
 私も笑った。こんなことがあるだろうか。あっちの私を殺せば私も死ねるんじゃないか? しかも、私は痛みを感じずに。
 私は私に飛び掛った。私も私に飛び掛かってきた。私は私の首を締め、私も私の首を絞めあげる。首が痛い。苦しい。息が止まる。
「う……ぐがぁ!」私たちは思わず手を離した。その場に倒れこみ、咳き込む。私は動けなかったし、私も動けないようだった。
「お……お前、苦しくて、て……手を、離したな」
「お……お前こそ、そうだろ……が、軟弱者め」
「な、なんだと、このやろう」
「や……やるか?」
 私たちはよろよろと立ち上がり、お互いに向かって進もうとして、ふらついて倒れこんだ。
「あははっ。ばっかじゃないの?」見上げると、花をつけ始めた山桜の細木が少女の声で笑っている。
「そうだな。ばかだ」つぶやいて消えたのは、私だった。


『鏡の森』484文字






4.『WHAT A LIFE!』


著/空虹 桜



 納涼ついでと、ノストラダムス全盛時代の「ムー」ばりに気合いの入ったオカルト本読んだせいか、丑三つ時に目が醒めた。
 金縛られたわけでも、首やら足やら命やらを取られたわけでもなく、ただ、部屋の隅が囁き声で騒がしい。腹筋全開 so slowly に起きあがると、耳を声の方へ澄ませた。
「バカ、俺の方が綿だよ」
「黴の分際で!」
「そういうアンタに綿が付くのは雪降る直前だけでしょ?」
「地面にたどり着けなかったお局様は、けたたましいのぅ」
「なんですって!?」
「そんな顰めっ面してるとシワが増えちゃうぜ。そこ行くとオイラなんか生粋の綿だから」
「つっても、お前ら全部埃扱いじゃん。普通」
 慌てて口を手で押さえたけど、部屋の隅には気まずい空気が漂うだけだった。

 な~んて話、あの綿雲から降ってきた綿雪が「これですっかり綿だろ」なんて囁くまで、すっかり忘れてました。一分の綿にも五分の魂。すんません。


『綿ら畏怖』391文字

500文字チーム

| コメント (0) | トラックバック (0)

この作品をはてなブックマークに追加はてなブックマークで感想を書く