『つながる超短編』心臓チーム

つながる超短編

心臓チーム

0.『DANCE WITH DANDELION』

著/水池 亘


 召喚された僕が目を開けると、そこは一面のタンポポ畑だった。遥か遠くまで延々と続くタンポポの群れ、そして傍らに佇む少女がひとり。
「来たわね」
「来たよ。僕は何をすればいい?」
 彼女は唇の両端を少しだけ上げて薄く微笑み、僕へ向けて右手を差し出した。
「さあ、踊りましょう」
 返事も聞かずに彼女は素早く僕の手を掴むと、くるくると回りだした。細い彼女の腕に振り回される僕。わけがわからない。わからないけれど、とにかく僕は彼女に合わせて下手なステップを踏んだ。曲もない。足元もおぼつかない。それでもそれはまぎれもなくひとつのダンスだった。
「ねえ、何で僕らは踊っているのかな」
 そう尋ねると、彼女はまるでペットにいたずらしている子供のようにあははと笑った。
「奴らに見せつけるのよ」
「奴ら?」
「地面を見なさいよ。そこらじゅうにいるでしょう。奴らに私たちのダンスを見せつけてやるのだわ」
 僕は思わずあたりを見回した。タンポポたちが一斉にそっぽを向いた。


『タンポポ・ダンス』417文字






1.『FAREWELL, FAREWELL』


著/はやみかつとし



 ロータをフル回転させ、横暴な風を地面に吹きつけながらぼくは上昇を開始する。見送る人たちの顔は、誰が誰なのかもはや定かではない。兵馬俑のように居並んだ人垣が、風圧を受けて中央から時計回りに渦を巻き、順々に倒れていく。折り重なる押花の輪が広がる。それがペルシャ絨毯についた一個の圧し跡に見えるまで遠ざかってから、やっとぼくは手を振る。
 さよなら、さよなら。
 さよなら。

 もういいよ。
 ぼくの影が真っ白い光の中に掻き消えたら、おもむろに体を起こし、いつもの生活に戻るといい。
 太陽が少しだけ小さく見えることに気づかないまま、日々は過ぎるだろう。


『さよなら、さよなら』270文字






2.『REVELATION IN ARCADIA』


著/白縫いさや



 私の拍手を合図にショーは始まる。
 草原の真ん中に作られた小さな劇場はとても質素。少し盛り上がった土の上に板を置いただけ。その上で、彼はぺこりとありったけの心を込めてお辞儀をする。すると、つつつ、って空から真っ白な細い糸が降りてきて、彼の頭と両手足にぴたりと吸い付く。糸が吸い付く瞬間が私は大好き。私もいつかあんな風に、と思う。
 彼がくるくると素敵なダンスを踊ると、彼の手の振りやステップが白い軌跡を描く。クレヨンで描いたような、子供っぽい白色だ。その軌跡が幾重にも渦巻いて彼を包んで、彼はやがて大きな繭になる。
 すると雲より高いところから垂れていた糸が一本に縒られて、繭は少しずつ解かれていく。そして全部解かれると、彼は無数の蝶になって四方八方に飛んでいく。黄色くて小さな、可愛らしい蝶。
 わああ、わああ。
 いつの間にか劇場の周りにはたくさんの観客がいて、それぞれが歓声を上げる。無数の蝶は歓声や指笛の音に乗って、見えなくなるくらい遠くまで飛んでいく。
 そして、蝶の軌跡は全部淡いブルーだけどその中に一つだけ紅いのがあるから、私はそれを追ってどこまでも歩いていく。


『啓示、アルカディアにて』483文字






3.『MY MARY POPPINS DOESN'T HAVE AN UMBRELLA』


著/マンジュ



 君の手を曳いて僕は丘の上まで歩く。君の脚はとてもか細くはかないので僕の歩調に合わせるのに苦労する、けれども僕はついそれを忘れて足早になり君を引っ張りすぎてしまう。そのたび君は非難の代わりに小さく喉を鳴らす。
 道すがら、僕らは一輪の花から一枚ずつありったけの花びらを集める。花びらは朝露を抱いてしっぽりと濡れていて、指に吸いつく。ポケットはじき花びらでいっぱいになる。
 丘の上からはにぎやかな町が一望出来る。僕は集めた花びらを口に含んで噛み砕くと口移しに君に託す。君の唇は甘い。君は体温と舌の味を吸って柔らかくほぐれた花びらを丘の上からそう、と、吹く。君の唇から零れた花びらは迷いなく空に遠くくっきりと一筋の径を描く。
 僕らはきつく手を握り合って丘を蹴る。空に舞う花びらとともに高く高く上昇する。広場で戯れていた町の子らが僕らの姿を見つけて歓声を上げ、こもごも嬉しそうに指を差す。
 僕らはほんの小さな彼らににこやかに手を振り、もう一度口づけを交わし、花びらのなか次の丘を目指す。


『僕のメリー・ポピンズは傘を持たない』439文字






4.『BLOOMY LIZARDS FOLLOW THE LOTUS SEAT』


著/sleepdog



 群青の午後の霧が吹き散らされると、機織り師の一団に出くわした。彼らの牽く巨大な睡蓮の葉には山盛りの花びらが積まれている。平たい葉のすきまから花びらはこぼれ落ち、道筋となって霧の奥まで伸び、後に続いてきたらしい花咲とかげの行列がうっすら見えた。腹と足がキシキシ擦れる気配が迫り、地面を舐める黄色い舌が、彼女と僕を立ちすくませる。僕らは迷子だった。機織りに道を聞くと、キツツキの配達夫みたいに高く鳴き、背中の織り機を下ろし、いそいそと地中の糸を編みはじめた。足元の草むらから細い糸が引き出され、一匹の花咲とかげが不器用に舞い、うなりを上げて瓦礫みたいに崩れ落ちる。とかげの破片は飴色のビーズとなり、機織りたちが編むごとに神秘的な光沢をおびた紋紗が拡がってゆく。機織りの手招きで彼女は導かれ、厚いケープを脱ぎ捨てて、少女のような未熟な肌をさらし、とかげの脈動で彩られた可憐な布に巻きとられた。そして彼女が裸足で睡蓮の葉をまたげば、僕の舌が呼応するように伸びていく。冷たい指でつんと摘まれると全身を悦びが駆け昇った。僕は四つん這いになり、背に大ぶりなつぼみをまとい、蓮から漏れる蜜を舌先でそっと受けとめた。


『花咲とかげは蓮の座の赴くままに』500文字

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