『THE OTHER NIGHT OF CRIMSON MUGWORT』

著/赤井 都

 家の前に救急車が止まった。私を迎えに来たのだ。乗りたくないのに、ぐったりとしたまま担架に抱え上げられ、仰向けの天井が動いて、車の壁に囲われた。
 車は走り出す。隣の家の前を一秒で通過する。界くんの家だ。私のすきな界くん。界くんのことを考えると、胸がまた熱くなってしまう。
「再び胸から発火しました」
「鎮火して」
 水なのかオイルなのか、胸が冷たくてぬらりとするもので覆われる。そんなふうにされても、胸の奥の火に届くわけがない。燃えている――
「患者が持ちません」
「すぐ処置室へ」
 救急車はどこかわからない所に着いた。また運ばれて、止まったとき、老婆の囁き声が耳元でした。
「界くんはね、あんたの病を救おうとして、これをどこにもない所から採ってきた」
 ひやり、と胸の奥に直接なにかが貼られたような感触があった。急速に熱が引き、私は目を開け、起き上がった。胸の皮膚の下に、緑色が透けている。心臓の上に、一枚の葉が載っていた。
「クレナイヨモギの葉なのさ。これを貼ればどんな病でも治る――なにするのさ?」
 私は指を自分の胸に食い込ませ、強く抉った。血が胸の孔から流れ出し、同時に指先から肘まで伝わって膝の上にぽたぽたと赤い斑点を散らした。私は息を乱し、指先でしばらく探ってようやく、心臓から葉を引き剥がした。
「こんなもの、要らない。治りたくない。私はずっと界くんをすきでいたい」
 胸がまた燃え出した。
「愚かな。おまえはそうして、心臓を灰にするのかい」
 胸に炎が立つ。葉を握りしめたまま、私は動けない。


『クレナイヨモギの、もうひとつの夜』642文字

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