『THE SUGARY APPLE』

著/赤井 都

 妹の手を引いて、祭の雑踏の中。不意に正面に、幸野くんが立っていた。
「あれ? 宮田、ひとり?」
 かっと頬が熱くなって、口がきけない。ぶんぶん首を振って、腕を前へ引いた。浴衣の袖の下から、妹が顔をのぞかせる。
 祭の一週間前に、私には妹ができたのだ。猫みたいな鬚が生えていてわりと生意気。くりっとした目で、幸野くんを見上げる。
 幸野くんは、きゅうに慌てたそぶりで、口の中でもごもご何かつぶやいて、人波に呑まれてしまった。
「かわいいね、だってさ」
 妹は幸野くんの消えた方を見つめている。
「そ、そう」
 私は動転したまま、りんご飴を買ってしまう。妹はりんご飴が好きかな。
 りんご飴のつややかな表面に、不意に幸野くんの顔が浮かぶ。
「お姉ちゃん、あの人、好きなんだ」
 私はりんご飴を妹に突きつける。
「からかうんなら、奉納してしまうよ。元に戻しなさい」
 妹は寂しそうにちょっと笑う。
「何してたって、今晩、奉納されちゃうんだもん」
 人の流れに乗って歩いてゆくと、神社の境内に入っている。私の手から、小さな手が離れる。嫌がっていたわりに、しめなわを妹はあっさりとくぐり抜けている。
「お姉ちゃん。がんばりな」
 くるりと背中を向けて、開いた白木の扉の向こうへ駆け込んで、闇に消えた。ほかにも何人もの子どもが、人の手を離し、闇に還ってゆく。私はりんご飴を握ったまま、しめなわのこちら側で手を合わせた。妹はりんご飴の上の顔を、消すのを忘れていった。それともわざと消さなかったのか。こんなの、食べられないじゃん。ばか。私はこの一週間のいろんな出来事を思い出す。楽しかった。妹ができて。
「また来年、来てよね」
 この願いが叶うかどうかは、妹の気まぐれにかかっている。神様のきまぐれに。私は幸野くんの顔をしたりんご飴を握り締めて雑踏に戻り、揺られ歩く。
「あれ、宮田、それ……」
 耳元で声がした時、妹の笑い顔が見える気がした。私は真っ赤になって、ぶんぶん首を振った。

『妹社』814文字

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