『"LOOK AT THE MELON STARS," SAID MY STAR』
フランクフルトを二本持って、浴衣の裾をさばき、ジャングルジムに登った。
今年は、まだあのひとは来ていない。
屋台のテント屋根と人ごみを見下ろし、フランクをかじった。同じクラスの男子がひとり、隣のぶらんこを揺らしている。それ以外に知った人間は見当たらない。皆、河原まで行く話をしていた。私はいっしょに行こうなんて誘われないよう、夕方のクラスルームをそうっと抜け出した。
毎年、ここから花火を見る。そんな約束はしていないけれど。
七歳の夜から、花火はここで見る。
ぶらんこにいたはずのヤツが、ジャングルジムを登ってくる。
「来ないでよ」
「なんでなんで?」
「なんで?」
別の声が背後からして、ぽん、と肩を叩かれた。あのひと。私の頬が熱くなる。暗がりでよかった。
「きれいになったね。ボーイフレンド?」
あのひとは片手でネクタイをゆるめ、大人の笑みを浮かべる。
「まさか! 食べます?」
私はフランクを差し出す。浴衣の帯はほどけるし、花火は音ばっかりで見えないしで半べそかいていた、子どもだった私を、ジャングルジムに乗せてくれたヒーローへ。
横から、ヤツがかっさらう。
「あ!」
ヤツはフランクを口にくわえ、ジャングルジムの上を走る。そのシルエットを真っ黒に変えて、向こうの夜空に真っ赤な花が開く。あのひとは笑っている。
「好きなんだ?」
「関係ないです! あの。今年こそ。名前とか。住所とか……」
「きれいだねえ。ほら、ちゃんと見てないと見損ねる」
どおん、遅れて空気が揺れる。ルビーはメロンになって消える。
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