『積読にいたる病 第伍回』

『積読にいたる病 第伍回』

著/踝 祐吾


 ひーっこし! ひーっこし! さっさとひっこーし!(しばくど!)

 ……あのおばちゃんは今何をしているのだろうか(だから時事ネタは止めなさい)。そんなことを考え始めた二十六の秋。しかし、あんな近所の人がいたら迷惑だろうなぁ、と思うと同時に、どうしてあんなことになってしまったのか、そのトラブルの根源を知りたい、というのは下世話な話かなぁ、とも思う。
 しかし家というのは人によって印象が大きく異なるとか何とか。安らげる我が家であったり、単に寝に帰る空間であったり、或いは帰りたくない場所であったり(鬼嫁がいるとか)、むしろネット上を住処にしていて現実世界に出稼ぎに来ていたり、と様々ではあるが、本拠地であることには変わりはない。人によっては大きなお屋敷を建てて殺されたり、変な形の屋敷を建てて殺されたり、パノラマ島を建てて殺されたり(殺されてない)、いろいろな変わり者の方々がいらっしゃるモノである。
 ちなみに今回のタイトルは島田荘司御大の名作から。昨今「完全版」としてデビュー作の『占星術殺人事件』と同時収録(四千円!)された、島田先生の第二長編でもある(御手洗潔シリーズで三作選べ、というと大抵の人は入れると思う)。館モノというとどうしてもミステリ作家として一度書いてみたいと思わせるのは、こういうとんでもない館が出てくるから、というのもあるのかも。『十角館の殺人』とか『長い家の殺人』とか『『クロック城』殺人事件』とかあるしね。そのうち全自動マイコン、百五十乗のコンピュータロック、絶対に抜け出せない断崖絶壁で起こる密室殺人!……というか、誰かもう書いてると思うけれど。館モノの名作なら○○だろ、というご意見があったら教えて下さい。買ってきます(そして予想通り積みます)。
 そんなことを考えながら僕もひとつ思いついた。その名も『積読屋敷の殺人』。とあるアパートの二階に住んでいた男が、積読をしまくっていた部屋から半死半生の状態で発見された。それは何故か?……答えは積んでいた本の重みで床が抜けて一階になだれ込み、大量の本の中に生き埋めになってしまったのである……ってそれ実際にあったニュースじゃねーか。事実は小説よりも奇なり(こういう時に使う言葉じゃない)。

 さて、こんな風に積本で生死の境をさまようのはよっぽどの極端な例であるが。このように後先考えずに本を増やしていった場合、他にどんなことが起こると考えられるか。
 まぁ、ここまでの振りで大体ネタは割れてしまうのであるが、それでは全く面白くない。「未読が溜まっていく」「積んでいたらブームになっていた」「しかもブームから数年過ぎてまだなお読んでいない」「発売日翌日にハードカバーを買ったと思ったらいつの間にか文庫落ちして未だに読んでない」……と色々考えられるわけですよ旦那。しかも僕全部心当たりあるんですが! 『薔薇の名前』を楽天フリマで買ったにもかかわらずページを開く気配がないんですが! 『ひぐらしのなく頃に』をブームの一年前に買ったにもかかわらず未だにやってないんですが!(やれよ)……いつまで『ひぐらし』ネタで引っ張る気だ、お前は。
 そして未読の本が溜まっていくのに比例して、当然ながら本の量は増えるわけである。積読家の一つの特徴として、買うけど読まない……というのがある。しかし、その量が増えてくると、次に困るのは管理。あまりにも面倒なので、片付けも思うように進まない。気が付くと本はタワーになっている。積読タワー~悪寒と僕と、ときどき崩落。
 そして、部屋の片付けの中でも最高位に位置づけられる作業が存在する。部屋の全てのモノを片付け、移動し、なおかつ整理し直すという数日にも及ぶ大変な作業。……それがいわゆる引っ越し作業なのである。やっと本題に入れたぞ。よしよし。

 まぁ、何故こんな話をすることになったかというと。簡単に言えば、引っ越しをすることになったからである。もちろん、僕自身が。そして今、その「引っ越しに移動させる本の量に呆然とする」という行為を数日にも渡って続けている(梱包しろよ)。
 僕にとっては人生で四度目ぐらいの引っ越しになるわけで、引っ越しキャリアとしては少ない方ではない。ただ、今回の引っ越しは今までのそれとは大きく異なることがある。
 ……今度は、寮じゃない。
 何でそんなことを大げさに言うために千字以上も費やしてきたのか? と疑問に思われるかも知れない。むしろ疑問に思え。
 僕自身は大学時代は学生寮に、そして就職後は社員寮、それから自宅と転々としてきた。つまりは、住まいについて悩む、ということは全くなかったわけである。用意されているところに収まるように片付けたり、仕舞ったり、家具を配置したりすれば良かったのであるから。しかし、自分で最初から選ぶということになると簡単にはいかない。更に言うなら、踝はアパートを借りる、ということが初めてである。こうなると話は一筋縄ではいかない。アパートを借りたことがないということは、部屋の借り方はもちろん、選び方も全く分からないということだ。まさに八方塞がり四面楚歌。
 そもそもなんで引っ越すことになったかというと、単に僕の自宅と職場が五十キロ程離れているからである。当然通勤時間は一時間以上。首都圏の人からすれば、通勤一時間といえば読書の時間に当たることだろう。もしかしたらその弊害で「電車の中じゃないと本が読めません!」なんて言い出す人もいるかも知れない。勝手な想像だけれど。
 しかし、職場と自宅が電車で繋がっていればまだいい。僕の場合は自宅から最寄りの駅まで車で十五分、最寄りの駅から職場まで二十分……とてもじゃないが電車通勤という選択肢は考えにくい。となると当然、通勤手段は自動車である。ゆえに通勤時間は読書タイムではない。むしろカラオケタイムである。さすがに一日往復二時間MDエンドレスはつらいのでiPod買っちゃった。安くなかったがな。
 それでも、夏場ならまだいい。問題は冬。しかも、冬タイヤのCMが東北でばんばんながされるあたり。当然、冬場の運転は常に死とオカマ掘りと雪の壁への激突と隣り合わせ。ちなみに僕の場合、一冬に一度は雪の壁に激突し、バンパー破損の目に遭っているわけで。修理代も安くない。

『積読にいたる病 第伍回』
 そんなわけで必要に迫られた僕は、とりあえずアパ○ンショップに寄って片っ端から空き部屋の資料とにらめっこする。だが、にらめっこしたところで部屋が「こっち来いやオラ」と呼びかけるわけで無し。しょうがないのでまず条件を書き出してみる。
 ・本が入る
 ・暖かい
 ・家賃が安い
 僕の必要最低条件は右の三点に絞られた。こうなると逆に探しやすくなる。家賃と本の入り方は間取り図を見れば分かる。暖かさは一階よりも二階を選ぶ方が良い、高いことは良いことだとバベルの塔の時代から言われてきたことであるから、とりあえず安さと広さと二階以上、という条件に絞って選んでみる。これで大分絞られた。
 先ほど触れたとおり、積読家というのは概して本の量が多い。それに伴って、荷物の量も増える。何故かというと、モノが捨てられないからだ。僕が言うんだから間違いない。積むのは何も本だけとは限らない。本を積む人は大抵ゲームも積むし、服も捨てないし、その他あらゆるモノが捨てられなかったりする。僕が言うんだから(以下略)。当然捨てられないからこういう引っ越しの時に大ナタを振るおうと試みても、ひぐらしの某ヒロインのように並み居る敵をばっさばっさ……というようには行かない。むしろ『捨てる技術!』を古本で買ってきてしまい、五百グラムほど荷物を増やす結果になってしまうのだ。僕が(以下略)。うん、そろそろしつこい。
 いわゆる「捨てるコツ」なんてモノが世の中にあって、大体は使わないモノは捨てる、将来使うんじゃないかなと思ったモノも捨てる(そう言いつつ大抵使わないから)……の二点に集約されるといわれるが。本の場合もそれが当てはまるかというと難しい部分がある。雑貨の場合は必要になった時に代替品が手に入りやすい。だが本はそうは行かない。先の『薔薇の名前』などは今のところ文庫落ちしていないので定価で買うと上下巻五千円。それが古本だと二千円。この三千円の差額は結構でかい。その差で別の場所で簡単に手にはいるか……というとかなり怪しいモノがあるし。その他にも、売り切れて入手困難になっているモノは山のようにあるし。難しいかなー。逆に大ヒット商品とかベストセラーなどは再入手のしようがあるんだけどね。要はもったいないというか、ケチなだけである。ザッツ世界の共通語。
 ただ、捨てなければ捨てないで荷物が増えるのは当然の帰結。その増えた荷物をどうするのよ、といわれれば、当然運ぶしかなくなるのである。
 たかが本と侮ってはいけない。たかが本、されど本。紙の重さは尋常じゃないのだ。本屋でアルバイトしていた時は、当初その段ボールぱんぱんにつまった本の重さにギックリ腰を起こしかけたほど。まぁ、この辺は京極夏彦の本を仰向けになって読んでいて手がつってきたことのある人なら分かるかも知れない。ちなみに清涼院流水や川上稔でも可。一時期は森博嗣も一例に入っていたんだがなぁ(最近あまり厚いの書いてない気もするし)。
 その重い本を箱に詰めて運ぶ。その単純な作業の中にも、後々の出しやすさとかそう言った面を考えると難しいところがあるわけで。一体どのようになるのかな、といったところ。レーベルごとに整理する、著者別に整理する、いろいろな梱包の仕方があるのだ。そう考えると、新居でどのような本棚スペースを作り上げるのか、と夢が沸いてくる。どきどきである。
 積読家は常に本を取り出せるよう、本棚は自分の行動範囲の半径一メートルの所に無ければならない。従って本棚を決めてしまえば、自然と部屋の配置も決まる。本棚が近くに無ければ、本棚代わりの何か(ボックス?)を用意すればいい。そのボックスにどのように敷き詰めるのか、腕の見せ所でもある。しかし僕は整理が出来ない。それ故、ベットのとなりには常に十数冊の漫画本が置いてある。もちろん、すぐ手にとって読む為なのだが、それを繰り返していると後々片づけが大変なことになるのは目に見えている。てか、今直面してる。誰か助けて。助けて京極先生ーー!!(※京極夏彦氏はお片づけ魔人としても有名である)

 しかし、環境を変える、というのは人間にとってリフレッシュ効果もあるようで(ストレスも感じるみたいですが)、僕なんかはこれで誰に気兼ねすることもなく本が増やせるぞ、と嬉々としているので、今から楽しみであります。新居での積み本生活、しかも本屋まで自転車で十数分! こんな理想的な環境は滅多にない。駅前近いしね。
 そんなわけで、運び方や詰め方に不安はあるのだが、かなり楽しみでもある。ベッドで原稿を打つよりはかどるかも知れないし(それは妄想です)。いまからわくわくしているのだ。
 ……だが踝よ、お前いいのかこのままで?
 何故こんな楽観的な話をしているかというと、実は僕がまだ梱包を始めていないから(待て)。そこで冒頭の問に戻ります。
 Q.後先考えずに本を増やしていくと、どんなことが起こると考えられるか。
 A.引っ越しの時、その本の量に途方に暮れる。
 ……まぁ、あとで泣かないようにそろそろ詰め始めますよ、といったところで以下次号(続かない)。
                                         (第伍回・おしまい)


Amazon.co.jp: 斜め屋敷の犯罪: 本: 島田 荘司斜め屋敷の犯罪 (文庫)
島田 荘司 (著)
文庫: 394 p
出版社: 講談社 ; ISBN: 4061851896 ; (1992/07)
[amazonで購入]
[bk1で購入]

| コメント (0) | トラックバック (0)

この作品をはてなブックマークに追加はてなブックマークで感想を書く