『PLEASE REMEMBER, MARRY-GO-ROUND』

著/雨街愁介

 錆びた回転木馬を男は背を丸めながら見ていた。男は以前、この場所で受付をしていたから。郷愁の中に沈む。桜が舞っている中、子供たちが声を上げながら回転木馬へと近寄ってくる。男は子供たちの前で、チケットを確認している……男は目を瞑った。目を開ければその世界が戻ってくると期待を込めていた。冗談のように。しかし……今男の目の前で、桜が舞っている。子供たちが通り過ぎてゆく。回転木馬が廻っている。これは、現実なのか? 子供たちが列を成している。その横で皺のまだ少ない自分がチケットを確認して、子供たちの笑顔に笑顔で返している……男は若い自分のもとへ駆け寄った。彼は最後の子供を捌き終えると、駆け寄った男のほうを見て、お乗りになりますか? と言った。男は首を振り、息子が来てから乗ります、と答えた。それは一種の反射のようなものかもしれなかった。彼はそうですか、笑顔を見せてから、ゆっくりと薄く、透明になっていった。
 男は、もう見慣れてしまった枯れた木と錆びた回転木馬をしばらく見ていた。が、やがてそれに背を向け駆け出した。連れてこなければならなかった。彼を。約束したのだ。男の鼻腔に桜の匂いが届いたが、男は振り返らなかった。


『いつかの回転木馬を』504文字

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