『WAR AND HER LAW』

著/雨街愁介

 摩天楼が横倒しになっている傍を女性が自らの赤ん坊を捜し求めて街を駆ける。どこかにまだあの子は生きている。そう信じている。街には黒く焦げた死体が腕を丸めて斃れている。その中に赤ん坊の形を探す。どこにもない。それは我が子の形ではない。彼女は、違う、と判断する。絶対に、違う。よく見れば似ていない。たぶん。
 彼女はビルの隙間に出来た日陰に横たわる。道には陽炎がゆらめいている。
 それからぼんやりする。
 その内、誰かがふらふらと彼女の傍に座る。女性だった。彼女も。その女性は赤ん坊を胸に抱いている。
 二人は話さない。必要がないからだ。
 夜になると自分の腕の長さ以上の距離は見通せない。隣の女性は眠っている。彼女はその、隣の女性の赤ん坊を静かに剥ぎ取る。鼻の先に掌を翳す。彼女の思ったとおりだ。少なくとも彼女にとっては。
 彼女は静かに涙を流す。
 そこから昔公園だった場所に行く。彼女はそこの砂場に赤ん坊を沈め、砂をかける。近くに落ちていた石を拾い、名前を刻む。そして、赤ん坊の埋めてある場所の上に置く。彼女は東が明るんだことを知ると、そこから走り去る。そうだ。どこかにまだあの子は生きている。

『どこにもいない、どこかにはいる』488文字

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