オンライン小説書評『姉、来たる』 著/虚影庵

語らない、が生みだす妙味

 夫を亡くし、子どもたちの独立も見送った主人公は、亡母が遺した家に独りで暮らしている。そこから彼女と姉との付き合いは始まるのだが、若いころの姉を知らない主人公は、褪せた写真の中の母と同じ顔をしている姉を見て、どうしても違和感が拭えない。
 淡々とした筆致で描かれているのは、結局のところ主人公と姉の会話に過ぎないのだが、多くの設定が巧妙に隠されており、ふしぎな不安定感をかもしだしている。この不安定感によって、表層に見える日常の裏に、非日常があるのではないかという予感を読み手は感じるだろう。そしてその予感を覚えてしまったが最後、暗に明に示されてきた「死」の香りを嗅いでしまうことになる。けっして多くを語りすぎず、さらりと書かれているから読み飛ばしそうになってしまうが、夫の死、母の死、公園の閉鎖……この作品には様々なかたちの「死」が溢れている。散りばめられていた謎は、しかし最後の一行において真相が明かされ、一点に収束してしまう。それが少し残念で、もう少し語られなかった物語たちが生みだす妙味を味わっていたかったと思う。(秋山真琴)

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