オンライン小説書評『形のない奇跡』 著/黒野玄人

それは、変わりゆくものを留める、優しい奇跡

 高校卒業と同時に上京した幼馴染みとの三年ぶりの再会。彼女が突然帰ってきた理由は、故郷で起きた幽霊の噂の取材をするためだった。
 請われるままに、現地人として彼女の取材に同行する主人公。二人っきりの取材行の中で、彼はつい三年前の彼女と、今の彼女の、変わってしまった部分・変わっていない部分を見つけ出しては、横たわる空白を埋められるだろうかと想う。
 短いような、長いような、三年という空白の時間。
 今、それを取り戻す資格があるのかと自問する主人公に、彼女はあくまでも優しい。そして、その後に続いたもう一つの再会に、更なる郷愁と逡巡が交差する。彼女が三年前に置いてきてしまった物が、今こうして現れ、再会はその深淵を埋めていった。
 けれどそこから、物語は隠された貌を露わにする。信じていた物が曖昧になり、知らない間に大事な物を失くしていた事に彼女は気づいた。けれど、この物語に起こる奇跡は、誰の責でもない哀しみを癒す優しさに溢れている。
 懐かしさと寂しさ、そしてそれをやわらげてくれる、粋な神様のはからい。人生には誰も悪くないのに、どうしようもない失敗という物が付きまとう。けれど、奇跡はそれに許しを与えるように、彼らの故郷にひっそりと立っている。
 あなたは、失くしてしまったものはありませんか? あるいは、置いてきてしまった大事なものは、ありませんか?
 誰にでもある、そんな落し物を思い出させてくれるのが、本作であったように思う。生き続けるという事は、後悔し続ける事と同義であると言っても過言ではないほど、人生に後悔は付きまとうのだ。まるで、気づかない間に刺さって、そのまま抜けなくなりながら、痛み続ける棘のように。
 これは、そんな忘れられた棘を抜き、癒してくれる、優しい物語。小さな救いの物語だった。(六門イサイ)

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