書評『文芸漫談 笑うブンガク入門』 著/いとうせいこう×奥泉光+渡部直己

 最初から、大袈裟なことを書く。この本は、あなたの小説の読み方を変えるだろう。芥川賞作家である奥泉光と幅広い分野で活動を行ういとうせいこうが、「文学」をネタに「漫談」を観客の前で決行するという異色の試みの結実である本書は、それほどの力を持っている。
 漫談形式で文学を語ることの意味は何か。実際読んでみればすぐにわかることであるが、とにかく「気楽に読める」ことに尽きる。(むろんそういった文章を否定するつもりはないが)しかめ面で「思考」を強制する類の文章は時に読者にとって負担となる。しかしこの「漫談」は思考を強制しない。しかしその実、散りばめられた笑いは読者に「思考」させるための手がかりとして機能しているのである。一見自らと遠い場所にあるように思われる文学的「思考」はあくまで日々私たちが〈思〉うこと、〈考〉えることの延長にあるのだと、「笑い」は示唆するのである。
 小説はほんとうに終わらなければいけないのか? 小説はコードを揺さぶらなければいけないのか? 面白い小説はなぜ笑えるのか? 「泣ける」小説はほんとうに素晴らしいのか?――ふたりはこういった命題を、論じるのではない。いや、内実は論じると呼ぶにふさわしいのかもしれないが、少なくとも個人的に感じるニュアンスとしては、そうではない。ではどうするのか。「ネタにする」のである。良く出来たコントがときに深い洞察を秘めるように、命題を笑いにつなげようとするとき、そこに不意に文学とはどういったものなのか、という途方もない問題へと繋がる示唆が現れるのである。帯に引用された奥泉の「いい小説ってやっぱり笑えるでしょ?」という言葉はそのまま本書に対して用いることができるだろう。「いい小説論ってやっぱり笑えるでしょ?」と。

 実は数ヶ月前に、「シーズン2」と題されて継続されているライブに行ってきた。シーズン2は個々の文学作品を扱うのだが、ポーの『モルグ街の殺人』をネタにしたその回も非常に示唆に満ちたもので、なおかつ、本で読むのとは異なった面白さがあった。本書を一読したあとは、ライブに足を運んでみるのもいいだろう。(基線)



文芸漫談―笑うブンガク入門文芸漫談―笑うブンガク入門
いとう せいこう 渡部 直己 奥泉 光

集英社 2005-07
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