オンライン小説書評『マラソン』 著/霞永二

自覚的で恣意的な視線の収束

 二○六○年の国際マラソン。先頭集団を追う中継カメラには、常に一人の観客の姿が映っていた。どうやらスタートからずっとカメラを片手に先頭集団と併走しているようなのだが、ただの観客にそんなことが可能だろうか。果たして、その人物の正体とは?
 作者である霞永二さんは、生活をテーマにした掌編小説の賞であるフェリシモ文学賞で第十回優秀賞を受賞しており、その技術の高さは本作からも窺える。シンプルでありつつ、オチまで読んで面白かったと思わせるショートショートを書くのは難しいが、この作品はそれに成功している。
 この小説の描写は全てカメラが映す映像だ。それがどんなに信じられない出来事でも、視聴者(=読者)からはその真偽を確かめることは出来ない。だからこそ、映像(=描写)は見る者の関心を集める。本作はそれを利用した構成となっている。謎の人物の正体を知るために最後まで読み進めたとき、散りばめられた言葉の数々が一本の線となってオチに結びついていたことを理解し、全体から浮かび上がってくる舞台背景に気づくことになるだろう。(遠野浩十)

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