書評『少年検閲官』 著/北山猛邦

 死や暴力を思い起こさせる書物が罪とされ、焚書に処される時代。歴史から次々と書物が駆逐される中、想像力を奪われた人間は、その感情を単純化させ、犯罪事件は減少の一途を辿った。それはまるで甘美な滅びで、感情を均された大人たちが徘徊するこの世界は、なんだか透明な墓場のようだった。
 著者の北山猛邦は「物理の北山」と呼ばれるぐらい物理トリックに長じたミステリ作家だ。この作品も彼らしく、ちょっと設定に無理があるのではないだろうかという世界で、ちょっと実行は無理なんじゃないだろうかというトリックが使われている。たとえば森の中の小屋に首のない死体があって、その小屋から出て三歩ばかり歩いて振り向くと死体を残して小屋だけが消失しているだとか、森の奥で触れた壁がまぎれもなく室内の壁で、村全体が巨大な部屋の中にあるといった謎に対する答えが(中略)だったなんて。思わず、あんまりだとむせび泣きたくならなくもないが、トリックが明かされるときには、すっかり著者のミステリや物理トリックへの愛に毒されているので、そういう突っ込みがとても無粋なものに思えたりもする。そういうことにしておこう。ビバ! 物理トリック!
 ところで、本書を読んでいるうちに著者の、かつてにない意気込みと言うか、熱意のようなものが感じられた。考えてみれば感情をレトリックで表現するのではなく、じかに書いている本がベストセラーになる最近の風潮は、まさに本書に描かれている書物が駆逐されつつある時代の写し絵ではないだろうか。また「こんなのはミステリじゃない」という言葉が飛び交い、各種ミステリランキングが不思議な結果を呈する現状を見ると、ミステリも既にして駆逐されていると言うか、冬の時代の真っ只中にいるのは間違いない。そういうことを考えながら、改めて本書を振りかえったとき、もしかしたら北山猛邦はミステリの旗印を、他の誰でもない彼自身が掲げつづけようと決意を表明しているように思えた。(秋山真琴)



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北山 猛邦

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