書評『柔かい月』 著/イタロ・カルヴィーノ

 どうして今、カルヴィーノを人に薦めようのするのか? と尋ねられれば、一言「面白いからだ」と答えるしかない。本を薦める理由なんてそれぐらいで充分だと私は思っている。本書はとにかく面白いし、何より興味深い。
 二百頁ほどで三部に分かれている。文字こそびっしりと詰まっているが、読むことには苦労しないだろう。私も二時間ほどで読み終わることが出来た。
 本書の語り手であるQfwfq氏は、あるときは地球の起源の目撃者となり地球について語り出す。またあるときは、生物の生殖細胞となって進化過程を語り始める。私はその発想に驚いた。まるで科学の参考書に載っていそうなことを、小説にしているのだ。
 私は今まで、小説というのは人間、ないし社会を扱うものであると思っていた。今まで読んできた小説はそうだった。だが、カルヴィーノはその既存の価値観を破り、まったく人間を扱わなくても小説というものは成り立つということを証明した。進化過程について科学の参考書をめくっても、無味乾燥な書き方しかしていない。そんなものを読んでいても楽しくないだろう。だが、カルヴィーノはそれを小説の手法で(ときには漫画のような手法で)語りかけることによって、今まで無味乾燥だった内容をとても面白く、興味深いものに変化させたのだ。私はカルヴィーノが文学の魔術師と言われるところはこの点にある、と本書を読んで思った。(夏目陽)



柔かい月柔かい月
イタロ カルヴィーノ Italo Calvino 脇 功

河出書房新社 2003-09
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