『1000 YEARS AFTER FROM THE END OF THE WORLD』

著/秋山真琴

「わあ……」
 目を開けた瞬間、飛び込んできた風景に思わず声が出てしまった。
 頭上にはいつもより大きく見える月が銀色に輝いている。眼下の雲は、月のひかりを受けてほのかに青白く染まっており、綿菓子のようにやわらかそうだった。
「やあ、少年。ここはどうかね?」
 いつもは囁く程度にしか聞こえない月の声が、明瞭に聞こえた。
「まるで海原のようだね」
「いにしえの彼方、人々は見渡す限りの海のごとき雲をして、雲海と呼んでいたのだよ」
「え? むかしの人もこの景色を見たことがあるの?」
「勿論だとも。いにしえの彼方、人々は鋼鉄の翼を駆り、宙を飛んでいたものさ」
「なんだ」
 失望の花が胸に咲く。
 最前までは、この世にこんな美しい光景があることを、自分ひとりしか知らないと、この雲上の世界を独占したつもりになっていた。それが、実は遠い昔にすでに誰かのものになっていただなんて。
 急激に視界が色褪せていくのが分かった。あまりのつまらなさに、でたらめに飛びまわってここをどうにかして破壊したいという衝動に駆られる。けれど。
「いにしえの彼方、人々は雲の上で停戦合意を結んだ。ここがあまりに綺麗だから」
 心はすぐに凪ぎ、もう少しこの穏やかな空を飛んでいようと思った。


『月と少年』531文字

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