『LIFICTION』

著/キセン

 四方の壁が黒く塗られた狭い部屋で一夜を過ごすことになった。灯りの類はない。ただ部屋の中央に置かれた布団に横たわっていればいいと云う。当然私は眠ろうとしたのだ。しかしこんなときに限って、かつての失言や、ちょっとしたものであるにも関わらず妙に後を引く失敗が次々と思い出され、恥ずかしいやら何やらでまったく眠れない。どうしたものかと思う。考えれば考えるほど眼は醒める。少しずつ深みにはまっていくように、ろくでもないことばかりを考えるようになる。なぜか歯止めがきかない。リズムを刻むようにテンポ良く絶望は強まっていく。絶望という存在それ自体が新たな絶望に変わる、絶望していることに絶望する。もう一秒も絶望していたくない。そのためには死ななければいけない、いますぐ。
 しかし真っ暗な部屋である。紐もナイフもガス管もない。枕に顔を押し付けてみる。耐えられずすぐに離してしまう。自らの首に手を添えて力を入れる。少し苦しくなるとそのつもりがなくても離してしまう。情けなくなる。自分のようなものはもう一秒たりとも生きていてはいけないのだと思う。そのとき、気付いた。私はどうやってこの部屋に入ってきたのだろう。扉も窓もないのに。どうしても思い出せない。誰が横たわっていればいいと云ったのだろう。──ふと、光が差すように、そうか。私は思い出す。すべてを。私は壁に向かい歩き出す。黒い壁はあっけなく壊れた。そして白い世界。私は走る。世界の果てに。そして生き続けることを決めるはずの次のページへと──
 ぱたん。


『つまらない本を最後まで読むのは時間の無駄だと、彼女はいった』643文字

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