『地獄は終わらない』 (4)

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 それからしばらくしても、俺の状況は何ら変わりはなかった。
 いつも通りに、赤色の川に浸かって、重たい石を運んで、俺の場所に置いて、また運びに行って、そして戻ったら壊されていて、その繰り返しだ。
 リピート、リピート。
 終わる事のない地獄、終わらない地獄。
 いや今思ったのだが、終わらないからこそ地獄なのかもしれない。
 だとすると俺は今まで間違いを犯していた。
 落馬して落ちる、太ってるデブ並に恥ずかしいミスだ。
 終わらない地獄ではない、終わらないから地獄なんだ。
 地獄は終わらない。

 それが改めて自分の中で刻み込むように、俺は鬼にある事を聞いた。
 俺の石を粉砕したばかりで上機嫌だった鬼は、簡単に俺が尋ねた質問に応えてくれた。

「あぁ、あのオッサンなら生き返ったぞ」

 予想通りの言葉、予想通りの結末だった。
 俺が蹴って見捨てた。
 顔は不細工で、髪は貧曾な、あのオッサン。
 やっちまったな……。

 この地獄を抜け出すには、実はもう一つ方法がある。
 それはとても簡単なようで、難しい方法。
 ヘタしたら、石を七つ積み上げるより難しい選択肢だ。
 それは、〝自分が死ぬ前の時に、生き返る〟事だ。
 ようするに、やり直し。
 自分が死んでいたという事実は書き直されて、地獄にいた苦しみも忘れて、もう一度人生をやり直すというシステム。
 ははっ、何て最悪なジレンマだろうか。

「そういえば、あのオッサン泣いてたなぁ。やめろ、やめろぉ! とか言ってたぜ。馬鹿な野郎だ。もう一度人生をやり直せるのに、何をそんな嫌がる事があるんだろうな」

 と、鬼は豪快に笑いながら、何処かに歩いて行く。
 オッサンはあの鬼に助けを求めたのかな。
 それとも他の鬼なのか分からないが、まぁいい。
 自分が死ぬ前の時に、生き返るには、鬼に助けを求める事。
 それが条件となる。
 ラクになりたいから死んだのに、死んでラクになれなかったから助けを求めたのに、──世界はちゃんとした歯車で構成されているらしい。
 俺達の世界にあるリサイクルのルールより、よく出来てるのではないだろうか。
 生きてても苦しんで、死んでも苦しんで、そしてまた苦しむ。
 苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しむ。
 終わらない。
 地獄には終わりはないのだ。
 俺は鬼に助けを求めて、生き返ってしまった奴等を何人も見たから、未だにここにいる。
 あのオッサンもそれを知っていたら、こんな事にはならなかったというのにな。
 馬鹿だなぁ、ほんと、馬鹿だなぁ。
 せめて、考える事をやめてしまった人形の一歩手前になる辺りで、助けを求めればいいのに。
 俺はそうするつもりだ。
「あ、それとよぉ、お前はいつ頃になったら生き返るんだ?」

 鬼は俺に問い掛けて来た。
 先ほど豪快に笑っていたあの鬼だ。
 まだどっかに行ってなかったらしい。
 さっさとお前も生き返れと言いたいのだろうか、真面目なようで、面倒臭がりな鬼だ。
 俺も面倒臭いのだが、仕方がないので、ちゃんと答えてやる。

「多分、一生しないね。一生ね」

 生きていないと言うのに、一生と言うんも何だが、まぁいいだろう。
 俺は生き返るつもりはない。
 案外、この地獄も悪いもんではないのだ。
 何、この苦しみも精神が壊れてしまえば、どうにかなるはずだ。
 それさえどうにかすれば、あとは簡単。
 ずっと石を運んだり、積み上げたり、壊されたりすればいい。
 楽勝な話じゃないか、俺は笑みを零しながら、石運びの作業へと戻った。
 精神はまだ壊れていない。
 早く壊れる事を望みながら、地獄を歩いた。

                                                    了

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