『キミとボク、仮面人間』
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人間は誰しも仮面を被っている。
体のほとんどは水で出来てると言うが、あれは嘘だ。
体のほとんどは嘘で出来ている。
本当の事なんて少ししかない、嘘、嘘、嘘だらけのフェイクだらけの仮面を付けた奴等ばっかり。
今僕が見ているTVの映像もそうだ。
TVには、ある企業が悪い事をしたらしい。
どのように悪い事をしたのかは興味無かったので覚えてないが、彼等が被っている仮面は、僕にはよく見えた。
謝罪の仮面。
カメラのシャッター音とフラッシュが、鳴り、光る中で、彼等は謝罪の仮面を被って、謝罪する。
この度の事は、大変申し訳ございませんでした。などと社長らしき人物がTVの向こうで言っているが、馬鹿らしいにも程がある。
嘘をつくな、この仮面人間。
仮面人間どもは横一列に全員同時に頭を下げた。
頭を下げても彼等が被っている仮面は落ちない。落ちるはずがない。
何故なら、彼等が被っている仮面は実在してるようで実在していなくて、実在していないようで実在する存在だからだ。
僕には特殊な能力がある。
幼い頃から、現在高校生である今日まで持っていた忌まわしき能力。
能力というより呪いなのかもしれない。
〝仮面を見る能力〟
嘘を見抜けるのとは微妙に違う、何と言うのだろうか、言葉の嘘が分かるのではなく、〝表情の嘘〟が分かると言えばいいのだろうか。
人はどんな時でも仮面を被る。
これは比喩でも何でもなく、ただの事実だ。
人は相手を偽るために、あらゆる表情の仮面を被る生物。
素顔を見せる時なんて滅多にない、いつだって人間は仮面を被って、自分を偽って生きてる。
泣いてるくせに笑っていて、楽しくないくせに楽しそうにして、自分という素顔を仮面で隠して生きる生物。
それが、人間だ。
幼い頃はそれを理解するのに、苦労したものだ。
仮面が見えるのが当たり前だと思ってたし、その仮面がどういうものかを、理解するのにも多大な時間を費やした。
そして、一時期僕は人を信じられなくなった。
破綻した。
それもそうだ。
今まで信じていたモノが信じられなくなったのだ。
僕と楽しそうに喋っていた友達は、いつも笑顔の仮面を被っていて。
僕が困ってる時に助けてくれた知人も、仮面を被っていて。
僕の両親も、仮面を被っていた。
人間は誰しも仮面を被っている。
体は水なんかじゃ出来てはいない。
ほとんどが嘘で作られている。
嘘という嘘。
嘘、嘘、嘘。
仮面。
仮面、人間。
それを理解するのに一体どれくらいの時間を費やしただろうか、それに絶望するのにどれくらいの時間を費やしただろうか。
「これからカラオケ行かない?」
僕と同じ学校の友達が僕に声を掛ける。
時間割の最後の授業が終わり、音量を消して見てたワンセグ携帯を閉じて、机の中にある教科書を勉強のために数冊持って帰ろうとバックに入れる瞬間だった。
僕の前の席にいる人物、まぁ一応友達である奴に声を掛けられた。
仮面を見る事が出来て、仮面の正体を知った僕だが、どうにか今は立ち直った。
前はそのせいで不登校になってた時期もあったのだが、今では何とか振る舞う事が出来ている。
学校というのも社会の一部だ。社会の練習場。
社会に出ると色々な事が人間に襲いかかる。
それは人間関係だったり、仕事による疲労だったり、上司からの叱責だったり、その災害から身を鍛えるために存在するのが学校だ。
だから学校でやっていけない人間は、社会には出れない。
社会に出れないって事は、生きてはいけないって事だ。
僕は……一応まだ生きていたい。
「いや……ごめん、今日は気分悪いから帰る」
「えー、残念だなぁ。アイちゃんがいないと、寂しくなるよ」
ごめんごめんと謝りながら、アイちゃんというチャン付けされた不本意なあだ名に不満を抱きながらも、僕は教室を後にした。
仮面を被っていた友人の姿を見ないように、一度も振り返らないで教室を後にした。
学校から歩いて数分程度の所に公園がある。
公園と言ったら、僕のイメージではブランコとすべり台と砂場だけがある場所ってイメージだったのだが、この公園はそんな空しい公園とは違っていた。
この公園には中心に大きな池があり、それを中心にベンチが数カ所設けられていた。
木も幾多にも植えられており、僕が刻んでいた公園の定義はモノの見事に書き換え直された。
僕は、大きな池の周りに置かれているベンチの一つに腰を掛ける。
僕の他にも、散歩した後の休憩だと思われる老人や、こんな時間から熱々なカップルや、何故かスーツ姿で沈んでいる中年男性の姿が見受けられた。
その中に顔色が悪い学生が追加される。
顔色が悪い学生とは僕の事で、その学生はとても沈んでいた。
……何故だか、自分でも分からない。
まさか仮面にショックを受けたのだろうか、馬鹿な。
今までだって、何回も何十回も何百回も見てきたじゃないか。
だと言うのに、今更仮面を見て悲しむなんて……そんなの有り得ない。
きっと、疲れていたんだと思う。
この眼は、本人が必要としていないと言うのに、僕が起きている時間、ようするに目蓋を開いて視認している時は、常時発動される能力で、またその能力は微妙に僕の体力を奪っているのだ。
なので僕は起きている時に多大な体力を要する。
昔は何回も倒れていたな、何回病院に入院した事か。
今はそれもなくなり、慣れてきたのだと思っていたのだが……油断しているとこうなるって事か。
油断してるつもりはなかったのだが、そういう事を思っている時に起こる事こそ油断したと言うのか。
反省しよう、あまり期待しすぎてはいけない。
自分の体を、体力を信じてはいけない。
適度に休憩を行うように心がけよう、もしくはもっと慣れるように鍛えよう。
でないと、社会では生きていけない……死んでしまう。
とりあえず、今は休憩に専念する事にした。
嫌な現実を見たくないから、眼を逸らすために眼を閉じた。
面白い皮肉だ。
逸らしたいのは現実というよりも、僕の眼球自身だと言うのに、……何て皮肉だ。
夕焼けの赤い空を鏡のように映した池の映像が段々とカーテンが掛かる。
カーテンが完全に下がり、僕の視界は目蓋に閉ざされた。
これで嫌なものは見えない、仮面は見えない。
聞こえて来るのは、人々の声と風の音。
ただそれだけだ。
聞こえて来るだけだ。
一時の安息に身を委ねる。
思わず、僕は……そのまま……意識が消えていった。
頬を突かれる感覚が神経に伝わり、意識は目覚めた。
どうやら僕はあのまま寝てしまったらしい。
体は冷め切っていた。
馬鹿らしい、体を休めるためにここに来たのに、風邪になっては元も子もない。
妙に重量がある目蓋をこじ開け、現実を見つめた。
「あ、起きた」
そこには、誰だか分からない女の子がいた。
どうやら、僕の頬を突いていたのはこの子だったらしい。
起きてからも少し放心状態だった僕を、また突いて来る。
そんなに愉快な存在なのだろうか、僕は。
「おーい、起きろー。風邪引くぞー」
「目蓋を開けながら寝る技術は僕にはないよ」
まだ寝ぼけながらも、冷淡に僕は言った。
思考はまだ屈しているが、仕方ない、結構な時間寝ていたのだろう。
空は赤から黒に染まり、光は公園のあちこちに置かれている街灯だけになっていた。
「あはは、起きてる起きてる。駄目だよ、こんな所で寝てちゃ、風邪引くから気を付けないと」
「……あぁ、そうだね。ご親切に、どうも」
どうやら、心配して僕を突いていたらしい。
出来れば親切にしてくれるなら、肩を揺らして声を掛けるにしてもらいたかったが、諦めよう。他人に、必要以上に期待を寄せるのは間違いだ。
「こんな所で寝てるなんて何かあったの? ……はっ、まさか家なき子!?」
「懐かしいね、そんなドラマがあったね」
とりあえず微妙にスルーしておいた。
家あります、家。
住んでいます、ちゃんと。
「ひっどいなー、今のもっとちゃんと突っ込んでほしかったなー。女の子の華麗なボケを殺すなんて、もしかして君、サド!?」
「それだけの事で、僕の性癖を決定しないでくれ」
てか変な性癖は持ってない、持ってないぞ、僕。
「あははっ、君って結構面白いね」
「ありがとう。君も面白い人だよ」
「んぅ、機械みたいに言われても嬉しくなーい」
腕をぶんぶんと振り回し、自分の感情を表現する少女。
……いつになったら、どっかいくのだろう。
なかなか消えないな、この子。
……いや別に、嫌ってわけじゃないけど……、何でだろ、この子……〝仮面をしてない〟。
笑顔をする時も、文句を言う時も、目の前の少女は、素顔を見せたままだった。
他の人間は仮面を被っていたというのに、この子は、被っていなかった。
「……え、どうしたの、君?」
「え?」と思わず言ってしまったが、思考は遅れて今頃気付いた。
忌まわしき眼球から、僕は、涙を流していた。
「何で、泣いてるの?」
自分でも分からなかった。
本当に、本当に分からなかった。
「悲しい事でもあったの?」
優しく、少女は僕の顔に手を添える。
その手は優しくて、温かかった。
涙が出るくらい、温かかった。
僕は思わず、声を上げて泣いた。
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