『キミとボク、仮面人間』 (2)

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 人間は誰しも仮面を被っている。
 体のほとんどは水で出来てると言うが、あれは嘘だ。
 体のほとんどは嘘で出来ている。
 そう思っていた。
 思っていたのだが、世の中には必ずしも例外はいるものだ。
 正常がいれば、異常がいるのと同じように、必ずしも普通という枠内に入れない変わり者はいる。
 それが、彼女だった。
 名前は、水島 理名。
 みずしま りな。
 僕と同い年の女の子で、僕を助けてくれた少女。

 結局あの夜、僕は声を上げて泣いて、彼女に泣き縋る形になった。
 本来ならば、赤の他人であるはずの人間を、慰めてあげるなんて理解に苦しむ所ではあるのだが、その不理解な行動のおかげで、僕は助かる事になった。
 思い出すと赤面ものなんだが、それを補って余るくらいに、……嬉しかった。


 時間は、空が赤色がかった夕焼けの時間。
 僕は初めて出会ったあの場所で、彼女と待ち合わせをした。
 中央に大きな池があり、その周りにベンチが数カ所設けられている公園。
 老人やら、カップルやら、リストラされたかのように物凄く落ち込んでるスーツ姿の中年男性の中に、新たに常連客が追加された。
 端から見たら、カップルに見られるかもしれないが、そこはご安心。
 二組もカップルいるよ、嫌な時代になったなと思われる事はない。
 何故なら、僕と彼女は昨日出会ったばかりの友達だからだ。

「だーれだ?」

 僕の視界を、急に何かが閉ざす。
 こんな事をするのは、そしてこの声の持ち主は、あいつしかいないのだが、あえてここはボケておこう。
「ジャイアント馬場」
 眼球が圧迫された。
 失明する所だった。
 思わず、涙目になる。
「乙女を怒らせた罰!」

 訴えがける僕の視線に、それよりも強い意志で訴える少女。
 某有名校の学生服を着ていた。
 まるでその学生服は彼女のためにあるかのように、似合っていた。
 赤い空の光が混ざったのか、長い黒髪は少し赤色がかっていた。
 それはとても彼女に似合う色だ。
 強く優しい心を持った彼女に相応しい色であった。
 僕は思わず苦笑する。
 何だか、その光景がとても綺麗に見えたからだ。
 おかしい話だ。
 ……現実って、こんなに綺麗なものだったのかと、彼女を見て思った。


 ふと、学校での出来事を思い出す。
 それは、やたら自慢話が多い男子の事だ。
 名前は……四文字程度だった気がするが忘れた。
 そいつとは学校で何回か話すが、そいつ自身には何の興味もないので覚えてない。
 ならば、そんな奴と何で話してるんだと疑問に思わなくもないが、その考えは危険だ。
 例え相手がどんな嫌な人物だとしてもコミュニケーションはちゃんと取らなくてはいけない。
 人脈はどんな時に役立つか分からないのだから。
 社会に出たら、それを嫌と言う程に思い知らされるだろう。
 だから、社会の練習場である学校で挫けてはいけない、ここで挫けているようでは社会で生きてなんていけないのだ。
 なので僕は顔を取り繕いながらも、その嫌な人間と会話した。
 話題は常にそいつの自慢話だ。
 彼女が可愛いんだが俺に甘えてばかりで大変だ。サッカー部に入ってるんだが、監督や先輩に期待されていて、他の部員よりも厳しくしごかれて大変だ。この前、英検受けてみたんだけどね。あまりにも簡単だったんで、最初ちょっと居眠りしちゃって、そのまま試験終わっちゃってたよ。いやぁ馬鹿してた、油断大敵ってやつだね。親にその事を言ったら、怒られたよ。大変大変。
 等々。
 脳味噌をどういう構造にしたら、こんな言葉が吐けるのか疑問符を浮かべたが、流石にそれは本人に聞けない。
 折角築き上げた人脈が崩れてしまう。
 人脈は後々タメになる。タメになるものは、崩してはいけない。
 例え、それが仮面人間であってもだ。
 自信という仮面を被り、そいつはペラペラと自慢話をしていた。
 どうやら、自分自身でもちゃんと分かっているらしい。
 自分が大したことない奴だと、だから自信という仮面を被っているのだろう。
 昔写真を見させてもらったが全然可愛くなかった彼女に、監督や先輩に嫌われているだけで実際は何ら期待されていない部活動、そして期末の英語のテストは五十点にもいかない脳味噌。
 笑わせる、こいつの仮面は何も僕じゃなくても他の人間にも分かるだろう。
 こんな見え見えな嘘に、仮面に、気付かない奴はいない。
 それは、自慢人間と僕の会話を途中で終わらせた人間を見れば分かる事だった。
 自慢人間が楽しそうに口を回らせていると、途中他のクラスメイトの男子に呼ばれたのだ。
 何だろうと疑問に思いながらも、僕は自慢人間を適当に言って放置して、クラスメイトの所へと向かった。
 何でも、その人間は自慢人間の事が嫌いらしい。
 あんな奴と喋るなよ、お前も自慢野郎になっちまうぜ。らしい。
 お前面白い奴なのによ、あいつと喋ってると面白くない菌が移っちゃうぜ。と、言っていた。
 どうせ、あいつお前と仲良くなりたいから有りもしない事をホラ話を言ってるだけだろ? やめとけ、汚れちゃうぞ、お前。と、言っていた。
 そいつも仮面を被り、同じ仮面人間である自慢人間の事を中傷し、交流をやめろと言った。
 笑わせてくれる。
 お前もあいつと同じ仮面人間の癖に、本当なら、自慢人間だけじゃなくお前とも交流を絶ちたいくらいなのだ。
 だが社会に出るには、今の内から人間関係に慣れないといけない。だから、こうやって必死に取り繕ってるというのに、……そんなネガティブを抱きながらも僕はそいつの言葉にYESと言った。
 仕方がない、でなければこのクラスメイトとの交流が悪くなるのだ。
 ヘタしたら、僕まで除け者扱いだ。
 それはあってはならない、絶対にならない。
 なので、僕はまた取り繕い、気を付けるよと他に適当な事を言って、終えた。
 仕方がないのだ。
 どうせ、周りから嫌われてる自慢人間との関係はあまり役に立たないものだろうし、それだったら、まだ友人が多いこのクラスメイトとの交流を大切にした方がいいだろう。
 人間関係とはそういうものだ。
 そう、……そういうものだ。
 仮面を被って、素顔を隠して、接する。
 それが、人間なんだと思っていた。
「……何よ、人の事をジロジロと見て」
 女の子は、僕の視線に嫌そうな顔をする。
 今頃思ったのだが、この子はなかなか良い顔をしている。
 少なくても、健全な男子なら確実に惚れるであろう顔立ちだろう。
「……だからジロジロ見るなっての、恥ずかしい。眼球を刳り抜くぞ」
 おっと、怖い怖い。
 少しばかり怒らせてしまったようだ。
 僕は慌てて謝る。
 仮面を被らない少女に、僕といつも素顔で接してくれる少女に、僕は、心から謝った。
 そして心の中で感謝した。ありがとうと。
 彼女だけでなく、僕は思わず運命にも感謝してしまった。
 この少女と僕を巡り合わせてくれてありがとうと、〝僕と同じ少女〟と巡り合わせてくれてありがとうと、僕は感謝の言葉を心で呟いた。


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