『キミとボク、仮面人間』 (4)

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 時間は日付が変わり初めて深夜零時。
 僕はあの言葉を聞いてからというもの、ずっと放心状態だった。
 〝僕も被っている?〟
 仮面を、周りの人間と一緒の、仮面を被っている?
 驚きを隠せなかった。
 まさか、僕も他の奴等と同じ仮面人間だったなんて。
 自室に置かれている縦長の鏡を覗いてみる。
 そこには仮面を被っていない自分自身の姿が映っていた。
 ……仮面は映っていない、僕は仮面なんて被っていない。
 その、はずだ。
 ……だがもし、もしだ。
 能力者は能力者自身の仮面を見れなかったとしたら、どうだろう。
 それに彼女が言った時、仮面を被っていなかった。ようするに、嘘をついてないってことだ。
 そうなるとこの考えは正しいと思える。
 この能力は、自身の仮面を見る事が出来ないのだ。

「……ははっ、とんだ道化師だ」

 てっきり、僕は彼女と同類だと思っていた。
 同じ仮面を見る能力に困っている、苦しんでいる被害者。
 だと思っていたというのに、……道化師だ。
 僕は被害者の立場じゃなく、加害者の立場。
 いつも素顔でいて、仮面を見る事が出来る能力を持ったあの少女とは違う。
 僕は素顔なんか晒していなかった。
 仮面を被っていたのだ。
 他の奴等と同じ仮面人間。
 彼女を苦しめる仮面集団の一人、仮面人間。
 あぁ、何て道化なんだろう。
 ただ僕は一人で舞い上がっていただけだった。
 不出来な歓喜のダンスを踊っていたに過ぎなかった。
 何故なら、僕は道化師。
 下手な歌を歌い、下手なダンスを踊り、人々に笑われる存在。
 思わず、涙が流れる。
 僕だけしかいない、窓も雨戸も閉めて、ドアも閉めて、光を完全に閉めた闇の空間。
 自室で、僕は一人涙を流していた。
 今この場には彼女はいない。
 救ってくれる人はいない。
 だから代わりと言ってはなんだが、僕は暗闇に救済を求めた。
 暗闇は何も返事はしない。
 ただ僕の存在を包み込むだけ……、僕は暗闇に成すがままに包まれて、目蓋を閉じた。

 気が付いたら、朝になっていた。
 黒色に染まってたはずの視界が、目蓋越しからも明るい色へと変わる。
 夜は終わり、朝の始まりだ。
 憎めずにはいられなかった。
 光が憎らしい、闇が愛おしい。
 絶望が体内で蠕動する。
 吐き気さえ感じる。
「あははっ」
 思わず笑みが零れる。
 僕は一体全体どうしたのだろうか。
 どうしてこんな事になったのだろうか。
 彼女に会ったからだろうか、自分が被っている仮面に気付いた事だろうか、……分からない。
 分からない分からない。

 その日、僕は学校を休んだ。
 とてもだが、学校に行ける状態ではなかったのだ。
 本来ならば、出席日数はとても重要で、後々進学するのに必要不可欠なもので、体調管理にも気を付けていたのだが、……休まずにいたのだが……何か、もう駄目だ。
 後々の事を考えずに、僕は電話で担任に電話し、欠席する事を告げると、光が微かに零れていた雨戸を完全に閉めて、暗闇にまた抱かれる事にした。
 今は、今は……何も考えたくない。
 出来れば、このまま時間を止めていたかった。

 それから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
 暗闇の中で、携帯電話の音と光が暴れる。
 テーマは、「灰色の銀貨」というアーティストの『鼓動』という曲。
 携帯電話の光がなければ、この空間に相応しい暗い曲。
 この曲は電話着信の時に流れる曲だ。
 面倒臭いが、仕方ない。
 僕は怒りを感じながらも、携帯を確認する。
 もし、クラスメイトだったら無視しよう。担任だったら、一応後々のために出ておこう。……僕に未来があればの話だが。
 ……着信名を見てみると、それは意外な人物だった。
 水島 理名。
 仮面を見る事が出来る少女、いつも仮面を被らない少女。
 あれ……僕はいつ彼女に番号を教えたっけ。
 僕は、少し戸惑いながらも彼女からの電話に出ることにした。
 僕の番号を知っていたのは意外だったが、……いやほんとは恐怖を感じなくてはいけないんだろうが、何故だろうか、僕は彼女にそんな感情を抱きはしなかった。


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