『キミとボク、仮面人間』 (5)

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 時間はサラリーマン達が仕事を終えて自宅へと帰宅する頃の時間帯。
 そんな遅い時間に僕は逆に、自宅からある場所へと向かった。
 彼女と初めて会った場所。
 中央に大きな池があり、その周りにベンチが数カ所設けられている公園。
 老人やら、カップルやら、リストラされたかのように物凄く落ち込んでるスーツ姿の中年男性は、今はいないが、それでいい。
 むしろその方がいい、彼女と二人っきりになれる。

「こんばんは、遅刻者さん。学校が終わったら、この公園で待ち合わせって言ったのに、随分と待たせてくれたわね」

 額には怒りマークを浮かべた少女が一人、ベンチの所にいた。
 この前と同じ顔で、素顔で彼女は僕に話しかけた。
 だが、僕は……仮面を被って喋る事しか出来ない。
「ねぇ、僕って今も仮面を被ってるのかな?」
 その言葉に少し驚きながらも、彼女は言った。
「うん、被ってるよ」

 改めて思い知る。
 僕は被害者じゃなく加害者。
 仮面、人間。

「でも……その仮面はどこか他の人と違うかな。……まるで、素顔を見られるのが怖いから被ってるみたい」
 え、……それはどういうことだろうか。
「普通は嘘をついてるから仮面が見えるんだけどね。……君の場合は違う、何だか、怖がってるように見える」
 怖がってる?
 僕が……何に?
 彼女は僕の方へと歩み寄り、僕の顔に触れた。

「君は多分、今までずっと仮面を被ってたんだね。多分無意識の内だと思うよ。周りが仮面人間ばかりだから、自分も仮面を付けなくてはいけないと思ったんじゃないかな。だから、無意識に君は仮面を被っていたんだろうね。自分を隠すためじゃなく、本当の自分が分からないから、きっと怖かったんだよ、この仮面を外したらどうなるか分からなかったから」
 幼い頃から、僕は仮面を見る能力を持っていた
 最初はその仮面が何かよく分かっていなかったが……、果たしてその時なのだろうか?
 僕は、その時から、仮面を被るようになったのだろうか。

「ほら、今だって無表情を繕ってるくせに……」
 彼女は僕の目元に優しく手を添える。
 温かい、優しい手。
 その優しさに触れられて初めて僕は、自分が泣いてると言う事に気付いた。

「辛かったんだね。……仮面を見るのが、仮面と接するのが、……だから泣いてるんでしょ? 自分も彼等と同じ仮面人間なんだと気付いて、だから泣いてるんでしょ? 仮面を見るのが、自分と接するのが、辛くなって」
 涙は止めどもなく流れる。
 止めようとしてるのに、蛇口は閉まらない。
 果たしてこれは悲しみが溢れてるのか、喜びが溢れてるのか分からないが、とてもひどい顔をしてるのだろう。

「……あぁちなみに、ひどい顔はしてないよ。むしろ、綺麗な顔だよ。とても……とても……ね」
 そう言うと、彼女は僕を抱きしめた。
「大丈夫。仮面を被るってのは、別に悪い事じゃない。人はね、隠したい事が一つや二つ、いやもしくはそれ以上、必ず持ってるんだよ。だからね、仕方がないんだよ。仮面を被らないと、自分を護る事が出来ないからね。人の心はとても貧弱だから、仮面という盾をしないと、すぐに壊れてしまうんだ」

 彼女の言葉が耳元で直に囁かれる。
 その言葉は、今までのどんな言葉よりはっきりと僕の心に残る。
「……だけど、君は仮面を被ってないじゃないか」

 残るからこそ、違うと思った事は直ぐに言った。
 だって、彼女は仮面を被ってない。
 彼女は、誰もが被ってると、心は貧弱だから仮面という盾をしないと壊れてしまうと、彼女は言った。
 だが、彼女は被ってない。
 いつだって、素顔だ。
 今も、彼女は仮面を被ってない。
「言ったでしょ、誰もが仮面を被ってるって」
「君は被ってないよ……」
「被ってるよ」
 思考は段々と薄れがかっていく。
 まるで窓に息を吹きかけて白色になったかのように、段々と色は無くなっていく。
 目蓋は……重くなっていく。
「君には見えないだけだよ……。大丈夫、被ってない人なんていないよ」
 彼女に体を抱かれながら、僕は思考が段々と落ちて行く。
 それは暗闇よりも優しく、暗闇とは違って温かかった。

「大丈夫だよ、〝僕〟も仮面を被ってるよ」

 消えかかる思考の中、彼女の言葉が脳内に刻まれる。
 本当に、本当に、改めて思い知った。
 君に出会えて良かったよ。
 心の底から、僕は彼女に感謝した。


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