『キミとボク、仮面人間』 (6)
6
人間は誰しも仮面を被っている。
体のほとんどは水で出来てると言うが、あれは嘘だ。
体のほとんどは嘘で出来ている。
本当の事なんて少ししかない、嘘、嘘、嘘だらけのフェイクだらけの仮面を付けた奴等ばっかり。
だけど、それが悪い事なのかと言うと、そういうわけではない。
そもそも善悪の判断など簡単に出来るものではないが、少なくても自身を護るのなら、仕方がないと思う。
自身を護るためなら何をしてもいいわけではないが、盾をするぐらいならいいだろう。
人は盾がなくては生きていけない。
仮面を被らないと、生きてはいけない。
「ねぇねぇ、今度こそカラオケ行こうよ。アイちゃん」
僕が脳内でちょっとした哲学を思考していると、目の前の席にいた友人がカラオケに誘って来た。
……全く、本当にカラオケが好きな奴だ。
そんなに、カラオケって面白いものだろうか。
……というか、アイちゃんってなんだ。アイちゃんって、意味不明だぞ。そのあだ名。
「え、だって、水島の島って、英語でアイランドじゃん」
「分かりにくっ……」
ミッズーと直球で呼ばれるのも嫌だが、そんな遠回りに言われるのも何か嫌だ。
「いいからカラオケ行こうよー。あたし、もう我慢出来ないからね。絶対逃がさないよ、今日は絶対カラオケ行こう。用事は全てキャンセル。カラオケ優先ね」
必死に彼女は僕をカラオケへと連れ出そうとする。
……そんなに、僕とカラオケ行きたいのだろうか……彼女が被っている仮面を見てみる……僕と行きたいというより、歌いたいだけなのかな。
何か彼女が被っているのは友情という仮面な気がする。
この子、友達はそれなりにいるがカラオケに行くメンバーは少ない。
というか僕しかいない、仕方がない……この子は音痴だからなぁ。
「分かった。分かりましたよ。行きます、行きますです。僕は、君と一緒にカラオケ行くことにしますよ」
両手を上げて降参。
降参した者は、強者の言う事を聞くしかない。
「OK! OK! それじゃ、さっさと行こう! 音速で行こう! ホラ、早く!」
全部の言葉にマークを付けて、彼女は僕の手を引きずって教室を後にした。
途中、自慢人間に出会って捕まりそうになったが、友人が物凄い睨みを効かせて、退散させた。
相当あの男子の事が嫌いなんだな。
「あ、あとさ。今頃聞くのも何だけどさ。どうでもいいことかもしれないけどさ」
彼女は急に立ち止まって、僕に聞いた。
「何であんた、〝女の子〟なのに僕って一人称なの?」
……そういえば、そうだ。
今頃気付いたが、自分の一人称が僕って事に、今頃気付いた。
そうか、この癖まだ治ってなかったか。
「いや……ぼ、じゃないや、私って兄が四人ぐらいいてね。幼い頃から、そいつらとよくいたから、僕って一人称がなかなか治らなくて」
「えぇー、それ気を付けた方がいいよ。女が僕って言うなんて、変だよ」
それもそうだ。
確かにそうなんだが……癖なのだから、仕方がないように思える。
だがなるべく治さないといけないんだろうなぁ、社会に出る時に、一人称が僕だと色々とマズイかなぁ。
「よし、じゃぁ今日はカラオケだけじゃなくて、合コンもしよう! 合コン! 野郎達の前になれば、僕ってのも言いづらくなるでしょ!」
きっと言いづらくなるってわけではないと思うが、彼女は嬉しそうに携帯を取り出し、片っ端から電話を掛けた。
まずい、本気らしい。
「OK! 三人ぐらいゲットしたよ。これでバッチリだね!」
グッ、と親指を立てて、笑顔で言う。
全然グットじゃない、グットじゃないよ。
「大丈夫。その後、ホテルに連れて行かれないようにちゃんとするから、ただ金をあちらに出させて、ついでに口癖も治すだけ」
……それって、どうなんだろう。
善悪の判断は、ただの女子学生が出来るもんではないと思うが、……これって悪い事な気がする。
「いいからいいから! ホラ、さっさと行くよ!」
また手を引かれ、僕は強引に連れて行かれる。
……仕方がない、人間関係というのは社会に出る時に必要なものだ。
今の内に、慣れておくとしよう。
廊下を手を引かれながらも走っていると、窓から見える景色に、あの時の体験が蘇るものがあった。
中央には大きな池が広がっており、その周りには数カ所ベンチが設けられていて、そのベンチには散歩した後の休憩だと思われる老人や、こんな時間から熱々なカップルや、何故かスーツ姿で沈んでいる中年男性の姿が見受けられた。
その中に、顔色が悪い女子学生はいない。
その中に、僕を助けてくれた少女は、もういない。
もういない彼女に、僕はもう一度お礼を言った。
誰にも、僕の手を引く彼女にも聞かれないように、小さい声で、ありがとう、と言った。
「こら、ぼぉーとしないの! 早く行くよ、理名!」
お礼を言ってる間ぐらい、そっとしておいてほしいものだが、仕方ない。
この子はこういう奴だ。
……最後に彼女と出会って別れた公園を一瞥する。
本当に、ありがとう。
もう二度と僕は、僕を助けてくれた彼女(僕)に会う事はないだろう。
なので、この言葉は何の意味も成さないのかもしれないが、それでもいい、僕は彼女のためだけに言うので、誰にも聞かれないように再度呟く。
「ありがとう、水島 理名」
僕は僕の仮面を見る事は出来ない。
だけど、仮面を被ってる事は分かる。
何故なら人間だから、人間ならば誰もが被ってるから、僕には分かっていたのだろう。
二度と会う事はないが、二度と別れる事もないだろう。
僕を救ってくれたのは、誰でもない僕自身。
果たしてそれは、誰も助けてくれないという意味深な神様のメッセージなのか、それともちゃんとした救済だったのか分からないが、少なくてもこの出会いは良いものであったのだろう。
これは一時の白昼夢。
奇跡という希望に魅せられた眼球が見た、たった数日の陽炎。
果たして、これから見る事になるのは地獄か天国か分からないが、幾多の仮面どもを見る事にはなるのだろう。
だが、もう怖くない。
僕が被ってる仮面は、そんな脆いもんじゃないのだから。
了
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