『NOTHING...』

著/雨街愁介


 不在を探しにやって来た男は道の上で、ついに不在を見つける。彼はある日不在に出会ってから、ずっと追い求めていたのだ。不在を。あたりは一面、霧。霧。霧。一本の、乾いた砂の色をした道しか見えない。男は足を速める。しかし――辿り着かないのだ。どんなに歩いても、不在のいる場所までは辿り着けない。不在は透明な姿を翻し翻ししながら道を進んでいる。彼は猛烈に走る。どんなことをしても不在に会いたかったのだ。男は近づいていく。もう少し。不在の身体目掛け、彼は腕を伸ばす。ところが不在は腕のちょっと手前でふっと消える。彼は腕の中を見る。何も、無い。視点を前に戻せば、不在はまた先にある。
 彼はやっと悟る、不在に触れるには、自らも不在へとならねばならない。
 男は道を外れ、丘に登る。そこからは世界が一望出来た。世界では多くの人物が、不在を追い求め、失敗していた。誰も不在を触れたためしなど、無かった。
 そこへ、一つの非在がやってくる。非在は彼の前に座り、ただ彼の眼を見つめている。不在はどうした、非在じゃない、不在はどこだ、と彼は言う。けれど非在は何にも言わない。その目には何も映っていない。
 風が彼のそばを通り抜け、木の葉を宙に舞わせて消えていく。
 今、彼のそばには誰もいない。


『此処より、不在を探しに』531文字

この作品をはてなブックマークに追加この作品をはてなブックマークに追加


読み終えましたら、web拍手をお願いします。壁紙をプレゼントさせていただいております。

目次へ戻る