『IT WAS GONE TO SOMEWHERE』

著/雨街愁介


 今日の朝ガスタンクが空中にふわりと浮かび上がって、どこかへ行ったきり、戻ってこなかったらしい。私はそれを昼まで知らなかった。呆然としたままバーへ行く。「ガスタンクはどこへ行ったんでしょうねえ」。隣の客は答えた。「どこでもないどこかへ行ったんでしょう」。私は悲しくなってガスタンクのあった場所へ行く。やはりそこはまったくの空白で、昨日まで何も言わずあった、あの優しげな丸みを帯びた、ガスタンクはもうない。仕方なくバーに帰れば、隣の席に座っていた青年がノートに文字を書いている。見ると、そこにはガスタンクのことが幾ページにも渡って書かれている。「君はガスタンクと、どんな繋がりが?」。彼は答えた。「……友達、でした」。ガスタンクの証明はこの文字列の上にしかない。そう思うと鼻の奥が苦しい。結局その晩は彼とバーを梯子したが、まだ信じられない。翌朝私はひとり、路上にて寝転んでいる。空が見える。何だかいつもより青いようだ。ガスタンクはこの空の、どこでもないどこかにいるのだろうか。私はさよならも言えなかった。


『ガスタンクのゆくえ』449文字

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