ぐるぐる回る超短編 - Bチーム

ぐるぐる回る超短編

【Bチーム】


【0】

『RISING』


著/水池亘


 世界が終わるという日の朝、僕は草原に寝転がっている。
 真っ赤に染まった空の中に、ぽつりと一点の青。
 風船。
 まるで過去の空全てをその中に凝縮したかのような鮮やかな青色が、ゆったりと空をのぼってゆく。
 僕は眺める。いつまでも眺め続けている。


『青い風船』120文字




【1】

『Q』


著/根多加良


 この私の叫びだしそうな口の隙間から青が責めてきて、すぐに皮膚と髪と瞳と遺伝子が染まった。族と家を超えてしまった存在は原始回路を天地縦横東西南北濃淡波粒虚実前後闇光上下零一原中電これらひとつのまとまりとする。

(包み込むようにしてわたしたちの目の前から行方をくらませてしまう(細胞の始まりである(このようになる)))

 人類は青に蹂躙された。そのとき青が生物とはこれくらいのものなのですよと子どもたちに A説教 B教育 C洗脳 するためのメモの一枚をカビの生い茂る森の中へ落としていった。
 この記録されたものが聖典と呼ばれる書物となり語り継がれることになる。したがって今日地球の王座に君臨しているのはまったく別の、異なった生物である。
 それはカビである。カビこそがこの地球上で最後の覇者なのだった。そのカビもゆっくりと青に染まりつつあった。地球は浸蝕のせいで乳製品のようにやわらかく、その隙間から染み込んだカビは伝達物質へとメタモルフォーゼする。

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 それはカビと青との闘争であった。
 争いによって生じた攪拌。
 それは新しい国造りの儀式にも似ていた。
 だが、それは真の、創世ではない。パリティビットで誤り検出を行った場合、偶数個の誤りを指摘できないことで証明できる。二つの要素のみで対立させたところで空間にはならない。
 
(やがて地球の内部でフレームで区切られた集合体が伝達はただの零と一ではないことに気がついた)

 おかえりなさい。
 この私の(体(脳(神 AGOD BKAMI CDREAM)))さえも染まっていって、くぅっと気が漏れたらなんにもなかったんだよなにもないからそれは

『空』719文字




【2】

『A PRAYER』


著/痛田三


 全身をゆっくりとなぞる鉛筆のくすぐったい感覚に耐えながら、わたしは彼を想う。ああ、どうして。よりにもよって彼は三原さんのもとへ送られたのか。彼女はがさつなタイプでも、執念深いタイプでもないけど、それでも彼を苦しめ、痛めつけることだろう。もちろん彼だって三原さんを悩ませる存在はあるけれど。でも。わたしたちにとって、彼女のそそっかしさは致命的ですらある。消しゴムにこすられひりひりした痛みに耐えながら、わたしは彼の身体が欠けてしまわないことを祈る。それでも。三原さんの硬くて細いシャー芯は拷問のような痛さだろう。だって彼女は2H。できることなら代わってあげたい。ああ、時間よ早く……。
 わたしたちは皆、無事に集まることができた。わたしは彼にいたわりと別れの言葉をかけた。それから。また、わたしたちはそれぞれのもとへと戻っていく。緊張の瞬間。と、だしぬけに嫌な音が教室内に響いた。それはビリビリと身体が引き裂かれる音であり、彼の断末魔の悲鳴。そんな。バラバラに引き裂かれた彼の断片が、わたしのもとに落ちてくる。赤ペンで〈13〉と書かれた断片が。


『朱色哀歌』471文字




【3】

『A PIECE OF CAKE』


著/姫椿姫子


 断片化された物質を拾い集めることで、もう一度元に戻ると思っている人たちが居るが、はたしてそうとは言い切れない。正確に言うならば、物質としてそこに再現されることはあるだろうが、もはやそれは断片化される前と同じものではない。全くない。
 だから、あかあかとしたそれらを、たとえひとつに集めたところで、それはバラバラの赤という以上のものではないのだ。
 でも、そうとは分かっていても、壊れた機械のように、もたついた動きで、それらを集めることをやめようとはしない。もはや一片の価値もなく、ただのクズになったそれらを集めるしかない。他に思考の余地はなく、他に選べる選択肢もない。
 ただただ繰り返し、もう一度再現を試みる。
 いびつなそれらを直すことは、倒れても倒れても石塔を積むことに似ている。
 もしかすると、ここは死の場所なのかもしれない。生きながら死んでいる。そうに違いない。そうでなければ、こんなに空気が止まるはずがない。そうに違いない。

『つながる断片』414文字




【4】

『TRICKING/TRACKING』


著/キセン


 私の破片がそこらじゅうに散らばっているが、そんなのは気にしないで歩き続ける。なぜなら多くの人々が信じたように、たとえ何があっても私は私以外の何者でもないからだ。段差を降りた拍子に右肩の関節が滑り落ちるように外れ、腕が落ちる。冷たい空気が肩があった場所から身体のなかに入ってくる。意外と気持ち良い。
【リピートロボット/スパイダの訪問】と書いてある看板の横を通ったときに心が落ちて、【リピートロボット/スパイダの訪問者】と刻まれている慰霊碑を乗り越えたときに意識が落ちた。もうしばらくは、残った身体は惰性で動く。しかし、目的を設定する意識と、一歩を踏み出す気力を作り出す心を失った容器は、じきにその役目を終えて地面にその身を投げ出すだろう。だが大丈夫。なぜなら多くの人々が信じたように、たとえ何があっても私は私以外の何者でもないからだ。きっと後からやってくる誰かが私の破片を拾い集めてくれるはず。
 ……でも、慰霊碑の傍の地面に触れて粉々になる直前に、私の意識は気付いてしまう。もし、一瞬だけ弱い風が吹いて、他のすべては動かないのだけど、いちばん小さい螺子だけが遠くへ飛ばされてしまったとしたら、それ以外のすべてで組みあがった「私」は、本当に私といえるのだろうか?

『最後のロボット/スパイダの訪問』529文字




【5】

『SHOWN IMPLICITLY』


著/マンジュ


 君と僕とは糸で結ばれている。運命の赤い糸、なんていう陳腐な表現としてではなくて文字どおり細い糸で全身そこいらじゅうを。右手は左手と左手は右手と、右耳と左耳左耳と右耳、たまに手首と足首を、という具合に。
 睫毛は一本ずつ結ばれているのだけれどどうしても君のほうが密度が濃いから、僕はところどころ髪の毛を代用しなければならない。
 僕らは今まで概ねうまくやってきたけれど、ついさっき僕があまりにふざけすぎた所為で細い糸のあちこちが複雑にこんぐらかってしまった。ずいぶんもじゃもじゃになっているところもある。油断すると突拍子もない結ばれ方をしてしまう。
 絡まり合った糸を切ってしまうのは簡単だけれどそれじゃあ君と僕との繋がりは二度と元のようには戻らない。君はふざけすぎた僕に対して肚を立てている。僕は君をありったけ宥めすかす。
 こんぐらかった糸を何とか元に戻そうと、僕らは少しずつ慎重に体を動かして上になり下になりを繰り返す。

『糸?』409文字




【6】

『WHAT IS THE BLUE?』


著/遠野浩十


 彼は夜明けとともに目覚めると、まだ薄暗い街をのんびりと散歩し、それから家に帰ってパンとミルクを口にした。今でこそ彼は一人で暮らしているが、かつては大勢で食卓を囲んでいたし、様々な相手と二人きりで食事をしたこともある。たまたま今は、一人で朝食をとっている。
 午前中は依頼された道具や人形などの修理をする。修理するものがないときは、安楽椅子に腰掛けて考え事をするか、本を読んで過ごすのが日課だった。
 人形を一つ修理したところで、彼は昼食をとることにした。午後からはまた別の作業を始めるために、戸棚から長年使い込まれた糸紡ぎ機と、作りかけの青い球を取り出した。それから日が落ちて夕食の時間になるまで、青い糸を紡いでそれを青い球に絡めていく。
 日が暮れかけたころ、街に住む少女が人形を引き取りにやってきた。少女は人形を受け取りながら、部屋にあった糸紡ぎ機と青い球を見た。「あの青い球はなあに?」「あれは世界だよ」
 夜が深まり始めると、彼は作業を中断し、糸紡ぎ機と未完成の青い球を戸棚にしまい、夕食をとって少し休み、部屋の明かりを消して寝た。

『生活を営む』462文字




【7】

『RISING』


著/水池亘


 世界が終わるという日の朝、僕は草原に寝転がっている。
 真っ赤に染まった空の中に、ぽつりと一点の青。
 風船。
 まるで過去の空全てをその中に凝縮したかのような鮮やかな青色が、ゆったりと空をのぼってゆく。
 僕は眺める。いつまでも眺め続けている。


『青い風船』120文字


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