『WORLD'S END BOOK GUIDE ~ WEBG REVIEW』

『WEBG REVIEW ~ 世界の終わりに佇むもの、その先に在りしもの。世界の終わりを描いた、24の小説を精選!』

村山槐多耽美怪奇全集―伝奇ノ匣〈4〉
村山槐多耽美怪奇全集―伝奇ノ匣〈4〉
村山 槐多 東 雅夫

学習研究社 2002-11
売り上げランキング : 291397

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村山槐多『悪魔の舌』(『村山槐多 耽美怪奇全集』所収)

 五月の或る晴れた夜、主人公は金子という、友人のなかでも奇異な人物から一通の電報を受けとる。不審に思いつつ金子の住まいを訪ねると、住居には警察が出入りしており、友人は自殺していた。どうして彼は自ら命を断ったのか。亡き友人の遺書を読んだ主人公は戦慄の真実を知る──!
 実に悲惨な物語である。金子が遺した文書に記されているモノローグが、本作品の主眼となっているのだが、彼を襲う数々の悲劇が、ほんとうに痛ましい。文字通り、世界の終わりと呼ぶしかない不運に見舞われ、彼は自害という人生の終わりを選択するのだが、彼と同じような境遇に立たされたら、きっと誰もが同じ道を辿るだろう。尚、本作品は青空文庫でも読める。(秋山真琴)


パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集〈第2巻〉
パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集〈第2巻〉
江戸川 乱歩

光文社 2004-08
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江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』(「江戸川乱歩全集〈第2巻〉」所収)

「この世を経験しない先から、この世に飽きはてて」職につかぬまま暮らしていた青年、人見広介は自らに酷似した富豪、菰田源三郎の死を知る。その日から彼は夢に見た理想郷を作り出すことができる、恐ろしい妄想の虜になっていった……。
 哀しい小説である。他人に成りすまし、その妻を殺害してまで作り出した理想郷。永遠に続くかと思われたそれは、突然の闖入者によって虚しく終わりを迎える。そしてその哀しさは作品に描いた自らの楽園を、名探偵明智小五郎によって封じ込めなければいけなかった乱歩自身のものでもある。現在観る機会は限られているが、石井輝男が本作を含むいくつかの作品をもとに作った映画「恐怖奇形人間」も一見の価値あり。(基線)


山本周五郎小説全集〈第31巻〉その木戸を通って (1968年)
山本周五郎小説全集〈第31巻〉その木戸を通って (1968年)
山本 周五郎

新潮社 1968
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山本周五郎『その木戸を通って』(『山本周五郎小説全集31』所収)

 加藤家と縁談を結んだ平松正四郎は、ある日、中老の筆頭である田原権右衛門に「いまおまえの家にいる娘は、どういう関係の者だ」と苦言を呈される。覚えのないため首を傾げつつ帰宅した、平松を待っていたのは記憶を失くした若い女性であった。
 本作品はひとの心の機微を描くことを得手とする山本周五郎の、真骨頂が見られる傑作である。世界を人間の記憶と捉えたとき、この作品で描かれている断絶と再生が持っている鋭さは、文字通り計りしれない。特に、題の真意が明かされる最後の一ページなどは鮮烈を極めており、失われた世界に、ひとり取り残された男の独白は涙なくしては読むことさえできない。この儚さを、噛み締めてもらいたい。(秋山真琴)


猫のゆりかご
猫のゆりかご
カート・ヴォネガット・ジュニア 伊藤 典夫

早川書房 1979-07
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カート・ヴォネガット『猫のゆりかご』

『世界が終末をむかえた日』の著者となるべきわたしは、禁断のボコノン教徒となった。世の中は複雑すぎる。愛する美女モナが、ありとあらゆる水を氷に変えてしまう〈アイス・ナイン〉が、黒人教祖ボコノンが、わたしのまわりをめぐりはじめる──
 ヴォネガットは世界の終末でも、決して絶望的にそれを書かない。世界の終末が迫っても、独自のユーモアを忘れない。表面は愉快なSFなのである。だが、その愉快さとは別に、この物語には深い風刺と皮肉に満ちている。深く読めば読むほど表面の愉快さは嘘のように感じられる。ヴォネガットの愉快な世界の終末に込めた、深い風刺をあなたも感じ取ってはどうだろうか?(夏目陽)


虚無への供物
虚無への供物
中井 英夫

講談社 1974-03
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中井英夫『虚無への供物』

 陰惨な歴史を持つ氷沼家に、いまふたたび惨劇が襲い掛かった。事件の解決に乗り出した素人探偵たちを嘲笑うかのように次々と現れる、青い薔薇に彩られた四つの密室殺人。その度に繰り返される推理と告発。果てに全貌を現した悲劇の正体とは……。
 もはや言葉を尽くすまでもない、戦後の推理小説史にその名を残す傑作である。あまりに有名なラストシーンにおいて、ある登場人物が口にする最後の「告発」は、この作品がそれまで積み重ねてきた、ゲーム性に満ちた本格推理としての側面を切り捨てるものとして機能する。そしてその部分の出来が素晴らしいものであるからこそ、告発は強い意味を持って読者である私たちに迫ってくるのだ。(基線)


終着の浜辺 (創元SF文庫)
終着の浜辺 (創元SF文庫)
J・G バラード J.G. Ballard 伊藤 哲

東京創元社 2005-10
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J・G・バラード『終着の浜辺』

 いつとも知れぬ処刑の日を待ちながらチェスに興じる死刑囚と執行人の静かなる戦い、遺跡に残された美しい少女の幻影装置を拾った青年、襲いくる海の幻影におののく男の話などを通して、絢爛かつ退廃に満ちた内的宇宙をあますところなく描破した九編。
 この作品に収録された九編はどこかしらで不気味な世界が書かれている。しかし、それはありえる未来の世界の話である。近年、バラードの小説で書かれた狂気はことごとく現実となった。この短編集でよく出没する廃墟のイメージ、冷たいコンクリート、内的宇宙へと沈み込んでゆく感覚。そしてすべてを破壊するものの象徴。これこそ世界の終焉ではないのだろうか。(夏目陽)


天使のたまご
天使のたまご
押井 守 天野 喜孝

徳間書店 1985-11
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押井守/天野喜孝『天使のたまご』

 終焉を迎えた後の世界を彷徨いつづける少年。鳥を孵すために卵を抱きつづける少女。夜ごと水没する魚の都、他の誰も存在しない場所で、ふたりは出会う。夢とも幻ともつかぬ廃墟で繰り広げられる静謐な物語。 生きるものの居ない廃墟をゆく少年と少女は、しかし分かり合うことは出来ないし、ずっと共に居られるわけでもない。一見とりとめなく思える物語の中で、ふたりの孤独が切なさをかもし出す。内容は押井守の同名アニメーション映画に基づいており、殆ど台詞の無い本編では語られなかった、モチーフの意味付けなども随所で提示されているので、映画版で消化不良を起こした方も本書を読んでみたら新たな発見を得ることができる……かもしれない。(遥彼方)


リプレイ (新潮文庫)
リプレイ (新潮文庫)
杉山 高之 ケン・グリムウッド

新潮社 1990-07
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ケン・グリムウッド『リプレイ』

 ある朝、妻と電話している最中、ジェフは死んだ。四十三歳の秋のことだった。しかし、次の瞬間、彼はベッドのうえで横になっている自分に気がついた。彼はまだ十八歳で、若く、希望に溢れており、未来に起こる様々な事件を知っていた。大金持ちになった彼はしかし、同日同時刻に死亡してしまう……。
 初めに言っておくが、これは世界の終わりに関する物語ではない。むしろ終わらない世界に関する物語だ。しかし著者が送ろうとしているメッセージは、間違いなく世界の終わりに関してのものだ。それは何度も人生をやり直させられる主人公の口を借りて語られている。この物語が辿りつく終わり、本書を読むことで見届けてほしい。(秋山真琴)


黒い時計の旅 (白水uブックス)
黒い時計の旅 (白水uブックス)
スティーヴ エリクソン Steve Erickson 柴田 元幸

白水社 2005-08
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スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』

 仮にドイツが戦争に負けず、A.H.が死んでいなければ。〝主人公〟は官能小説家《ポルノグラファー》になっていたかもしれない……。
 時間と空間があらゆる基準点から自らを解放した世紀──二十世紀同士の戦いや、時間と空間とを超越する意志、そしてあらゆる世界に共通する、何もかもを、あるがままに流し去ってしまう時間、それらが本書には克明に描かれている。存在しない世界の始まりから終わりまでを、さも存在するかのように描いてしまう著者の幻視力は、ほんとうに想像を絶する。世界について綴られたこの無限の物語は、一読しただけでは到底、理解できるものではないだろう。是非に二読、三読と味わっていただきたい。(秋山真琴)


ラスト・オブ・イングランド
ラスト・オブ・イングランド
デレク ジャーマン 北折 智子

フィルムアート社 1990-08
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デレク・ジャーマン『ラスト・オブ・イングランド』

 デレク・ジャーマンは英国の映像作家。本書は、同タイトルの映画が製作されている間に書かれた日記、エッセイ、詩、インタビュー、映画のイメージ・シナリオ、から構成されている。ゲイであるがゆえに受けつづけた抑圧と偏見、商業主義に支配された映画業界に対する失望、エイズへの恐怖。
 映画の中に登場するのは、廃墟、赤く染まった空に戦場の光景。ぶつ切れのイメージ、悪夢にも似た映像からは退廃が立ち昇り、この世の終り、腐敗してゆく世界が映し出される。彼は世界の終りを撮りながら、語る。「希望はあります、(映画を撮りつづけるという)行為こそ希望です」この本は、終りゆく世界に対して創ることで抗議しつづけた彼の記録である。(遥彼方)


夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)
夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)
麻耶 雄嵩

講談社 1998-08
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麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』

 二十年前に死んだ和音という少女の影、キュビズムで埋め尽くされた意匠。夏に降った雪のなかで見つかった首なし死体。何もかもが歪んだ「和音島」で起きた連続殺人事件に巻き込まれた如月烏有と舞奈桐璃、このふたりもまた歪んだ過去に囚われていた。
 殺人という行為によって発生した世界のほつれの正体を見つけ出し、秩序を回復する過程に本格推理というジャンルの持つカタルシスがあるとするならば、この作品は明らかにそこから逸脱している。あらかじめ崩壊した世界を殺人がさらに崩壊させ、それだけではない、推理すらもさらなる崩壊を呼び起こしてしまうのである。そして幾重にも崩れ去った世界の果てには、ただひとり、銘探偵が佇んでいる……。(基線)


戦争を演じた神々たち(全) (ハヤカワ文庫JA)
戦争を演じた神々たち(全) (ハヤカワ文庫JA)
大原 まり子

早川書房 2000-02
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大原まり子『女と犬』(『戦争を演じた神々たち〔全〕』所収)

「充分にやさしければ、他のものを踏みつけにしたりしないでしょう――」女と犬は地球上のあらゆる瞬間を経験する。人間の悪意の犠牲になり、幾たびも殺され苦しめられながら、女と犬は地球上のあらゆる瞬間に存在する。
 この物語で描かれるのは人間の業。ある瞬間、犬はハンターに惨殺される象であり、また別の瞬間、女はレイプされ溺死させられる少女でもある。これでもかと重く生々しく描写される死。繰り返される罪の結果として世界は滅びる。それでもこの物語には、「世界」と「生命」に対する愛情が満ちている。躍動感に満ちた描写は、それが活字であることをひととき忘れてしまうくらいに鮮やかで美しいヴィジョンを脳裏に映し出す。(遥彼方)


バナールな現象 (集英社文庫)
バナールな現象 (集英社文庫)
奥泉 光

集英社 2002-05
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奥泉光『バナールな現象』

 テレビ・モニターの向こうでの湾岸戦争を横目に観ながら、妻の出産を控えた大学講師、木苺は退屈な日常を過ごしていた。しかし突然、現実と虚構の境目は消失する。妻の失踪、アフリカの地図、鴉、腐乱する海老、戦争、殺人、数々の事象が「こちら側」と「向こう側」を往復する。あの日を境にして世界は変わってしまったのか?
 以上のような粗筋にあまり意味はない。本書はどこまでも小説であるし、小説というかたちでしか語りようのないものであるからだ。あらゆるものへの思索、そして物語のなかで形を変えてゆくもの。それらすべてを異常なまでの濃密さで語りつくすことで、本書は小説という世界の外部と内部をつなぐものを求め続ける。(基線)


カーニバル一輪の花
カーニバル一輪の花
清涼院 流水

講談社 2003-01
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清涼院流水『カーニバル』(ノベルス版全三巻、文庫版全五巻)

 一九九六年、ウェブ上である噂がひそかに広まりつつあった。十億人を殺す者――「ビリオン・キラー」が企てる全人類抹殺計画「犯罪オリンピック」。対峙するのはあらゆる犯罪を解決するために存在する組織、JDC(日本探偵倶楽部)。たんなる噂だったはずものが現実になったとき、全世界を巻き込んだ惨劇の果てに待っていたものとは……?
 清涼院流水という大説家にとって世界とは言葉の集積に過ぎないのだろうか。肥大した妄想が世界を危機に陥れるこの祭においても、すべてを操っていたのは言葉だった。言葉で作られた巨大な伽藍――そこに空虚があるとするならば、それは大説家であるがゆえの孤独なのかもしれない。(基線)


みんな行ってしまう
みんな行ってしまう
マイケル・マーシャル・スミス 嶋田 洋一

東京創元社 2005-09-22
売り上げランキング : 256190

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マイケル・マーシャル・スミス『地獄はみずから大きくなった』(『みんな行ってしまう』所収)

 医療用ナノマシンの開発に熱中する三人の研究者。実験は順調に進み、何もかもが上手くいくと思われたとき、チームのひとりが研究用のエボラに感染して死亡する。プロジェクトは頓挫、しかし残されたふたりは数年後に再会し、ナノマシンの改造を計画する。そのマシンは人間の脳に働きかけ、ごく小さな改造を施し、そしてナノマシンを投与された人間はさながら霊媒のように、死者を認識できるようになる――。死んだ仲間に会いたいがための改造は、しかし思わぬ崩壊を招くことになる。
 展開の荒唐無稽さがほとんど気にならないほどに、よどみなく流れる物語。淡々とした中にも憂鬱の滲む訳文は秀逸で、全編を包む静かな悲哀が、読後に深い余韻を残す。(遥彼方)


冬の教室 (徳間デュアル文庫)
冬の教室 (徳間デュアル文庫)
大塚 英志

徳間書店 2000-10
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大塚英志『冬の教室』

『放課後、図書室で調べものをしているうちに眠り込んでしまいぼくは冬の教室に閉じ込められてしまった。』
 半世紀のあいだ冬が続き、図書館と死に塗れた街の高校に転校してきた〈ぼく〉は、嶝崎人魚という少女に出会う。彼女の左胸に残された傷は、幼い人魚を誘拐した殺人鬼、大江公彦が残した刻印だった。
「摩陀羅天使篇」でデビューしてからというもの、「ノベライズしか書かない作家」としての大塚英志は、ひねくれた文体と多重構造を駆使して読者を煙に巻くのを常にしていた。だがこの作品においては、少年の一人称を用い、ゆるやかに死を迎えるはずの街の少女を襲う〈殺人〉の影が、冬の世界を覆っていくさまを静かに描いている。(基線)


プルトニウムと半月
プルトニウムと半月
沙藤 一樹

角川書店 2000-03
売り上げランキング : 308975

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沙藤一樹『プルトニウムと半月』

 原子炉の爆発が原因で離れ離れになった双子の姉妹、華織と紗織。失意のすえ放射能汚染地域に足を踏み入れる華織、非汚染地域で暮らす紗織。求め合いながら出会えない二人が織り成す物語の果ては……。
 はじめは断片的な描写が続くので読みづらく感じるかもしれない。だがそれらの断片がつなぎ合わされることでまず、世界が一度覆される。そして再構築された世界で紡がれるのは、孤独と反抗への鎮魂歌だ。細かい挿話を重ねることによって、登場人物をとりまく世界の残酷さが細密に描写される。繰り返される痛みを描きながら、終焉に向かい突き進む物語の姿は、救いのない世界に生きる登場人物のそれに重なる。(基線)


西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫 JA)
西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫 JA)
森 奈津子

早川書房 2004-11-09
売り上げランキング : 32113

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森奈津子『西城秀樹のおかげです』(『西城秀樹のおかげです』所収)

 高い感染率と死亡率一〇〇%という脅威の疫病によって人類が死滅した世界。何故かウィルスに感染することなく生き残った、おさげ髪にセーラー服の女学生・早乙女千絵は誰もいなくなった新宿を徘徊する。いつか自分を心身ともに愛し慰めてくれる美しい〝お姉様〟が現われるはず、と淫らな妄想に日夜を問わず耽っていた彼女の前に姿を現したのはしかし……殿方だったのだ!
 自分以外の人間が死んでいるという悲劇的な状況であるのに、主人公の百合少女はむしろこれ幸いとばかりに高級デパートを物色し、高級ホテルに寝泊りしているのだ。何というお気楽な終末だろうか。こんなに陽気で微笑みを誘う世界の終わりは、他にないだろう。(秋山真琴)


水没ピアノ―鏡創士がひきもどす犯罪 (講談社ノベルス)
水没ピアノ―鏡創士がひきもどす犯罪 (講談社ノベルス)
佐藤 友哉

講談社 2002-03
売り上げランキング : 144823

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佐藤友哉『水没ピアノ ― 鏡創士がひきもどす犯罪』

 北海道の片隅で――泥のなかのような日々を過ごす青年/贖罪のための惨殺劇のさなかにある家族/悪意から少女を護り続ける少年。鏡創士の登場によって三つの物語が一つに繋がるとき、『回答が与えられ、認識は逆転を起こす』。
『主な参考資料:つい最近終わった自分の青春』。「作者の言葉」の代わりに置かれたこの言葉に、この小説は集約されるのかもしれない。もちろんここで示される「青春」とは明るくさわやかなものではない。膨れ上がった自意識を弄んで、閉塞した精神に言い訳を続ける、そういう「青春」だ。この作品は、そうしてできる歪んだ「世界」に容赦なく終わりを宣告する。読者の「世界」を壊しかねない、そんな危険さを秘めた小説でもある。(基線)


世界の果てのビートルズ    新潮クレスト・ブックス
世界の果てのビートルズ 新潮クレスト・ブックス
ミカエル・ニエミ 岩本 正恵

新潮社 2006-01-30
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ミカエル・ニエミ『世界の果てのビートルズ』

 笑えるほどしょぼい最果ての村で、僕は育った。きこりの父たち、殴りあう兄たち、姉さんのプレーヤー、そしてアメリカのいとこが持ってきた一枚のレコード。十代でビートルズを知り、ベニヤ板のギターをかきならす、少年たち。
 舞台はスウェーデンの最北の地。冬は二ヶ月も太陽がのぼらず、夏は白夜が続くツンドラに囲まれた村パヤラ。そんな〈世界の果て〉に生まれても、少年は生きてゆく。少年は〈世界の果て〉という一見、絶望的な土地に住みながらも、決してそれに絶望したりしない。そんな世界にも調子外れのロックの音が響き続ける。本書は世界の果てを扱いながらも、誰でもこんな時期があったと思わせてくれる青春小説の傑作である。(夏目陽)


この世の終りへの旅
この世の終りへの旅
西岡兄妹

青林工芸舎 2003-12
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西岡兄妹『この世の終りへの旅』

 ある朝とつぜん「ぼく」の日常は歪み、仕事に行こうとした筈が、見知らぬ川にたどりつく。そこで見つけたちっぽけなボートで、「ぼく」は旅に出ることにした――。この世の終わりに向かって、夢と現の入り混じる幻想の中を、「ぼく」は放浪する。結び方のわからなくなってしまった靴紐をひきずり、星柄のトランクスを穿いて。
 妹・西岡千晶による絵本のように可憐な作画と、兄・西岡智の淡々とした言葉によって紡がれるのは、死の匂いと黒いユーモアに満ちたグロテスクな寓話。無表情なキャラクタたちと無感動な語り口の裏側で、ねじけた感情がひそかに渦を巻く。カニバリズムを用いて現代社会と原始的社会を並べて見せる展開は特に興味深い。(遥彼方)


左巻キ式ラストリゾート―ぷにふごEX (パンプキンノベルズ)
左巻キ式ラストリゾート―ぷにふごEX (パンプキンノベルズ)
海猫沢 めろん ぴぃちぐみ

イーグルパブリシング 2004-04
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海猫沢めろん『左巻キ式ラストリゾート ぷにふごEX』

 目が覚めたとき、主人公は十二人の少女しか存在しない学園(=世界)にいた。その世界ではレイプマンと呼ばれる謎の人物によって連続強姦事件が続いており、主人公は、常に日本刀を持ち歩いている学園の弐号生筆頭、兼理事長に「貴様が事件を調査しろ」と命令される。果たして犯人の目的は? そして、この世界の正体は?
 本書は鬼才・海猫沢めろんの初の著作にして、官能小説のレーベルであるパンプキンノベルズから刊行されたアンチミステリだ。いや、アンチなのはミステリに対してだけではない、官能小説に対しても、クライムノベルに対してもそうだ。小説に対するレイプとも読みとれる著者の暴走と、崩壊する世界をご堪能あれ。(秋山真琴)


八本脚の蝶
八本脚の蝶
二階堂 奥歯

ポプラ社 2006-01
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二階堂奥歯『八本脚の蝶』

 この本はひとりの女性編集者が、その生命を自ら断つまでの二年間に綴ったウェブ日記をまとめたものだ。この本を読む者は、この物語に終わりが来ることを知りながらページをめくる。息苦しくなるほどの自意識、瑞々しい感性、そして思索。日記のはじめから行われてきた本からの引用は、物語が終わりに近付くにつれて、加速度的に増えていく。
『私という一冊の本を、私が破棄してはいけない?』見返しに引用されたこの言葉が象徴し、そして本文から伺える圧倒的な読書量が示すように、彼女の世界はつねに書物とともにあった。そんな彼女の終わりまでの記録がこうして一冊の本になったことが、せめて幸福なことであればと、私には答えのわからない問いについて思うしかない。(基線)


きつねのはなし
きつねのはなし
森見 登美彦

新潮社 2006-10-28
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森見登美彦『きつねのはなし』(『きつねのはなし』所収)

 骨董屋で配達のアルバイトをしている主人公は、懇意の客である天城の屋敷をたびたび訪ねることがあった。ある時、別の客のための商品を割ってしまった彼は、主人に「天城さんなら代わりの品物を見繕ってくれます。ただし天城さんがあなたに何かを要求しても、けして応じてはいけません」とお使いを命じられる。早速、天城の屋敷に向かい、代わりの品物を貰いうけた主人公は帰ろうとした際に天城に呼びとめられる。
 事実のみを淡々と記す筆致は巧緻を極め、それが全編を覆いつくすどんよりとした空気を作りだしている。読者は絶えず「いやな予感」に身を縮めこませ、いま読んでいる場面が、それまでと連続した世界にあるのかどうかを悩むことになるだろう。(秋山真琴)






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