『世界の果ての年代記《クロニクル》──World's End』(3)

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 朝は朝日と共に訪れなかった。私はまだ覚醒しきっていない意識の中で、手元に置いた捩子巻き式の懐中時計を見る。とっくに日が昇っていてもおかしくない時間であるのに、カーテンから差し込むはずの光はない。私はのっそりと起き上がり、カーテンを開け、外を見渡すが、灰色の空が広がっているだけだった。昨日と変わらない鈍色の空。まるで昼夜の概念がないかのように、すべての時間に同じような暗さをもたらしている。私は視線を空から〈世界の終わりの村〉に向ける。この部屋からは〈世界の終わりの村〉が一望出来た。この丘からあの村までずっと緑が広がっている情景を想像してみようとしたが、出来なかった。この〈世界の終わりの村〉に緑が広がっている姿はあまりにも想像できないものだった。
 ドアがノックされる。彼女らだろうと私は思い、部屋に入ることを許可する。両手に湯気のあがっているカップを持ちながら、彼女らのどちらかが部屋に入ってきた。
 ごめんなさい。この家には食べものはないの。だから、紅茶しか出せないけれど、よいかしら?
 別に構わないよ。食べものはたくさん持っているから。君も食べるかい?
 私は荷物の中から食料を取り出す。だが、彼女は首を横に振った。私は再度、彼女に確認した。彼女は感謝の言葉を述べながらも、決して食料を受け取ろうとはしなかった。仕方がないので、私は自分の分だけ食料を取り出し、テーブルの上に並べた。私たちは向かい合うようにして椅子に座る。
 間違っていたら、ごめん。妹さんかな? 
 私は彼女の持ってきた紅茶を飲みながら、言った。彼女はくすりと笑う。私は紅茶を置き、彼女の返事を待つ。彼女は紅茶を一杯飲むと口を開いた。 
 あたしは姉よ。妹は今、仕事に行く準備をしているわ。
 ごめん。やっぱり君たちは見分けがつかないよ。
 いいのよ。あたしたちを見分けられた人は今まで、ほんの一握りの人間しかいないわ。仕方ないことよ。このことであなたが悔やむことはないわ。それが当たり前なのよ。
 彼女は紅茶を飲む。私も紅茶で喉を潤す。朝食を食べ終え、私は彼女と他愛もない話を続ける。だが、私にとってその他愛もない話こそが、新鮮な話であったし、彼女らの話はとても面白かった。〈世界の終わりの村〉で行われる行事の話。人々の風習の話。彼らがどんな神様を信じていて、どんなものを悪と考えていたか。彼らが語り継いだ神話の話。彼女は〈世界の終わりの村〉についてとてもよく知っていた。もしかすれば彼らのすべてを彼女は知っていたのかもしれない。そんな他愛もないが、楽しいひと時を過ごしている時、彼女はぽつりと言った。
 旅人さんは今日、〈世界の終わり〉を見に行くの?
 私は頷き、彼女にあまり長く滞在できない旨を説明する。明日にはこの〈世界の終わりの村〉を出て行くであろう。だから、その間に見ておきたいものはすべて見たかった。〈世界の終わり〉だけでなく、〈世界の終わりの村〉にも足を運びたいと私は思っていた。
 それなら、今、あたしたちと一緒に行かないかしら? ちょうど、あたしたちも〈世界の終わり〉に用事があるの。それに今行けばいいものが見れるわよ。
 いいもの? それはなんなんだい?
 見ればわかるわ。とても素敵な情景よ。きっと旅人さんも気に入ってくれるはずだわ。
 わかった。君がそんなに言うのなら、とても素敵なものがあるんだろう。ついていくよ。君たちが案内してくれるのかな?
 彼女が頷く。私は急いで支度をする。彼女はそれを観察するようにじっと見ていた。荷物はここにおいていき、身軽な格好に着替える。私が支度を終えると、彼女はテーブルの上のカップを両手に持ち、部屋を出る。私はその後をついて行こうとするが、彼女は扉から三歩歩いたところで止まってしまった。必死に笑い声を殺そうとしているが、口の端から漏れたそれが、私の耳に聞こえてくる。
 どうしたんだい?
 すると、彼女は耐えられなかったのだろうか、笑い声をあげながら微笑んだ。私はきょとんとした目で彼女を見ることしか出来なかった。やがて、彼女が笑い終えると、涙目のまま私に向かって謝った。
 あんまりにも面白かったから、つい笑ってしまったわ。
 何が面白かったんだい? 私が変なことを言ったかな?
 いいえ。あなたは何にもしていないわ。あたしがしたのよ。あたしは妹よ。姉じゃないわ。騙してごめんなさい。でも、よくわかったわね。
 そう言われ、私はやっと事の成り行きを理解出来た。
 別に理由はないさ。ただなんとなく妹じゃないかと思っただけだよ。君たちが思っているほど、複雑なことは考えてないよ。
 旅人さん、あなたはこのことを軽く見ているけれど、実際はそんな簡単に見分けられるものじゃないの。旅人さんはどうせ二分の一の確率だろうって考えているでしょう? でも、実際はその二分の一の確率を当てた人は、まだ二人しかいないの。あなたで三人目よ。すごく珍しいわ。
 それは褒められるべきことなのかな?
 ええ、褒められることであるし、誇れることよ。
 私はやや疑問を抱えながらも、歩き始めた彼女についていく。外では先ほどまで話していた少女とまったく同じ姿の姉がいた。彼女は微笑みながら彼女に近づき、耳元で愉快そうに何かを話す。彼女はそれを訊くと、目を丸くし、彼女にまた何かを言う。彼女は頷くと、いよいよ彼女の表情は驚愕から愉快に変わり、口の端には隠しきれない笑みがあった。
 旅人さん、彼女が妹だってわかったの?
 私は戸惑いながらも頷いてみせる。彼女は先ほど彼女が言ったことと同じことをくり返した。
 あなたにはそのすごさがわからないかもしれないけれど、これは本当にすごいことなのよ。
 私にはそのすごさがよくわからないけれど、君たちの言葉を聞くと、これはとても重要なことなんだね。私は君たちにとって何か特別な人間なのかな?
 そうね。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。それはきっとあなたの行動しだいよ。今までの二人はあたしたちに幸せを与え、それを奪ったわ。あなたは与える側にもなれるし、奪う側にもなれるの。
 それは私がどちらになる可能性もあるってことなのかな? 私の行動しだいで君たちは喜ぶかもしれないし、悲しむかもしれない。
 確実に旅人さんがそうなるわけじゃないわ。ただ今までの二人がそうだっただけ。そんなに硬くなる必要ないわ。それにあなたは明日には〈世界の終わりの村〉を旅立つんでしょう? それならもしかすれば、あなたはあたしたちに何も与えないかもしれないし、奪いもしないかもしれない。
 君たちはそれでもよいと思っているのかな? もしかすれば、私は君たちに幸福を与えることが出来るかもしれない存在なんだ。君たちはそれをみすみす逃すのかい?
 この感覚は旅人さんにはわからないかもしれないわ。あたしたちは待ち続ける。今回がだめでも、また次がある。それまであたしたちはずっと一緒にここで暮らし続けるのよ。たとえ何もかもが失われても、未来はまだ失われていないわ。
 永遠に待ち続けるのかい? この退廃した〈世界の終わりの村〉で、まだ見ぬ未来を思い続けるのかい? それで君たちは生きていけるのかな? 無限とも続くかもしれないんだ。
 彼女らは答えない。私も少しいじわるな質問をしてしまったと思った。私は彼女らに謝る。彼女らの顔からは私を責めるようなものはなかったものの、謝らなければいけないと思ったからだ。彼女らは歩き始めた。丘のさらに先にある〈世界の終わり〉を目指す。
 ここから大体、二十分ほど歩いたところに〈世界の終わり〉があるわ。二十分ぐらい歩かなくちゃいけないけれど、旅人さんは大丈夫かしら?
 大丈夫、歩くのには慣れているよ。君たちよりも、ゆっくりになるかもしれないけれどね。
 丘の先に広がるのは、ところどころ白い砂の混ざる砂漠だった。まるで子供が白いペンキをめちゃくちゃに撒き散らしたような光景である。灰色と白の砂漠を私たちは歩き出す。海岸線にあるような粒の細かい砂で、足が沈み込みそうになる場所もあった。周囲を見渡しても何もない。砂漠がずっと広がっているだけだ。先は霧に覆われていて、見渡すことが出来ない。この先に〈世界の終わり〉があるのだろう。
 この砂漠は〈世界の終わり〉の本当の姿よ。〈世界の終わりの村〉もいつかこの砂漠の一部になってしまうと思うわ。あなたも風化しかけている村を見たでしょう?
 私は歩きながら頷く。時折、冷たい風が砂を巻き上げ、私たちを通り過ぎていく。寒いはずなのに、汗は止めどもなく溢れてきた。砂漠は思ったよりも歩きにくかった。いともたやすく膝まで埋まることが何度かあった。そのたび、私は靴の中に入った砂を取り出す。だが、数歩もしない間に砂が靴のなかに入り込むことがあった。彼女らは気にならないのだろうかと思う。私は彼女らを見た。彼女らは裸足だった。
 やがてあたりの視界が悪くなる。薄暗い霧があたりを包んだからだ。私は彼女らを見失わないように必死に後を追う。ちょっとでも離れればすぐ彼女らを見失い、ここで迷い、最悪の場合は死んでしまったであろう。それほど濃い霧であった。
 霧の中をだいぶ進んだ時、どこからか金属と金属のぶつかる音がかすかに聞こえてきた。それと共に低い地鳴りも聞こえてくる。その音は耳で感じるというよりも、まず先に全身で感じられた。ぴりぴりと空気を伝わってくる何かものすごく大きなものである。
 そろそろ着くわ。旅人さん、大丈夫かしら? 砂漠を歩くのは大変だったでしょう?
 君たちはいつもあんなところを歩いているのかな? とても大変だろう。
 毎日、三回よ。もう慣れてしまったわよ。慣れてくれば歩き方も覚えるし、どこを歩いてはいけないのかもわかるわ。
 ところで、この地鳴りのような音は何なんだい? 〈世界の終わり〉には何かがあるのかい?
 それは見てからのお楽しみよ。ほら、もうついたわ。
 霧が薄くなる。あたりにはいつの間にかごうんごうんという音が響いていた。私は〈世界の終わり〉にあるそれを見上げる。
 初めはそれがなんなのか、わからなかった。それはあまりにも大きいものだったからだ。私たちは霧のせいでそれにかなり近づいていることに気がつかなかったのだ。私は何歩か後ずさりをし、その全体像を掴もうとする。よく見るとそれらは歯車だった。それもとても大きな歯車である。それが何百、何千、何万とかみ合い、まわっている。まるで城壁のごとく、東の地平線の彼方から、西の地平線の彼方まで、巨大な機関が続いていた。ピストンがせわしなく動き、排気口からは蒸気が噴き出す。歯車がかみ合うたびにぎしぎしと音が伝わり、軸が悲鳴を上げる。どの歯車がどれにかみ合っているのか、よくわからない。ときどき、何かお遊びのように機械仕掛けのものが混ざっていた。時計だったもの、オルゴールだったもの、何かの車輪、羅針盤のようなもの、機械仕掛けの人形だったもの。さまざまなものが、まるでこの巨大な機関に飲み込まれるかのように、付いていた。もしかすれば、これを作ったものは捨てられていたありとあらゆる機械の部品をこれに取り込んだのかもしれない。だが、そういうものを除外して推測すると、この不恰好な何かの動力の中身のようだった。誰が作ったかもわからない、何のために作ったのかもわからない。何を動かしているのかもわからない。金属の大合唱が私の耳にようやく届く。想像していた〈世界の終わり〉とはまったく違っていた。もっと深い溝のようなものが広がるか、この先は暗闇でしかない、あるいはそれこそ見えない壁に阻まれているような、何もない虚無の空間を私は想像していたのだ。
 これは一体なんなのかい? まるで何かの動力の中身のようだけど。
 そうよ。これはこの〈世界〉の動力なの。だから、これが壊れてしまえば、この〈世界〉は止まってしまうの。この先に続くのは歯車が複雑に絡み合った場所よ。だから、私たちはこの先に行くことは出来ない。〈世界の終わり〉とはこういうものなのよ。ほら、あなたにも聴こえるでしょう。蒸気が噴きあがる音、金属同士がぶつかる音、歯車がかみ合う音、軸を滑り、移動する音、金属が軋む音、何かが削られる音、何かが破壊される音、何もかもがこの〈世界〉の鼓動なのよ。
 私は改めてこの永遠に続いていると思われる歯車の群れを見上げる。これが止まれば〈世界〉はどうなってしまうのだろうかと思った。不恰好なそれらは危ういところで、成り立っているように見えた。もしも、私たちがどこかの歯車を外してしまえば、すべてが崩れ落ち、鉄の塊になるような雰囲気。私は〈世界〉の鼓動を聴きながら、複雑に絡み合う歯車を見続ける。
 これは誰が作ったんだい? それにこれはどこまで続いているんだい?
 どちらもわからないわ。あたしたちはこの先にはいけない。だから、〈世界の終わり〉なのよ。それに誰がこんなものを作ったのかもわからない。これはどうやら東にも西にもずっと続いているようだわ。まるで大きな城壁のようだわ。
 昔、訪れた国にもとても長い城壁があったことがある。何百年という歳月をかけ、その国の王がそれを作らせたんだ。北方からの野蛮人の侵略を防ぐためにね。そのときは確か、百キロメートルに渡って城壁であったと思う。それも東や西に永遠と続くと思っていた。実際は一週間かかけて、その城壁に沿って歩き続けたら、終わりを見つけることが出来た。これも何週間か歩けば、終わりにたどり着くんじゃないのかな?
 無理よ。これは永遠に続いているわ。たぶん、東西の終わりまで続いているんだと思うの。それにここをずっと歩き続けるのは無理だわ。あたしたちでもこれより先は自信を持って足を踏み出せないもの。この先に何があるかわからない。下手すれば、腰まで埋まってしまうほどの穴があるかもしれない。
 彼女らはそう言うと、持ってきた鞄の中から、不思議なものを取り出した。一見、捩子巻きをするためのもののようであるが、棒には螺旋の溝がついている。灰色で大きさは一冊の本ほどであった。表面は光沢をなくしているが、錆びの中にも純金の証であるかのような灰色を見つけることが出来る。捩子を巻くには一見、変わった外見を持つそれは、鞄の中から二つ出てきた。それを一つずつ彼女らが胸に抱くように持つ。彼女らの胸元を飾るかのようにその捩子巻きは収まった。
 それは一体、何なんだい?
 捩子を巻くためのものよ。この〈世界〉の動力は毎日三回、捩子を巻いてやらないといけないの。この捩子巻きが不思議な形をしていると思ったんでしょ? みんなそういうわ。あたしたちも初めはそう思ったもの。この螺旋が一体、何のためなのか。言ってしまえば、捩子を巻くための穴の溝が螺旋の形をしているんだけど、普通は違うでしょう。何のために螺旋にしたのか、それは製作者に聞いてみないとわからないわ。もっとも、製作者の気まぐれなんてことも考えられるけれどね。
 彼女たちはその奇妙な捩子巻きを持って、〈世界の終わり〉に近づく。私も彼女らの後を追う。私はその先にある二つの穴を見つけた。捩子巻きを挿す場所なのだろう。彼女らはその二つの穴にゆっくりと螺旋状に刻まれた溝を持つ捩子巻きを差し込んでゆく。そうして、しっかりと溝と溝がかみ合ったことを確認すると、二人は同時に捩子を巻く。〈世界〉に生命を吹き込む。かちかちかちと捩子の巻かれる音が、他の音よりもよく耳に届いた。
 ねえ、旅人さん、見て御覧なさい。最初はこんなに小さな歯車から始まっているのよ。それが長い年月を経て、この大きな歯車たちを動かすまでになったの。
 歯車は親指の爪よりも小さなものだった。それがせわしくなく回転している。それらが組み合わさり、徐々に大きな歯車に動力を伝えていく。やがては私の背格好よりも大きな歯車を回し、それがさらに一回りも二回りも大きな歯車を回していく。そうやって、〈世界の終わり〉は動いていた。
 私はただその壮大さに圧倒されていた。一体、どれぐらいの歳月をかければ、これらを回すに至る力を与えることが出来るのだろうか。彼女らは一体、いつからこれに生命を吹き込み続けたのだろうか?
 君たちは一体、どれぐらい〈世界の終わり〉に捩子を巻き続けているのかな?
 もう、ずっと昔からよ。きっとあなたが生まれる前、その母が生まれるもっと前から。あたしたちは二人で捩子を回し続けているのよ。一日も欠かすことはないわ。あたしたちの母も、その前の母も、みんなそうやってきたわ。あなたの故郷にこんな風習はなかったかしら? 神様の前で毎日、手を合わせ祈る。それと、あたしたちが捩子を巻き続けるのは同じことなのよ。いわば、これは祈りよ。旅人さん、あなたはあたしたちに無限に続くかもしれないこの時間の中で、君たちは待ち続けるのかい? と言ったわ。あたしたちは待ち続けるわよ。そして、毎日欠かさず、〈世界〉に生命を吹き込み続けるわ。たとえ、まだ見ぬ未来が悠久の向こうにあったとしても、あたしたちはこの〈世界〉が動き続けるかぎり、希望を捨てたりはしないわ。それでもあたしたちの時間は有限よ。いつか、あたしたちも母のように朽ち果てるわ。だけど、あたしたちはそのとき、あなたのことを思って後悔なんてしない。あたしたちは子にそれを託すわ。その子たちもきっと待ち続けるでしょう。旅人さん、あなたも見たでしょう。あの白と灰色の混ざった砂漠を。あの白色は昔あった建物の跡なのよ。建物がすべて風化して、砂漠の一部となったの。あんなにあるのよ。もしかすれば、あの砂漠全部が昔は〈世界の終わりの村〉だったかもしれない。歴史はくり返されるのよ。たとえ、今、あの〈世界の終わりの村〉がすべて砂となってしまっても、またいつか誰かがこの土地に生命を吹き込み、緑一杯の土地にして、活気あるところにしてくれる。今までもそうだったかもしれない。今、あたしたちが踏みしめている大地の砂はすべて〈世界の終わりの村〉だったかもしれない。一体、何年、何十年、何百年、何千年の歴史をあたしたちは踏みしめているのかしら。繁栄と滅亡を繰り返し、それでも再び繁栄する。それが永遠と続く限り、〈世界の終わりの村〉はなくならないし、あたしたちもいなくなることはないわ。
 それは君たちの世代では叶わないかもしれない。それでもかい?
 あたしたちの子供はあたしたちよ。そして、あたしたちの親もまたあたしたちなのよ。そこでは連続性が保たれている。いわば、永遠に死なないのよ。あたしという存在は失われることがなく、永遠に続いているわ。
 だけど、君たちは君たちの母を知らない。
 いいえ、あたしたちは知っている。この〈世界の終わりの村〉の歴史も、この〈世界の終わり〉の歴史も。
 そうじゃない。私が言っているのは君らの母がどんなことを思っていたのかを知らないということだ。君らは知らないだろう。たとえ、君らが歴史を知っているとしよう。だけどそれは母を知っていることとは全然違う。
 彼女らはそれに答えなかった。捩子巻きを鞄の中にしまい、彼女らは〈世界の終わりの村〉に引き返す。彼女らの後をここへ来たときのようについてゆく。彼女らは道中、ほとんど黙っていた。私も彼女らに話しかけづらかった。唯一、彼女らは私に一言だけこう言った。
 旅人さん、〈世界の終わり〉は素敵なところだったでしょう?
 私は頷く。彼女らはいつものように小悪魔のような笑みを浮かべた。それ以上、彼女らとは話していない。ただ黙々と砂漠を歩き続けた。この砂漠が昔の建物のなれの果てだと思うと、とても歩きにくかった。この下で数多の人間が生き、死んでいった。栄華の歴史もあれば、没落の歴史もある。差別の歴史があり、平等の歴史もある。繁栄の歴史があり、虐殺の歴史もある。豊作の歴史があり、凶作の歴史もある。ありとあらゆる歴史がこの砂の中には眠っていた。


つづく


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