『SINKER(S)』

著/キセン

 天使(のようなもの)が触れたものが雪のように融けてゆく。学校も、図書館も、野良猫も、缶ジュースも、下水路も、すべて等しく。ひととおり触れ終わったところで、わたしは隣に座って休んでいる天使(のようなもの)に、これでいいのかなと訊いた。天使(のようなもの)は、きみはいくじなしだねと云った。どうしてとわたしが訊くと、天使(のようなもの)は笑って、だってそうだろう、みんな君の望んだことなんだ、それなのに、これでいいのかなって、おかしいじゃないか。
 そうだけどと、わたしは呟く。これはみんなわたしの望んだことなのだ。
 もうあらかたのものは融けてしまっていた。残っているのは、わたしと天使(のようなもの)だけだ。街が融けてできた白い液体に浮かびながら、わたしは天使の(ようなもの)の手に触れる。その瞬間にわたしと天使(のようなもの)も融け始める。天使(のようなもの)に触れたすべては――あなたも、あなたの飼っていた犬も、あなたの詩も、わたしも、あなたとともにいた昼休みの記憶も、消えようとしている。でもそのとき、わたしは見つけてしまう。天使(のようなもの)の握っている手、それはわたしのものではない。融け残ったあなたの手だ。わたし(のようなもの)は融けながら沈んでゆく。あなた(のようなもの)とともにある天使は、ずっと浮かんだままだろう。


『模倣』566文字

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