『超能力の惑星』

『超能力の惑星』

著/霞 永二

原稿用紙換算40枚

一日目


 探索隊が乗った宇宙船がその星を発見したとき、はじめは、危うく見過ごされてしまうところだった。環境は地球型なのだが、使い切り式の超小型衛星からの映像では、地上に文明が存在している様子はなかったからだ。
 だが、衛星の使用制限期間ぎりぎり最後に送られてきた映像に、巨大な人工建造物と思われるものが写っていたため、第二級の調査対象惑星となり、まずは探索隊による一ヶ月の先行簡易調査が行われることになったのである。
 宇宙船に乗っていた探索隊のメンバーは七名。
 船長にして、異星探検家のアンディ・パートランド。丸顔に眼鏡、職人気質。
 宇宙船技師、バリー・アンダーソン。陽気な酒飲み。もっとも、宇宙船内では飲酒は制限されているのだが。
 環境学者、クリスティーナ・プロント。気の強い眼鏡の女性。
 文化人類学者のコリン・モルダー。中肉中背、ひとむかしまえの感じの男前だが、やや病弱な印象だ。
 科学者のデイヴ・バン。背が高く、やや痩せ方。頭は良さげだが、神経質そうな印象を与える。クリスティーナの恋人。
 異文明交流学者、スチュワート・クーパー。気の良いご近所のおじさん、という感じ。
 生物学者、ティナ・ウェイン。おとなしそうな、大和撫子風。
 なお、予算の都合上、これ以上に人員を増やすことは難しかったため、簡単な雑事はほぼコンピュータ制御である。

 宇宙船が建造物の近くに降りると、まずは大気の成分が調べられた。地球型だとはいえ、人間がそのまま降りられない可能性も大きいからだ。
 結果、酸素がやや薄いものの、十分な安全性が確認され、探索隊員たちは星へと降り立って行った。
 すぐ一〇〇メートルほど隣には、例の巨大建造物がそびえ立っている。映像で見るのに比べ、より迫力があった。
「過去に栄えた文明の遺跡である可能性が高いな。他の星の知的生物によるものなら、すでに廃棄されたのだろう」
 アンディが言って、周囲を見回す。
 一面には植物が生い茂っており、やはり文明が存在している気配はない。
「だが、たとえば地下文明の地上建造物である可能性もあるし、あるいはもっと想像も及ばないような生物によるものかもしれない。警戒は怠らないように」

 衛星からの映像や大気の成分からも予測されていたが、その星の生態系は比較的、地球に近いようだった。地球で見たような形状の植物もチラホラあり、大型の動物こそ見なかったが、多くの虫、爬虫類のような動物や、小さなリスかウサギのような小動物も見られた。
 周辺の状況から、差し当たっての危険は見当たらずとの判断がなされ、一行は建造物の探索にとりかかった。アンディを先頭にして、入り口から中へと入っていく。
 さほど広くはなく、ふたりの人間がやっとすれ違えるかどうか、というほどの通路である。ところどころに設けられている窓から光は入ってくるが、けっして明るくはなかった。
 また、通路の壁面に文字のような記号が書かれていることがあり、コリンやスチュワートの興味を惹いていた。
 しばらく進んだところで、扉にぶつかった。
 もちろん開けようとしたのだが、鍵がかかっているようである。頑丈なつくりで、押してみたり、鍵穴の型をとろうとしてみたりと、いろいろ試してみたのだが、簡単には開きそうにない。
 扉の表面にも、さきほどの記号のようなものが記されていた。
 コリンがその記号に顔を近づけて、しげしげと眺めてから、小型端末で照合をしていたのだが、しばらくして顔を上げ、
「ダメだ、これまでに地球で知られている文明のものではないようだ」
 と、首を振った。
「どうします? 爆破しますか?」
 バリーがアンディに訊ねる。
「いや、この記号が気になる。スキャンして、コンピュータに解析させてみてからにしよう。周辺の探索や環境調査もせねばならんし、続きはまた明日以降だな」
 一行は扉に書いてある記号を機械でスキャンし、その後の時間は周辺の探索に費やされた。

二日目


 探索隊が到着して最初の朝を迎えた。すがすがしい色の空には、沈みかけのこの星の衛星が薄っすらと見えている。星から見える衛星の大きさは、地球から見た月よりひと回り小さいほどで、あと数日で満月になる頃であった。
 惑星を探索する場合、起床や食事の時間は、その星の状況に合わせて決められる。幸いこの星の一日は約二十二時間と地球に近く、さほど無理な時間割を作る必要はなさそうだった。
 食糧は余裕を見て持ってきてはいるのだが、もちろん贅沢ができるほどではない。朝食はたいてい、シリアルを棒状やビスケット状に加工したものになる。
 西の空に昇りつつある太陽を見ながら、岩に腰を下ろして味気なさそうにボソボソとシリアルバーを食べていたスチュワートの隣に、コリンがやって来た。ふだんからやや病弱な印象なのだが、いつにもまして顔色が悪い。
「なんだ、早くもホームシックか?」
 スチュワートがからかったのにも反応せず、コリンは頭を振った。
「なあ」
「なんだ?」
「どうも、俺、超能力を身に付けてしまったみたいなんだ」
「え?」
 スチュワートは、まじまじとコリンを見つめた。正気を疑っていることは、言うまでもない。他星への旅は、慣れていても大きな精神的負担をもたらすものだ。
 だが、当然のごとくに信じていなさそうなスチュワートの様子を見て取ったコリンは、
「いいか、あの黒い石をよく見ていてくれ」
 そう言うと、石をじっと見つめ、目を細めて集中している表情になった。
 すると、驚いたことに、少しずつ震えだした石がコトリと動き、そのままコロコロと転がりだしたではないか。
 スチュワートは呆けたような顔になっている。
「ど……どういうことだ? おまえ、いつのまにこんな力を?」
「それが、自分でも分からない。今日起きたら、いきなり、できるようになっていたんだ。目覚まし時計がうるさかったんで黙らせようとしたら、いきなりぶっ飛んで行った。そのあとも、いろんな物が動き回って、部屋のなかはもうめちゃくちゃだよ」
 ふたたび頭を左右に振り、
「なあ、この力、この星や建造物と関係があると思うか?」
 不安げな表情で尋ねる。
「さあ、なんとも言えないな。みなの条件はほとんど同じはずなのに、そのなかでなぜおまえだけがそんな力を得ることになったのか……?」
 スチュワートは、その力は調査に使えそうだな、と言おうと思ったのだが、さすがにやめておいた。
 
「いいね。その力、今後の調査に役立ちそうだ」
 報告を聞いて、アンディは言った。
 けっきょく、前日スキャンした扉の記号は、宇宙船のコンピュータでは解析することができなかった。現在、最寄りの人類居住惑星へデータを送信し、解析を待っているところだが、数週間はかかる、とのことであった。
 そんなわけで、現状、この扉を開けないと建造物の調査が進まないのだ。
「爆破しましょう」
 バリーが言う。
「いや、ちょっと待て」
 アンディはコリンに目をやった。
「その力、試してみてくれないか」
 その言葉を予期していたのか、コリンは頷くと扉に集中した。
 十数秒後、その端正な顔が疲労で歪みかけ、バリーが「爆破しましょう」と言いかけたとき。
 ゴゴゴゴゴ。
 扉が動く音が狭い空間に響き、その先の空間が姿を現したのであった。
「ふう」
 少しよろめいたコリンだが、超能力が役に立ち満足げだ。
 一行はアンディを先頭に中へと進んでいった。
 だが、しばらく進むと、またしても扉があったのだ。もちろん、その表面には謎の記号。
「またなの? それに、この記号。けっきょく、たいした意味なんてないんじゃないの?」
 クリスティーナがうんざりした声をあげると、拳で記号の部分を叩いた。
「その可能性も大きいが、まあ、いちおうスキャンだけしておこう」
 アンディはそう言うと、コリンのほうを振り向いた。

 一時間後、十分に休憩を取ったコリンの念動力によって再び扉が開くと、やや広めの部屋に出た。中央部分には低い段が円形を作っており、片側にはベッドか棺のような台がいくつも並んでいる。
「よかった。また通路があって、扉だったらどうしようかと思った」
 コリンが肩で息をしながら、安堵の表情を浮かべる。
 だが、その肩に後ろから手を置いたバリーが、くいっと顎をしゃくった。部屋の奥には、もう一枚の扉があったのだ。
「おいおい」
 コリンが、うんざりした表情になった。
「もう勘弁してくれ。だいいち、今日の朝に身に付けたばかりの能力で、自分でもまだよくコントロールできていないんだ」 
「まあ、扉がぜんぶ閉じているとも限らないさ。簡単に開くかもしれん」
 スチュワートがそう言いながら、扉に手をかけたが、
「なんてことは、やっぱりないようだな」
 そう言って、肩をすくめた。
「よし、そちらの扉を開けるのは、明日にしよう。また、コリンに頼むことになりそうだが。今日は、この部屋を徹底的に調べることにする」 
 アンディが一同を見回す。
「もしあの記号が文字に類するものだとしたら、部屋中が記号だらけな可能性もあるしな」
 デイヴの言葉に、みなも頷く。
 クリスティーナが、部屋の片側に並んでいるベッド、あるいは棺、に近付いた。
「ねえ、ちょっと見て。デイヴの言う通りだわ」
 その面している側の壁には、さきほどの記号のようなものが、いくつも記されていたのだ。
「さっきと同じ形のもあるみたい」
「よし、今日はこの部屋の文字を全てスキャンしよう。それに、建造物だけに関わってるわけにもいかん。周辺環境の調査もまだ残っているしな」
 アンディが言い、その日は部屋の中の文字のスキャン及び解析、周辺の植物や鉱物の調査、サンプル収集に費やされた。

三日目


 到着して三日目の朝、前日の夜遅くまで映像を調べていたクリスティーナが、真っ青な顔をしてデイヴにうったえていた。
「私……どうかしちゃったのかしら?」
「どうしたんだい?」
「なんだかおかしいのよ。超小型衛星の映像をチェックしてたんだけど、撮られていないはずの映像が、いつのまにか追加されていくの」
「どういうことだ? 衛星がまだ機能しているっていうことか?」
「もちろん、はじめはそれを疑って、調べてもみたわ。けど、衛星は呼びかけにも反応しないし、通信も完全に切れてるのよ。なにより、もう動力が残っていないはず」
 クリスティーナにうったえられ、デイヴも困惑顔だ。
「おかしいのは、映像を点検していて、私が、これのもっと詳しい映像をほしいなと思うと、しばらくすると、ちゃんとその映像が加わっているの」
「君の意志が関係している、ということかい?」
 デイヴが眉間に皴を寄せた。
「もしそうだとしたら、私に原因があるってこと?」
 クリスティーナの声が大きくなる。
「落ち着くんだ、可能性の話をしているにすぎない」
「でも……。昨日のコリンのこともあるわ」
「関係があるとは限らないじゃないか」

「どうしたんだ?」
 他の者たちもやってきた。
 デイヴが、みなに説明する。 
「もしかして、それって念写ってやつじゃないかな?」
 バリーが言った。
「いいかげんなことは言わないほうがいい」
 と、スチュワート。
「だが、検討してみる価値はある。コリンのこともあるしな」
 アンディのひとことで、実験が始まった。
 まずは機械の異変でないことが確かめられ、やがて、新たな映像を映し出す力が、クリスティーナの能力であることがはっきりとしてきた。
 そして、数回の実験を繰り返し、アンディが結論を口にした。
「どうやら、間違いないな。彼女は、念写の力を身につけたようだ」

 分かったことをまとめると、こうなる。まず、写真、データ、動画、いずれの形式でも念写可能であること。だが、好き勝手にどんな映像でも念写できるわけではなく、クリスティーナが対象に関係のある場所や物、人を特定できるのが条件であること。
 この星の映像でも、衛星からの映像でフォローできていなかった場所のものは無理であった。
 また、ここからいちばん近い人類居住惑星の映像が映らなかったことから、距離的な限界があるか、あるいは星間の飛躍はできないらしいことも判明した。

 そして、この実験の副産物として、衛星からの映像のひとつから、驚くべきものが念写されたのである。
 彼女のコンピュータ端末に現れた映像を覗きこんだ一同は、それを見て呆然となった。
「これは……」
 いま彼らがいる森の中の建造物。それとほとんど同じものが念写されていたのだ。
 ただし、今いる場所と違い、周囲はゴツゴツとした岩山である。
「映像を解析しているときに、かすかに写ってるのを見つけて、気になっていたの。コンピュータで拡大しても分からなかったんだけど、いま念写してみたら……」
 クリスティーナは言うと、さらにもう一枚の映像をみなに見せた。
「これは……」
 その建造物のなかの部屋であろうことは、前日に発見した部屋とそっくりなことから推測できた。そして、部屋のなかの棺状のベッド部分には、ヒューマノイド型の生物が何人か横たわっている。人間よりもやや大きい、二メートル強くらいだろうか。眼を閉じており、意識のない状態のように見える。
「この星の住民だろうか?」
「その可能性は大きいな」
「しかし、これは、眠っているのか?」
「断言はできないが、仮死状態に近いんじゃないか? コールドスリープには見えんが、なにかわれわれの知らない技術があるのかもしれん。こちらも、あの部屋と棺は、もっと詳しく調べてみる必要がありそうだな。この建造物、どれくらい離れているか分かるか?」
「映像からの分析だと、三〇キロほどだと思います」
「遠くはないな」
「もっと詳しく念写できないのか?」
「やってみようとしてるんだけど、これ以上は無理みたいなの」
「こちらの探索を早めに切り上げるべきか」
「だが、何も無かったのならともかく、できれば、超能力について解決してからにしたい。あちらの調査も、もちろん行わねばならんがな」
 アンディはそう言うと、みなを見回した。

 建造物の部屋については、前日にいったん調査を終えていたのだが、念写の結果を得て、再度の調査がなされることになった。
 いっぽうで、部屋の奥にある扉の重要性も高まった。
 こちらは、またコリンの念動力で開けるしかない。
「頼んだぜ」
 バリーが扉を軽く叩いて振り向いた。
 コリンは頷いて、精神を扉に集中させる。
 能力も成長しているのか、前日ほどの消耗ではなかったものの、やはり扉が開く頃には、疲れた表情になっていた。
「お疲れだな。だが、まだ先は長そうだ」
 アンディが、眼鏡の位置を直しながら言う。
 扉の奥には、通路が続いていた。

四日目


 目覚めてすぐにアンディは、身の回りの物に対して意識を集中してみた。
 念じることで、それらが掻き消えたり、あるいは爆発したりはしないか。それとも、みなの考えていることが分かるのか、未来の光景が見えるのか?
 だが、彼の番はまだのようだった。遠隔作用能力で、森が一瞬で消失したりしていなければだが。

 さすがに三回目ともなると、すでにみな、ある程度の予測がつくようになっていた。
 今日はいったい、どんな超能力のおでましだろう? そして、それはすぐに判明した。
 ラウンジに集まった面々が、思い思いにコーヒーを飲んだりシリアルバーをかじったりして、なんとなくなにかを待っている雰囲気のところへ、やけにスムーズにスイスイと歩いて姿を現したのは、バリーであった。
「見てくれ、この足」
 浮いていた。
「どうやら、飛べるようになったみたいだ」 
 彼はフワリとさらに浮かび上がり、空中をぎこちなく動き回った。たぶん、まだ飛ぶことに慣れていないのだろう。
「こいつはいい」
 天井に頭をぶつけているバリーに、アンディが叫んだ。
「宇宙船の右舷のアンテナが一本、折れかけているんだ。あとで直しておいてくれ」

 いっぽうこの日、建造物内の各所に記されていた記号の解析作業に大きく進展があった。サンプル数が増えたため、コンピュータによる解析がはかどったのだ。
 その結果、驚くべきことが判明した。
 はじめの扉には「念じることで物を動かす」、二番目の扉には「遠くの事象を映像として焼き付ける」、と記されていたのである。
「これは、ふたりの得た能力そのままじゃないか」
 デイヴが思わずそう洩らした。
「そういえば」
 と、コリン。
「はじめの日にこの文字に触れたのは、俺だった。次いでクリスティーナ、そして、バリー」
「間違いなさそうだな」
 アンディも頷く。
「この文字に触れた者は、その表している能力を得ることになる、ということのようだ」

 いっぽうで、建造物自体の調査は遅々としてはかどらなかった。
 コリンの能力のおかげもあって内部の探索こそスムーズに進むのだが、その調査・分析が思わしくないのだ。建造物が造られた年代すら、幾通りか試された測定法の結果が全て異なるために、特定できないでいる。
 この日の調査でも、これといった発見はなく、新たな通路と扉の発見に終始した。
 そして、デイヴが偶然にひときわ暗い通路に入ってしまい、そのなかで手を動かして、方向を探ろうとしたとき。手が壁に触れ、文字にも触ってしまったようだと、すぐに気が付いたのである。もっとも、その文字の解読はまだできていなかった。

五日目


 スチュワートがラウンジに行くと、すでにほとんどの者が顔を揃えていた。
「今日は……」
 と言いかけると、みながデイヴのほうに顔を向け、いくぶん青い顔の彼が頷いた。さすがに気分は良くないのだろうが、やはり、覚悟はできていたのだろう。
「で、どんな力を授かったんだい?」
 彼が、目の前にある机の上のシリアルバーに視線をやった。
 集中した表情で、じっと見つめている。
 数秒後、シリアルバーに火がつき、メラメラと燃え始めた。 
「発火能力……パイロキネシスと呼ばれている力か」

 この日、午前の調査が終わり、昼食時のことだ。
 クリスティーナが料理をしようとキッチンへ向かいかけると、すでに先客がいた。どうやら、中心になっているのはスチュワートのようで、コリンとデイヴが脇を固めている。
「コリン、胡椒をとってくれ」
「ラジャー」
 コリンが念じ、胡椒のビンが浮かび上がると、スチュワートの手におさまった。
「よし、じゃあさっきの玉葱をたのむ」
「アイアイサー」
「よし、デイヴ!」
 火がついた。
 料理が順調に出来上がっていく。
 どうやら、いささかショックを受けているデイヴを料理に誘い、気を紛らわすとともに能力の向上も図っているようだ。
 クリスティーナは、顔を出して大きな声を出した。
「ねえ、今から船内の掃除をするから、コリンをこっちへ回してもらっていい?」
「こっちも料理で忙しいんだよ。バリーを誘ってくれ」
「バリーが掃除の役に立つなんて思ってるの?」
 昨日飛べるようになったバリーは、すっかり舞い上がり、空中散歩に余念がなかったのである。

 この日、この星に来てから隊員が順に会得している能力について、改めてこれまでに分かっていることがまとめられた。
 建造物を調査するにつれ、隊員が超能力と思われる能力を得ていっている。そして、建造物内の壁面など各所に記されている文字に触れてしまった者が、翌日に能力を得てしまうことは間違いないようだ。また、その記されている文字が、そのまま得られる能力を表しているようだ。
 能力を得たことによる、身体や精神への直接的な悪影響はない。
 はじめは動揺し、調査の早期切り上げなども検討していた一行だが、こうしてみると、意外なほど危険はない。
 とはいえ、これまでのところ、という限定はつく。今後もこの建造物を調べていくうえで、どのような危険が待ち受けているかもしれない。これまでの超能力の会得が、なにかの警告であったという可能性もあるだろう。

 いっぽうで、調査はこの日も、ほとんど進展がなかった。通路を進むことはできるのだが、それ以上には何も判明しないのだ。探索隊のまえにそびえる巨大な建造物は、まさに障害物として、彼らのまえに立ちはだかっているのであった。
 これまでに採集した文字の解読が終わりしだい、もうひとつの建造物に向かうべきでは、という意見が大きくなってきていた。
 そして、この日も、気をつけていたにもかかわらず、スチュワートが文字に触れてしまった。

六日目


 ぼんやりとした表情でスチュワートがラウンジに現れた。まだ朝も早いためか、バリーの姿しか見当たらない。どうやら、前日にこっそり飲酒し、そのままそこで寝てしまったようだ。
 その隣に座ると、スチュワートは静かにこう告げた。
「やはり、私の番が来てしまったようだ」
 眠そうにまぶたをこすりながら、バリーが答える。
「で、どんな力だい?」
「予知能力のようだ。だが、五分後限定だ」
「五分限定? よし、ちょっと待っててくれ」
 立ち上がっていったん自室に戻ったバリーは、手にカップヌードルを持って帰ってきた。
「分かった、じゃあ、このカップヌードルが、五分後にどうなってるか、予知してくれ。このシリアルバーを賭けよう」
 そう言ってシリアルバーを取り出すと、カップに湯を注いだ。
 スチュワートはじっとカップヌードルを見つめて集中していたかと思うと、顔をあげて言った。
「食べ切るよ。スープまで飲み干す」
 バリーは鼻を鳴らした。
「だって、俺が食べなきゃいいんだろ? この勝負、もらったな」
 そう言ってニヤニヤ笑っている。
 だが、ちょうどその一分後のことだ。
「あら、いい匂いね」
 そう言いながら、クリスティーナが現れたのである。
「私にも食べさせてくれる?」
「ああ。どうぞどうぞ」
 バリーは、カップとフォークを彼女に渡した。
「ありがとう」
 と言い、彼女は何口か食べたあと、
「いけないわ、あんまり食べちゃ悪いわね」
 そう言って、カップとフォークを戻そうとした。
「いや、いいんだ。ぜんぶ食べてくれて。俺、もうお腹いっぱいなんだ」
「そうなの?」
 スチュワートは首を横に振る。
「妙な超能力のせいで、みんな弱ってるんだから。しっかり食べて、体力をつけないと」
「ああ」
「食べないの? それとも、私が口をつけたのが嫌だったかしら?」
 クリスティーナが眼鏡の弦を上げる。
 そこまで言われてしまっては、あとが怖い。
 バリーは不自然に笑うと、麺をすすり始めた。クリスティーナがじっと見つめているので、食べるのをやめるわけにもいかない。
 きっちり、予知がなされた五分後、バリーはスープを飲み干し、カップとフォークを置くと、スチュワートを見て苦笑した。
「予知した未来は、変えることはできないってわけか?」
「まだ、そこまで分からないよ。自分の感触としては、不可能ではない感じなんだけど」
「そうか。まあ、いろいろと試してみるしかないか」
 スチュワートは首をすくめた。
「ねえ、いったいなんの話? このカップ麺がどうかしたの?」
 勝手に納得しているふたりに、クリスティーナは不可解な表情だ。

「なるほど、五分間限定の予知能力か」
 アンディは腕を組んで唸った。
「それで、予知内容は変えられないわけだな?」
「いえ、それはまだなんともいえないですね。あくまで五分後の時点で、私自身に知覚できる出来事のみ、有効なようです」
「そうか。これまでのみなの能力以上に、調査に活かせるかもしれんな」
 アンディが頷きながら言った。
 この日も、建造物の調査に目立った進展はなかった。もっとも、スチュワートの予知能力を調べるのに、けっこうな時間を費やしてしまったためでもある。
 そして、ひとり真面目に建造物内を探索していたティナが、文字に触れてしまったのであった。

七日目


 毎朝ラウンジに集まることが、みなの習慣になりつつあったが、青ざめた顔をしてティナが現れたのは、全員が揃ったあとのことだった。
 何かしらの力を得ることには慣れつつあったので、ここまで顔色が青くなっているのには、どんな能力を得てしまったのかと、みなが心配することになった。
 彼女は言った。
「どうやら私の能力は、テレパシーみたい」
 みなの反応は、驚いた顔が半分、やっぱりという顔が半分だった。超能力というからにはテレパシーも含まれていないと、などと思っていた者もいるのだろう。
 みなを見回しながら、ティナは続ける。
「テレパシーといっても、好きなように人の心が読めるようになったわけではないわ。携帯電話みたいな感じを想像してもらえれば、分かりやすいと思う。私が集中すればメッセージを送ることはできるけど、みなが集中してくれないと、私はメッセージを受け取れないの。クリスティーナ、私に対して精神を集中してもらっていいかしら?」
「ええと、こんな感じ?」
 クリスティーナがティナのほうを向く。
(ええ、それでいいわ。どう? 伝わってるでしょう?)
 クリスティーナの顔に驚愕が走る。
(これって……すごい!)
「おいおい、ふたりして黙り込んでちゃ、なにも分からないよ」
 デイヴが不満げに言った。
「じゃあ、あなたも試してみてよ」
 クリスティーナに言われ、こんどはデイヴがティナと向き合う形になった。
「こうかい?」
(そう、そんな感じ)
(すごい! なんだこれ!)
 このあとも、みながかわるがわる彼女と通信し、能力も解明されていった。
 もっとも、距離の限界があるのかについては判断がつかなかったので、翌日、もうひとつの建造物の調査に向かうときに、確認する課題のひとつとなった。

 だが、さっそくティナの能力が役に立つときが来たのである。
 この建造物を調査するのもこの日で一区切りの予定であったため、調査は日暮れ過ぎまで続いていた。各人がそれぞれ、建造物内を探索していたのだが。
(みんな、例の部屋に集まって、急いで!)
 という呼びかけが、みなの心に届いたのだ。
 数分後には、全員が部屋に顔を揃えていた。
「これは……」
 みな、思わず息を飲む。
 部屋の中央の円形の部分に、立体映像が浮かび上がっていたのだ。
 それは、もうひとつの建造物で眠っている人々とも、違う種族のようだった。身長は人間の成人男性の平均ほどだろうか。
 だが、皮膚が灰色で、頭部はツルリとしたヘルメット状になっており、鼻と耳がない。
 その映像が口を開いたとも思えないのに、全員が同時に語りかけられたと感じた。どうやら、ティナと同じ、テレパシーのようだ。
(ようこそ、諸君。これで、君たちのチームも、無事に編成が終わったことになる)
(チーム? 編成? どういうことだ?)
(君たちと同じように付加能力を持った同じ人数のチームが、すでに用意されている。対戦相手が揃うのを待っていたわけだ)
(もしかして、それは、もうひとつの建造物のなかで眠っている連中のことか?)
(そうだ。彼らも、数十年前に君たちと同じようにこの星にたどり着き、超能力を与えられ、現在は眠りについているのだ。なお、超能力については両チーム同士互いに秘密なのだが、リーダーだけにはあえて能力を与えず、その種族のもとの能力で戦ってもらうことになっている。その者だけは、その種族の武器を使っても良い。なお、他の者が武器を使おうとしても、無効になる)
(これから……戦うということか?)
(その通り。これから君たちには、対戦競技に入ってもらう。君たちのチームと相手のチームのそれぞれは、本拠地を守りながら戦うことになるのだ。敵チームを全滅させるか、敵のリーダーを倒したうえで本拠地を占拠すれば、勝利となる。今宵、この星は満月の夜を迎える。月が中天に昇ったときが、戦いが開始される合図だ。なお、すでに相手チームも眠りから覚め、ほぼ同じ映像を見ているはずだ)
「本当だ、目を覚ましているわ……」
 クリスティーナが手元の端末を見て、声を上げた。
 そこには、現在の相手チームの様子が念写されている。
 だが、そのとき、手元を覗き込んでいた相手チームのひとりが、顔を上げた。
「……、向こうも、こっちを見てる!」
 彼女の端末に念写されていた映像にノイズが入り、続いて画面そのものが暗転した。
(これから先は、相手チームの本拠地内部の様子は、念写不可能になる。また、同じく相手チーム本拠地中心部では、各超能力は使えなくなるので、気をつけてもらいたい)
(目的はなんなんだ?)
(この対戦は、この惑星で行われる、第二十三回目のものだ。その模様は、中継を通じてわれわれの星域に届けられ、君たちの言葉で言うと、お茶の間に情熱と感動をもたらしてくれるのだよ。そのために、両陣営に与えられる能力も、できるだけ公平になるように調整している)
(あの文字のことか……)
(では、存分に戦って、われわれを楽しませてくれ)
 立体映像がフッと掻き消えた。
 みな、部屋の中央の映像が消えた部分を眺め、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
「なんてことだ」
 やがて、しぼり出すように、デイヴがつぶやいた。
 それを合図としたようによろよろと外に出たアンディに、他のみなも続き、そして空を見上げた。
 すでに日は沈み、月は六〇度ほどの角度になろうとしている。


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