『講談社ノベルス25周年記念復刊で読書会』

『講談社ノベルス25周年記念復刊で読書会』

対談/キセン × 秋山真琴

キセン 2007年8月から11月にかけて講談社ノベルス25周年記念復刊と称して、12冊の講談社ノベルスが復刊されました。そこで、今日は12冊全部を読んだもの同士、この復刊を通して、メフィスト賞以前の講談社ノベルスを振り返ってみたいと思います。よろしくお願いします。
秋山真琴 よろしくお願いします。メフィスト賞以前と言えば『〈移情閣〉ゲーム』の解説において、佳多山大地が名誉メフィスト賞を与えるような遊び心を感じると書いていたね。
 書いてましたね。それで、復刊する12冊を選出したのが新本格ミステリ作家の綾辻行人と有栖川有栖のふたり。綾辻は1987年に『十角館の殺人』でデビュー、有栖川は1989年に『月光ゲーム』でデビューですね。
 こんなに列車物が多いのは、きっとふたりの趣味だろうね。
 でも2作じゃないですか。
 『急行エトロフ殺人事件』と『列車消失』と……あれ、なんかもう1作ぐらいあったような気がしてた。気のせいか。12作中2作なら、列車が入っていても、まあ、いいかな。ところで、どうしていきなりこんな企画を思いついたの?
 僕も秋山さんも、言うなればメフィスト以降の世代じゃないですか。そんな僕らが、メフィスト以前の作品について改めて語り合うというのは、それだけで有意義ではないかと思います。
 なるほど。確かに20代前半の我々が、この80年代から90年代にかけて刊行された、古きよき……と言えるかどうかは分からないけれど、少なくとも古くはある講談社ノベルスを読むというのは、面白いことだね。それに復刊企画を考えた編集部の意図は色々あっただろうけれど、その内のひとつに若い読み手に昔の傑作を教えたいというのもあったかもしれないね。
 はい。それに新本格に繋がる流れというのもありますよね。ないのもありますけど。
 綾辻以前ということ? ちょっと時代順に並べてみない?

1982年10月刊行辻真先『急行エトロフ殺人事件』
1983年10月刊行竹本健治『狂い壁 狂い窓』
1983年11月刊行連城三紀彦『敗北への凱旋』
1984年05月刊行都築道夫『新 顎十郎捕物帳』
1984年09月刊行戸川昌子『火の接吻 - キス・オブ・ファイア』
1985年09月刊行多島斗志之『〈移情閣〉ゲーム』
1988年10月刊行皆川博子『聖女の島』
1990年09月刊行阿井渉介『列車消失』
1990年10月刊行中西智明『消失!』
1992年12月刊行江坂遊『仕掛け花火』
1993年03月刊行今邑彩『金雀枝荘の殺人』
1993年08月刊行井上雅彦『竹馬男の犯罪』

 ……並べてみました。『十角館の殺人』は1987年9月刊行なので『〈移情閣〉ゲーム』と『聖女の島』の間ですね。ということは、ちょうど半分の作品が綾辻以後になりますので、このラインナップは新本格以前と言うより、メフィスト以前という感じですね。あ、いま気がつきましたけれど『列車消失』と『消失!』って同じ年の、連続した月で刊行されてるんですね。
 ほんとうだ。バカミスが人気だった時代なのかもしれないね。
 ちなみに第1回メフィスト賞受賞作『すべてがFになる』が刊行されたのは1996年4月、第0回メフィスト賞受賞作とも言われることのある『姑獲鳥の夏』は1994年9月ですね。
 なるほど、そういう視点で見ると、1982年に始まった講談社ノベルスの歴史のなかで、満遍なく取り揃えられた感があるね。
 偏りがあまりないですね。


※以下、『講談社ノベルス25周年記念 綾辻・有栖川復刊セレクション』12作品のネタを割っています。未読の方は、ご注意ください。


【鉄道、分かりませんか?……『急行エトロフ殺人事件』】

 それでは『急行エトロフ殺人事件』から始めましょうか。
『エトロフ』で何がいちばん感心したかって、昭和57年に刊行されたことを知ったときかな。作中には架空のものを除いて昭和20年代と昭和57年というふたつの時間軸があるじゃない。これを秋山は、どちらも過去の物語として読んだんだよね。平成の現在からすれば、昭和57年も昭和20年代も同じ過去だから。だけど、この本が刊行された当初、昭和20年代は過去に違いないけれど、エピローグの昭和57年の方は、まだ過去ではなかった。と言うか、むしろ現在だった。したがってこの小説を刊行直後に読んだひとにとって、この物語は過去と現在を描いたものであったけれど、平成の世に生きる我々からすれば過去の物語でしかない。読まれる時代によって読み方が異なるのは当然のことだけれど、こういったかたちで見せ付けられたことはなかったから驚いた……のだけれど、なんだかあまり反応が芳しくないね。驚かなかった?
 驚きませんよ、最初から分かってることでしたし。
 え、もしかして解説とか奥付とか先に見る派?
 見ますよ。
 へえ、そうなんだ。自分は真っ当と言うか、純真な本読みだからそんな読み方はしないけどね。
 でも復刊ですよ?
 それはそうだけれど、どれぐらい過去の作品までかは分からないじゃない。ほら、自分は純真な本読みだから、そういう邪推を交えずに自然体で読んだわけよ、だから驚いた。
 そうですか。内容に関してですが、僕が感心したのは第6章において子どもが実行犯だったと明かされることです。この作品はある意味、反戦ミステリでもあり、かつ若者たちを主人公にさせるなどしていることからコミカルな面もあると思います。にも関わらず実行犯が子どもという点において、陰惨極まりない……とまでは行きませんが、あまり救いがない物語だと思いました。これは、テーマを読者に伝えるという観点においては、実に上手いですよね。
 子どもが犯人と言うのは、いまではそう珍しくもないけれど、確かに当時はインパクトが絶大だったかもしれないね。とは言え、自分は君ほど楽しむことはできなかった。
 鉄道、分かりませんか?
 分からない。これは後で『列車消失』のところでも言及するだろうけれど、自分は列車がほんとうに分からない人間なんだってことが、この小説を介して改めて分かった。
 でも、この作品の場合、鉄道トリックは流していいものだと思いますよ。もちろん、分かることができれば、その方がいいんでしょうけれど「ふーん」で流す程度でも問題ないと思います。ちなみに時刻表の見方とかが分からないんですよね?
 うん、さっぱり。
 156ページですね。
 そこは瞬間で読み飛ばした。
 まったく分からないんですか? 僕もそんなに分かる方ではないんですけれど……子どもの頃とか、家に時刻表が置いてありませんでした?
 なかったよ。
 ぱらぱら捲ったりして「ああ、これに乗れば北海道に行けるなあ」とか空想しませんでした?
 しなかったよ。
 そうですか。僕は鮎川哲也が好きなんでわりと読んでいるんですが、長編の列車ミステリでは、上手く乗り換えたとか、実は書いてない列車が走っていたとかがあって、そういうのは細かく説明されると長くなってしまい冗長になるんですけれど、時刻表だとばーんと載せるだけで済むと思うんですよ。
 文章で説明してくれた方が分かりやすい。
 だから、それは秋山さんが時刻表の読み方を知らないからですよ。まあ、でも、この作品に関して言えば「書き下ろしSFミステリ」って表紙に書いてあるくらいですから、架空の世界を舞台としたSFパートが読みどころなので、列車は分からなくても問題ないと思いますよ。
 現実世界によく似た別の世界ってことね。傍点の振ってあるところが創作なんだっけ。
 傍点って何のことですか?
 傍点の振ってあるところが現実の出来事とは異なる、辻真先の創作なんだよ。って言うか、解説に書いてあるよ、ほら、ここ。
 あ、ほんとうだ。へえ、そうだったんですか。
 解説から読んだんじゃなかったのかよ……。
 では、秋山さんは列車パートがよく分からなかった。僕はテーマを作品に紐付ける手腕がお見事だと思いました。それにSFにして、ミステリにして、冒険小説でもあり、それらが240ページという短さのなかに収まっている点も素晴らしいと思います。


【コアなファンはいつの時代もいるだろうから……『狂い壁 狂い窓』】

『狂い壁 狂い窓』はふつうに面白かったです。ところで秋山さんは常々、竹本健治が苦手だと繰り返していますけれど、何がそんなに駄目なんですか?
 いや、さあ、竹本健治は地の文が読みにくいと思うんだ。次に、会話文も読みにくいと思う。
 それって、全部じゃないですか。
 そう、残念ながら文章の全部が鼻についてしまう。したがって気合を入れて読み進めようとしても、すぐに突っかかってしまい、どうにも先に進むことが出来ない……と言うのは今までに読んだ作品のことで『狂い壁』に関して言えば、何故かすらすら読むことが出来た。けれど、問題はイメージが伝わってこない。読んでも読んでも頭のなかを素通りしてしまうような。やっぱり、相性が致命的に合わないのかもしれない。
 そうですか、僕は面白く読めたんですけれど、では何処が面白かったか話そうと思ったら、何も思いつかなくて驚きました。特に語ることがないんですよね。
 じゃあ、怪奇について語ろうか。解説で東雅夫が、竹本健治がいたからこそ、綾辻行人、京極夏彦、小野不由美、恩田陸といった後続作家が世に生まれることが出来たと書いているけれど、正直なところ竹本健治には、あまり怪奇を感じないんだよね。
 この作品に関しては、僕も怪奇を感じませんでした。それっぽい、怪奇によく似た……狂気のようなものは感じますけれど、最後には落ちてしまいますし。
 おどろおどろしさを演出しようという気配は感じるんだけど、映像が思い浮かばないからいっこうに怖くないんだよね。
 それは相性じゃないですかね。ここで言っている怪奇って言うのは、人間の心の闇のことじゃないですか。つまり、幻聴などではない、人間の精神的な部分としての怪奇ですよね。
 え、そういう怪奇もあっていいと思うけれど?
 まあ、それはそうなんですけど……しかし、この作品に関しては、ほんとうに語るべきところがないですね。まあ、そこそこ面白い、佳作ってことですかね。
 そうだね……あ、思い出した。これは解説が面白いんだよ、256ページ。当時のラインナップが紹介されているんだけど、確かにこのラインナップのなかにこの本があったら、それは注目を浴びただろうと思うよ。
 逆に言えば、当時の編集部はよくこれを混ぜようと思いましたね。
 うーん、コアなファンはいつの時代もいるだろうから、そういうのを狙い撃ちにしようという意図があったんじゃないの。
 個人的には佳作から出るものではないんですけどね。


【暗号って言うのは伝わらないんですよ……『敗北への凱旋』】

※以下、江戸川乱歩『算盤が恋を語る話』のネタを割っています。未読の方は、ご注意ください。
 次は……『敗北への凱旋』ですね!
 急にテンションが上がったね。
『凱旋』は文章がいいんですよね。トリックも僕は凄いと思いました。友だちは、バカミスだって言ってましたけれど。でも、バカミスを覆す文章力があるんですよ。
 文章力ももちろんあるけれど、なんだろうね、ロマンとでも言えばいいのか。バカミスとひとに言わせない、本読みの心を惹きつけるロマンがあるよね。文章も上品で、情緒があって、素敵だった。と言うか、目次デザインからして格好いいよね。他のとは一線を画してるよね。
 あ、ほんとですね。他のはふつうですもんね、ちょっと凝ってますね。ところで僕、これ正月に読んだんですよ、1月1日。
 あ、いいタイミングで読んだね。しかし、これが復刊セレクションの第1弾に入っていたのは幸運だったね。
 ラッキーでしたね。
 米澤穂信の解説も素晴らしいし。
 いいですね。
 これを機に、解説の仕事が増えればいいね。
 そうですね。……いやあ、でもほんとうに文章がいいですね。僕は序章が好きですね。ここだけで、なんだかぐっと来ますよ。
 分かる分かる。でも、ふたりして褒めてばっかりだと気持ち悪いから、ここは今ひとつだったというのを指摘しようか。
 僕はないです。敢えて言うなら暗号ですかね。
 自分はありだと思ったよ。
 暗号って変なものですよね。さっきまで乱歩全集を読んでいたんですが、乱歩に『算盤が恋を語る話』っていう作品があるんですよ。そろばんの数で暗号を作って、それを毎朝、好きな同僚の机のうえに置くという物語なんです。で、ある朝、好意を伝えた暗号に対して、承諾の返事が来るんですよ。主人公はそれで舞い上がって、暗号で指定した待ち合わせ場所に行くんですけれども、待てども待てども想い人は現われない。ふしぎに思って職場に行って、出納表を見てみると、偶然「いいわよ」と意味する暗号になるように出納表がなっていたんですよ。
 悲しいね。
 つまり、暗号って言うのは伝わらないんですよ、ダイイング・メッセージと同じで。不毛性を秘めていて、探偵が出てこないと本来は解けないものなんですよ。だから、探偵の出てこない乱歩だと解かれない、でも『凱旋』には探偵が登場してくれたから解かれた。
 面白い分析だね。暗号、と言うかダイイング・メッセージと言えば、霧舎巧が『ラグナロク洞』においてダイイング・メッセージ講座を試みていたよ。
 霧舎は『カレイドスコープ島』まで読んで、もう追えないと思いました。
『カレイドスコープ島』まで読んだのなら『ラグナロク洞』はもう次じゃない。ダイイング・メッセージ講座のところだけでもいいから読んでよ。
 分かりました、積んでいるので、帰ったら探します。
 で、『凱旋』だけど、悪いところを探そうと思ったけれど、ちょっと難しいね。むしろ素敵なシーンがあったことを思い出したよ、あの、曲を覚えさせるところ。手を重ねて、からだで覚えさせるのがいいよね。ロマン溢れる、ハートウォーミングなシーンだと思う。
 腐女子っぽいと思ったのは僕だけですか。
 腐女子? ああ、そういうことか。それは君、気持ちが悪いなあ。自分は全然そういう発想はなかった。純真な本読みだから。
 ははは。
 後は連城の筆致ゆえか、当時の雰囲気がとても出ていたようにも感じた。戦後の暗い、陰鬱とした空気や、女性の華やかだったり艶やかだったりする雰囲気が、知りようもないはずなんだけれども想像できてしまう。もしくは「想像できた!」と読者に錯覚させるだけの文章力があった。
 そうですね、見えますからね。
 いや、見えてないんだよ。見えてる気持ちにさせられてるんだよ。しかし、ああ、結局、褒めてしまった。そうだなあ……あ、ひとによっては古くささを感じるかもしれないね、って、古いんだから仕方ないけどね!
 昔の小説ですからね。でも、83年当初からしても、この小説は古くさかったと思いますよ。
 前年に発表された『エトロフ』と比較しても古いからね。
 しかし、連城はいいですね。
 いいね。そろそろ次に行こうか。
 連城三紀彦の『敗北への凱旋』は傑作! ということで。

→中盤戦へ

この作品をはてなブックマークに追加この作品をはてなブックマークに追加


読み終えましたら、web拍手をお願いします。壁紙をプレゼントさせていただいております。

目次へ戻る