『歓喜の魔王(終) SWASTIKA OPERA.』(vier)
■四節 友達殺し──Holocaust.
黒衣の死神は青い炎から飛び出すなり、お前を抱えて屋上から垂直に落下した。靴に仕込んだ刃を壁面に叩き込み、溝を刻みながら速度を調整。機を見計らって壁を蹴り、立ち木との間を往復し減速して着地を完了した。地面に下ろされ、お前はまじまじと幽鬼のごとき仏頂面を見つめる。
「え、何。マサオが。マサオって名前で、言うこと聞いた!?」ああ、初めての事態だな。「偉いっ、下僕合格!」下僕て。
……下僕か。何やら当人が己の人生を見つめ直すかのように、樹木に手をあてて少し物思いに耽っておるが。死人が後ろを振り返っても仕方あるまい。
「よーしっ、行くわよあんた達!」
お前が意気揚々と校庭の方角を指さすと同時に、屋上から飛び降りたヘルモルトが首を妙な方向に曲げて地面にのびた。トゥバルカインは一足先に軽く着地に成功している。地面を抜ける訳にはいかんから、落下に対して壁抜けは無力だ、とか言っている内にこやつは直るから問題はないが。
「これからって時に気を削がないでよ、もう」お前がぼやく間に、復活したヘルモルトがその身を抱えあげた。
疾走が始まる。
「淫獣・ポチ、前へ!」
「Wau《わん》!」
犬呼ばわりされながら、トゥバルカインは意気揚々と突撃する。腕から足から垂れる鎖は、さながら喜びに撥ねる走狗の尾。機嫌を反映してますます速く、鋭く、打擲と言うよりも寸裂じみた鉄の鞭を振る舞う。機械人形と学園生徒を区別なく、腱も脂も鋼も骨も油も髄も、纏めてずたずたの肉雑巾に変えて打ち斃した。
私は我が娘とその友さえ無事なら、他の者がいくら摘まみ食いされようと一向に構わん。無論、優先すべき攻撃目標はあのデクであって、積極的に狙う対象でもないが。しかし、犠牲になる分には関知せん。対策したいならば取りたい者が取ればいいのだ、あの女のように。
外套の裾を翻して、屍山血河の不安定な悪路を死神が奔る。この世を冷たい刃で分断し、分割し、芸術的なまでの光条だけ残して、血の海に満ち潮を呼んだ。アスファルトの黒とコンクリートの灰を、鮮血の真紅と、骨肉の紅白と、鋼鉄の銀灰がかさぶたのように覆っていった。
ああ、これは恐ろしい。無辜の民がどれほど死んだのだろうな。悲しむべき事だ、あってはならない事だ、業の深い事だ。我らの贄に申し分ない!
「これよりこの地は閣下の聖餐に。我ら騎士は歓喜の魂、嵐を言祝ぐ唄歌いとして、殺戮を歌うのみでございますれば」
歌うような抑揚と共にヘルモルトが放った弾丸が、機械化兵の胸を撃ち抜いた。
機械と人間を融合させ、無線誘導する機械化歩兵《ベトルシュカゾルデン》は数が多いばかりで動きも単調なただのデク。対して我が騎士は、往時には一個師団とも単身渡り合った、誇張抜きの一騎当千。故に、それらはただの障害物でしかなく、鎖に刃に弾に虐殺されるのみ。一方的に殺され、一方的に死ぬ。
そう、これは虐殺《ホロコースト》だ。一方的に殺され、一方的に死ななければならない。運良くそれを逃れえた者は怯えに縛られ、我々は誰にも見咎められる事なく血の進撃を慣行する。三人の騎士に守られながら、お前はただ親友の姿を探す事に集中した。その瞳に、一面の屍は映らない。
技術教室棟と教員棟の間を抜け、目の前が開ける。屑鉄の巨人が座す校庭まで一直線。だが、その手前に看護服の少女達がいた。教授の護衛にして介護を勤める自動人形・ベルタとブリギッテ。おそらく機械化歩兵よりは手ごたえのある相手だ。
ああ、そういえば現代日本語では看護職就業者は性別に関わらず『看護師』と呼称されるようだが、私が日本語を習得した頃にはそんな呼び方はしなかったものだ。よって浪漫のためにも、ここは慣れ親しんだ『看護婦』という呼称を使わせてもらうぞ。よいな、我が娘?
(でもお父様も、十五年も現代日本語の中で私と暮らしてたんじゃなかったっけ)
よいな、我が娘。
「は、はい……」
ちなみに白い服の赤毛がベルタで、赤い服の金髪がブリギッテだ。む、逆だったか? ベルタ(多分)が膝をつき、肩に担いだパンツァーファウストの筒先をこちらに向けた。筒の細さに反してぼってりと肥大した先端──成形炸薬弾が火と煙をあげて発射される。弾頭と併走し、ブリギッテが吶喊した。
校庭側に面した教員棟の一角には、来客用の玄関がしつらえられている。パンツァーファウストが見当外れに着弾し、自転車置き場の一角を崩した。トゥバルカインは後退し、教職員・来客用の駐車場で一台のクラウンに目をつける。それを下から掬いあげるように蹴り、浮いた車体を束ねた鎖で作った二本の腕で支えた。お前が何事かと振り返り、その行動を見つめていると、向こうもこちらに笑い返して、車体に手を添える。そして無造作に──ぶん投げた。
自身を囲む世界と建物が崩壊する様を、直接肌で感じるような轟音。
人間が武器にするには運転席に乗り込まねばならない鉄塊は、圧倒的な重量を駆使して垂直に自動人形を轢き殺した。当然ながら自壊は免れえず、三分の一が潰れて、残りは自身の残骸に支えられ、倒立したまま静止する。
車体が浮き、その下から両の腕で懸命に重量を押しあげる白い看護婦の姿が垣間見えた。さすがに一台では無理と見て、トゥバルカインは立て続けに手近の二台を投入した。一五〇〇キロ×三の重量の上に、更にトゥバルカイン自身が走り寄って飛び乗る。それを阻止するはずの赤い看護婦からの援護射撃はない。
カインが投げた一台目とすれ違ったマサクの手にかかって、ブリギッテは十字に四分割されて斃れている。
虫をいたぶる子供のように、トゥバルカインは嬉々として車体の山に拳を降らせ、自身と車と拳打の重量でベルタを叩き潰した。
ふむ、機械化歩兵よりはと言っても、所詮はこの程度。護衛であるこやつらを片付けたから、今や教授は丸裸だ。搭乗している機動兵器は勘定に入れる必要すらない。マサクの象徴たる巨大な鎌から、一切合切を生と死の地平に片付ける闇が幾重にも閃き、細切れにされた巨人は地に沈むように高さを失う。元々が廃材で作られていた機械人形は、正確に三〇センチ幅の輪切りにされ、正しく粗大ゴミの山と化した。
その山の一角がごそごそと動き、マサクの横に並んだトゥバルカインがそれを蹴飛ばす。呻き声と共に、車椅子の老人が未だ半身をガラクタに埋めながら、姿を現した。久しいな、教授。
『く、か……、はは、第三帝国では自らの運命を共に作品にするのは冥利の発明者!』
捨て台詞を吐いて、教授は車椅子の肘掛に並ぶコンソールを操作した。背もたれの後ろが開き、そこから焼きあがったトーストのようにウエハースチョコが飛び出す。舌打ちして別のボタンを弄ると、今度は埋まっている部分から何かが発射され、空中で落下傘が開いてゆっくりと降下した。
……三頭身の看護婦人形だ。何に使うのだ? 笑える芸でも始まったのかと思わず見守ってしまうではないか。
それからも、ボタンをいじるたびにあっちからこっちから、怪しげな薬瓶だの、導火線のついた黒いボールという爆弾っぽい何かだの、やけに精巧な魚のロボだのが飛び出した。いい加減殺したそうに、許可を求めてカインとマサクがお前を見やるが、もう少し見ていようかどうしようかと迷いが消えない。
「何か血を吐いたけど……まだ何もしてないわよね、私達」あれは日課の健康法、別名ただの持病だ。
幾つ目かのボタンで肘掛がスライドし、ようやく教授はお目当ての物を見つけた。黄色と黒の縞で囲まれた赤いボタン。そして髑髏の印とGEFAHR《危険》の文字──これ以上言う必要がないくらい何のためのスイッチか分かりやすい。お前は騎士達に号令をかけた。
ひ弱な教授には得物を用いる必要すらない。マサクの掌が教授の顔を掴み、その首を片手一本で捻り切って終わらせた。
教授の──アエテルヌム・エクス・マキナの魂を私は握り締める。休息と許しは我が手の中に。だがそれは貴様の物にはならない。故にマキナよ、祈るがよい。死の中でこそ貴様が望む永遠は与えられるだろう。我が供物となりて、鏖殺の歌声に加わるべし。
「お嬢様、あれ」
ヘルモルトに呼ばれ、指差す方向にお前は生徒の一団を見出した。自衛のためにモップやホウキといった手近な武器を持ち、不安げに身を寄せながら、強烈な敵意をこちらに向けている。お前は弾かれたように走り出し、一団の元へ向かった。
「──星乃」
生徒達の中心に、お前は探していた友の姿を認める。まるでその立ち位置がそのまま彼女の立場であるように、半分に数を減らした級友達と共に現れ、お前を冷たく見据えた。不可解な友人の変貌と、ついさっきも同じ学園の生徒を殺した騎士と一緒にいる気後れに、思わず怯んでしまう。だが、今更それを後ろめたく思うのか? 殺した事を後悔するなら殺させなければよい、殺した後でそれを悔やむのでは、殺された方もたまったものではなかろう。
殺す時は断固として相手を絶滅するべきだ。そこに後悔や躊躇の念を挟んではならない。まあ……お前も分かっているだろうが、情は追いつかぬか。
「よかった、衣奈。無事で」
ふっと頬を緩め、唇を綻ばせ、さざなみが広がるように星乃嬢は笑った。心から友を案じていた者のような、陽だまりの匂いがする笑み。何だ、先ほど冷たく見えたのは、異常事態に対する警戒心がそう思わせたのか。状況に対する都合の良い解釈と安堵がお前の胸と頭を占める。
「本当に嬉しいわあ。衣奈が生きててくれて」
「星乃……あのね、私」
彼女はこちらに近づいてくる。その手を取ろうとお前は腕を伸ばし、何某かの言葉を吐こうとした。それは今更の贖罪か、それとも他愛のない互いの友情の確認だったか。だが哀しくも星乃嬢は、お前の愛を否定する。独り善がりで欺瞞に満ちた、寂しさの代償行為を跳ね除ける。
「あんたはわたしに殺されなあかんのやからな、衣奈ぁ」
拒絶と憎悪を込めた刃が、お前の腹を突き刺した。
体の全感覚が停止したのは一瞬、心臓が跳ね、その鼓動に乗って痛覚が全身に波及する。
取り返しがつかないのではないかと思うほど深く侵入した異物の存在を嫌悪し恐怖しながら、お前は動く事も出来ず宙に縫いつけられたように立ち尽くした。星乃嬢の周囲にいた同級生らは、マサクとカインの手で崩潰させられたが、我が騎士達はお前を刺し貫く当人に触れる事も出来ない。
彼女こそが今、お前の命を握っていた。息の根に手をかけて、さてじわりじわりと締めようか、それとも一息に断ち切ってしまおうかと楽しげに迷っている。実際、眼鏡の奥で星乃嬢の瞳は愉悦に歪んでいた。夕焼けを映しこんだような、赤く燃える緋色の瞳が。
「ひどいわなあ、衣奈。悠美花の次は先生と、クラスのみんなまで。今度はわたしも殺すん?」
手首から軽く捻りがかけられ、押し寄せる痛苦が嘔吐となって喉を焼いた。お前は声をあげる事も出来ず、閉じる事を放棄した口から飲み込めなくなった唾液を垂らす。指の先まで痺れるような熱さの中、体は逃げるために動くことすら放棄して責め苦に耐える。痛覚に塗り潰されきっていない触覚は、腹から生じた湿り気がスカートと下穿きの中にまで広がっていく事を教える。
「ちが……ころ、さない。ともだちは、殺さない……」
それでもお前は、震える唇と引きつった舌を動かし、そう告げた。眼鏡のレンズが陽光を反射し、輝きがそのまま彼女の鋭い眼差しに重なる。己の眼光よりもなお鋭く、お前を貫く刃のように、嘘つき、とその言葉が胸を抉った。単純で正当で当然で反論を許さない断罪の語が、お前の嘘を打ち砕く。
黒園衣奈は友達殺しだ。友達を殺した相手と仲良くやって平気でいる。今もそいつらにクラスのみんなを殺させた。同じクラスの友達なのに。同じ学校の友達なのに。みんな仲間なのに。みんなの友達なのに。あの子もこの子もその子も誰かの友達で、黒園衣奈は自分の友達も友達の友達も先生の友達も他人の友達も殺す友達殺しだ。独りが寂しいからみんなも独りぼっちにさせたいの? だったらお前が死ね、独りで死ね、苦しんで悶えて泣いて狂って寂しく死ね。死んで。死ねよ。死になさい。死んじゃえ。死んでしまえ。死んでくれ。死にさらせ。うぜえ死ね。死ななきゃダメでしょ。死ね。死ね。死、
悪意の言葉と感情の洪水が痛覚を上回ってお前の意識を混濁させる。私の思考に何かが割り込んでくる!?
衣奈の腹腔を貫く刃から流れ来るのは、痛みだけではなく何者かの意志。即ち呪い。星乃嬢のあの瞳──これもまたシャルラッハの差し金か。ああ、痛い。くそ。衣奈、耳を貸すな。歯を喰いしばれ、忍耐を揺り起こせ、その娘を突き飛ばして早く手当てを……。
「あいにくとそりゃ筋違いってもんですよ、このアマっこ」
ヘルモルトの手が星乃嬢の手首を掴んだ。抵抗した拍子にずるりと刃を抜かれ、お前の体が痙攣する。舌打ちしながら、入れ違いのようにヘルモルトは星乃嬢の腹に手を突きいれた。物質透過。腹膜を透り抜け、臓腑に手をかける。
「はい、毎度おなじみ、あなたの街の壷抜き魔でござあい。さあ、動けば内臓くじ引き・アタレばDEATHE、ハズレは無し! 肝臓が出るか脾臓が出るか膵臓が出るか賭けますかね!?」
体内を涜《けが》されるおぞましさに戦慄しながら、星乃嬢は手にした銀を薙いだ。宙から沸くように血飛沫が弾け、それがお前の頬を打つ。血の雫は、マサクが切り飛ばした星乃嬢の左腕から迸る一滴で。ナイフはお前の体液に濡れたまま、断絶した腕と共に空を飛ぶ。狂々々々《くるくるくるくる》と、回転しながら。
星乃嬢の腕の中途を、噴水のように弧を描く緋の流出が占めた。あるはずの物が失せ、異質な物に奪われたという違和が、そのまま痛苦への共感へすり替わる。
「だ、め! 殺さないで、殺さないで、コロしちゃだめっ」
息切れと吐息と嗚咽の中から捻り出された言葉に、騎士達は忠実に従った。それでも、突き入れたヘルモルトの手は内臓を掴んだまま、マサク・マヴディルの手斧はぴたりと星乃嬢の細い首筋に刃を定めている。トゥバルカインだけは、何も出来ない。たとえ素手でも、触れれば大なり小なり茨の棘は命に刺さる。健康な状態であれば蚊に刺されたほどの事とはいえ、今の我が娘には触れさせられない。
腕を失った衝撃で転倒し、仰向いた星乃嬢は、濃朱に染まる肩をがたがたと血溜まりの中で跳ねさせながら、お前と騎士達を交互に睨みつけた。血よりもなお紅く、朱金に煌めく瞳で。魔に魅入られた者の眼だ、シャルラッハ──騎士団十一位・紅天蛾《べにすずめ》“ブルート・シャルラッハ・シュテルン”にな。……ああ、頭が重い。血流に乗って全身に熱が循環してゆく。腹の傷のせいか。
私が思考を陽炎に揺らめかせたのは瞬く間もないほどの刹那。それでも、それだけの時間で、柳真奈は技術教棟の窓を蹴破り、三階分の加速を空中回転で相殺、音もなく降り立ち、ブレイクダンスじみた両脚の円運動でヘルモルトとマサクを蹴り飛ばした。ヘルモルトの首から頚椎の外れる音がかすかに鳴り、無様に地面に転がって動かなくなる。蹴りを斧で受け止めたマサクは柳の足首を叩き切りながら、殆んど無傷のまま星乃嬢から引き離された。片足の先端を失いながら眉一つ動かさず、相変わらず半欠けの顔で、内臓の除く腹のままで、柳は星乃嬢を守るようにその傍らに立つ。
なんだ。死んだ振りはもう終わりか。
「Oktaaaavia!」敵意を剥き出しにしてトゥバルカインが叫ぶ。
「えっ……。なんで、真奈。生き……て?」息も絶え絶えながら、お前のその疑問も尤も。
端的に言おう。この女は初めから死んでいたのだよ。銃弾に倒れた時、やけに血が少ないと思わなかったか? 多少は血を蓄えておいたのだろうが、やはり少々不自然な印象は拭えなんだな。首を直しながら、ゆらりとヘルモルトが立ち上がり、柳真奈を嘲笑する。
「そう、死体なんですよ、死体! ゾンビ! ステーシー! 尸娘《シーニャン》! アニメイテッド・デッド! レヴナント! ネクロイド! アングレイブ! 血も流れなきゃ涙も涎も屁も出ない、動く継接屍体《デッド・パッチワーク》!」
「死人に言われたくないね」柳が吐き捨てる。「このあたしに殺された時の事、思い出させてやろうか!?」
「忘れられやしないわよ。アタシの楽しみは旦那を看取る事だったのに、アンタのお陰で全部、パァ!」
ヘルモルトの延髄をマサクの斧が割った。見慣れた遣り取りを無視して柳は星乃嬢を起こし、応急手当をしながらお前に問う。
「黒園。やっぱりお前だったんだな。どうしてこいつらと一緒にいる? なぜ、そいつら騎士がお前に従う?」
「ど、して。あんたがそれを訊くの?」
「それがあたしの仕事だからだ。私は……聖葬矛《ロンギヌス》。対騎士団組織・聖葬十三矛機関《ロンギヌスサーティーン》の機関員」
星乃嬢が意識を失った事を確認してか、ついに柳はその名を口にした。はははは! 懐かしい名前だ、これは酷い。かつてのように、聖葬矛《ロンギヌス》が鉤十字《スワスティカ》を再び葬るか。いや……ヘブライの民を守るために造られた剣の片割れが、民族の敵を葬る。まったく道理!
「つまり、あん、たは……魔王を、騎士団を滅ぼした、連、中? 仲間?」
柳の答えは肯定。この女こそ第八罪の聖槍・シェイクスピア。第九罪者たる私を殺すための人間兵器。
「だったら、答えは一つよ」声を張りあげれば、開いたままの傷口が更に熱を発し、お前を責める。「あんた、はっ、私達の敵! お父様の敵は、私の、敵っ……だから、やっちゃいなさ、い。マサオ、へも介、ポチ! ……ッつ、ふぅ」
「その分にゃ文句ありませんが、それだったら、お嬢様に言っておかにゃならん事が一つあるんですよ。あ、いや、アタシらにゃ口出し出来る権利はないんで、閣下のご判断を待つばかりですけれど」そうだ。ヘルモルトが言う通り、真実を知らぬままお前と柳が敵対するのは避けねばならん。
「お父様? ……それ、どういう意味?」
「さっきから、何だ、お前達は。もう一人、会話に参加している何者かがいるのか?」
柳には私の声は聞こえてはいないが、ようやくその存在に気がついた。
柳真奈とは下手な嘘。この女の本名は、柳原早苗。すなわち、黒園早苗。あるいは、サナエ・オクターヴィア・ノイシュヴァンシュタイン。
衣奈。我が娘。お前の、母親だ。
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